俺、スライムになっちまった・・・第1章
初投稿です。
これから時間の許す限り、物語を書いていきます。
早い投稿はできないと思いますが、よろしくお願いします。
第1章 ー 終わり ー
終活ブログ
「まさか?と言うか、何を書いたらいい?
ことの経緯を自分でも整理しなきゃいけないと思いブログに残して見ようと思いつきではじめた。
俺は58歳、バツイチ、独身、仕事は製造工場で働き趣味は・・・これと言えるものが無い。
書き始めたらなぜか虚しくなってきた。まあいい、それよりも先月受けた健康診断の結果だ。
これに、精密検査が必要と言うことで病院に行って今日、結果を聞きに来たのだけど、その結果が膵臓癌しかもステージ4・・・余命宣告を受けた。相談する相手もいないので、自分で決めなきゃなんだけど、何から始めよう」
こんな事になるなんて、と思いながら、まだ冷静でいる自分に気がついた。
時刻はお昼、「お腹すいたな」。自宅に戻ろうと向かう先で見つけた定食屋、サラリーマンが忙しくランチを食べてる、会社の愚痴や打ち合わせの話しをしている横でビールを飲みながらブログを書いていた。
配膳をしている若いスタッフを何気に目を停めた、「そういえば、マキはどうしてるかな?」離婚の時以来会ってない娘、元嫁とはやりとりをしているので、帰ったら連絡することにした。
翌日、会社で退職の手続きを取り、数日は残務や引継ぎで出社することにし、夜に元嫁に合うことにした。
「意外と元気そうね」
「体調はいたって普通なんだ、これから徐々にむしばまれていくんだと思う」
そんなことを話しながら近況の報告、病院で言われたことを伝え・・・
「マキはどうしてる?」
「そう言うだろうと思って昨日連絡して、仕事が終わり次第来るからもうそろそろ・・・」
入り口を見ると、小柄な女性と目が合った。
「おとうさん?」
と言いながら近づいてくる。
「綺麗になったな…」
思わず漏れた言葉に
「でしょ~・・これでも結構モテるのよ。」
なんか、拍子抜けしてしまう会話の始まりだった、昔の面影を探しながら女性になった娘たちとの時間が過ぎていく。俺の唯一の遺伝子を受け継いだ娘。そう思うだけで、泣きそうになる。
「で、お父さんはこれからどうするの?」
「しばらくは今までどおりだよ。ただ、会社も退職するし、身の回りの整理もしなきゃな‥」
「手伝うことがあったら言ってね。」
あの可愛くて幼かった娘がいつの間にか大人の女性になって、彼女の成長を近くで見たかったと後悔したが、育ててくれた元嫁には感謝しかない。話が吐きそうに無い、後ろ髪を引かれる気持ちで2人と別れた。
「死にたくないなぁ・・・」
朝、起きても実感はない、この体がどれほど蝕まれているのか? しかし、ケジメだけは付けておかなきゃ。
終活ブログ
「今まで日記も書いたことが無い、物臭な自分だけど、なんとなく書く気だけはある様だ。
まあ、いつまで書けるかわからないが続けてみようと思う。
とりあえず、社長に退職の意向と検査の結果を伝え、元嫁やマキにも会って病状を伝えることが出来た。
膵臓癌ってこの先どうなるんだ? 分からない事だらけで、どうすりゃいいのかな?
いろいろ調べて見るか・・・」
「イッテェ・・・」
背中に近い腹の中から激痛が走る。
職場で残務整理をしている時に突然、身体から脂汗が湧き出し、その場に踞った。
「大丈夫ですか?」
意識が遠のく中、駆け寄る同僚の顔が・・・
返事も出来ずにその場に倒れた。
気がつくと自分がどこにいるのか分からなかった。
「俺、死んだのかな?」
「残念ね、まだ娑婆よ・・・」
誰?・・・顔を覗かれ娘に気づく。
「よかった、お母さん呼んでくるね。」
「・・・世話かけるな・・・」
どうやら2日程寝ていたらしい、仕事の合間を縫って看病してくれてたようだ。
「ありがとう、迷惑かけるな。」
「大丈夫よ、貴方が逝くまでみててあげるわ」
ちょっときついな、そのブラックジョーク・・・
「最初は悪い冗談で、私たちに会う口実なのかな?って思ったけど、どうやら本当みたい。」
「お父さん、私、製薬会社の仕事をしているの。人事の仕事だから、薬の事とかはさっぱりだけど、社内で癌とかの特効薬が開発されているの。今日、薬剤の開発部の部長と話したんだけど、話を聞いて見る気はある?」
「!・・もちろん、聞かせてほしい」
2日後、退院した俺は会社に向かい、退職日まで休業にしてもらい、その足でマキの製薬会社の指示した病院に向かった。
病院の応接室のようなところに通される、すでにマキ、病院の先生、製薬会社のスタッフらしき人たち3名。
挨拶もそこそこに・・・
「それでは本題に入りましょう。まずは猪飼さんの病名ですが、こちらでも詳細な検査は行いますが、前の病院のカルテを拝見しましても膵臓癌で間違い無いでしょう。進行も相当進んでいます。今まで何も無かったというのが信じられない程です。・・・」
なんか話が長くなりそう。そのあと一時間ほど説明を受けた。
要約すると、IPS細胞を利用した治療らしい。
詳しくは理解出来ないが、普通は体内から細胞を取り出し、培養してできた組織を使うのだが、それを体内で行おうとするのが今回の治療、がん細胞自体をIPS細胞にしてしまった後、同じ臓器に体内で培養するといった所かな?
「大丈夫?お父さん」
心配そうな顔で俺を覗き込む。
「ありがとう、色々気を回してくれて。・・・この治療、受けてみようと思う。」
悩んだところで自分の寿命がないことも、ましてや先日の苦しみを何度も味わうのはつらい。この話をもらった時点で、俺は覚悟を決めてきている。
覚悟を決めれば後は実行するだけだ、ただ、成功することが保障されている訳ではないからそのまま二度と目を開けることはないかもしれない。
成功する確率も分からない最初の実験のような物。気持ちが揺らぐ・・・
数日後、俺は集中治療室のベットの上で横たわっている。
部屋の外でガラス越しにマキが来ているのが見えた。
「お父さん、治ったら一緒にお酒、飲もうね。」
インターホン越しに聞こえる声に俺は手を振って答えた。
「それでは全身麻酔をおこなっていきますね。気持ちを楽にして、あとは私たちに任せてください。」
これでお終いなのかな?治してまたみんなに会いたいなぁ・・・
意識が薄れていった・・・