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ゆきちゃんと私

作者: 里見しおん

「おまえ、外に出ろ! 時間稼ぎしろ!」



 ぐいっと腕を引かれ、馬車の外に放り出される。

 止まっていたとはいえ、高さのある馬車の扉から勢いをつけて放り出されたアデルは体を激しく打ち、ごろごろと転がった。


「うぅ……!」


 あちこち痛くて涙が滲む。石に頭を打ちつけ、短い黒髪に血が滴った。

 目眩がひどいがアデルは必死で身を起こし、顔を上げた。


 目の前には、白に黒の斑模様の、見たこともない獣が鼻息も荒く迫っていた。

 ざり、ざり、とゆったりとした足取りで、まっすぐにアデルに向かってくる。その体はアデルが乗っていた馬車より大きく、踏まれたらひとたまりもないだろう。

 なにか魔法で対抗したいが、痛みと恐怖と混乱で頭が回らない。ぎらりと光る黒い瞳はアデルをしっかりと見つめ……

 頬をべろり、と厚く長い舌で舐めた。




「ぎぇぇぇぇ……! あ、うえぇ?!」



 その瞬間、アデルの脳内で記憶が弾けた。

 北の大地の農家に生まれた女の記憶。家族、牛、友達、牛、学校、牛、恋、牛、そして牛……。


 あらゆる思い出に牛がチラつくそれが前世の記憶である、とすとんとアデルにおさまるまで、ほんの数分。その間べろりべろりと顔を舐め回していた獣の顔にそっと触れ、聞いた。



「あなた、ゆきちゃん?」


「んもぉぉぉぉぉ!」



 獣は……巨大な乳牛は大きな声で鳴いた。

 歓喜の雄叫びであった。






 *




 ゆきちゃんはアデルの前世であるヒロコの家で生まれた仔牛であった。

 ヒロコが五歳になった頃生まれたその仔を、祖父と共に哺乳瓶で乳をやり、可愛がった。

 ゆきちゃんと名付けたのは某アルプスの少女のアニメの影響だ。あちらは山羊であったが、幼児にしてみればまぁ似たようなものだ。


 ずっと一緒だよ、と毎日かわいがってたのに、半年もしないうちにゆきちゃんは売られて行った。雄だったからだ。酪農家であるヒロコの家に、雄はいらなかったのだ。

 幼稚園から帰ってまっすぐ牛舎に行くと、いつもの場所にゆきちゃんはいなかった。ヒロコが泣いたら面倒だといない間に売られて行ったのである。


 しくしくと泣くヒロコに、父は「あいつならおいしいステーキになるだろう」と告げた。あんまりな言葉にさらに泣き、母の宥める声に耳を貸さず夕飯も食べずに泣き。翌朝ヒロコは朝食のソーセージとともに畜産の非情を飲み込んだ。


 食べるために、売るために育てているのだ。このソーセージにだって、うちから出荷した牛が使われているのかもしれない。

 それから牛に名前をつけたことはない。仕事と割り切って世話をした。あんなにも心を寄せた牛はゆきちゃんただ一頭だ。




『すき、やっとあえた、だいすき、だいすきなひろちゃん』



 だから顔を舐め回す巨大な乳牛から伝わってくる言葉で、もしかしてと思ったのだ。



『そうだよー!』




 歓喜の雄叫びを上げるゆきちゃんの首に、アデルはぎゅっと抱きついた。

 その雄叫びのあまりの覇気に馬車の中の人間たちが気絶したのだが、まったく知らなかったし知ったところでどうでもよかった。








 *




「まぁ、そうだったの。あ、私のことはアデルって呼んでね。今の名前よ」


『わかった、ひろちゃん……じゃなく、あでるちゃん』


「んー、なんだか語呂が悪いわね。やっぱりアディちゃんて呼んで!」


『あでぃちゃん!』


「うふふ、なぁにゆきちゃん!」




 楽しくおしゃべりをしながら、アデルはゆきちゃんの乳搾りをした。きゅきゅっとリズミカルに手を動かすと、ズドーと勢いよく乳が発射される。乳の出がとてもいい。

 ちなみに乳を受け止める寸胴鍋も腰掛けている木の椅子もアデルの収納魔法に入っていたものである。





 ゆきちゃんの話はこうである。


「メスだったらうちに置いておけたがなぁ」


 出荷の際耳に届いた父の言葉を、ゆきちゃんは忘れなかった。


 メスだったら。おんなのこだったら。ひろちゃんのそばにいられた。

 メスだったら。おんなのこだったら。ひろちゃん、だいすきなひろちゃんといられた。


 毎日ずっとそう考えていたそうだ。とても頭がいい牛だったのだ。

 そして気づいたら真っ白などこかで、女神と名乗る女性に抱かれていたらしい。……屠殺されたのだろう。



 女神は「ゆきちゃんの純粋な思いに心を打たれた。女の子にして、ひろちゃんの側に行かせてあげる」と告げ、ゆきちゃんを森に置いていった。うろうろと彷徨っていると、森の外側を通りかかった馬車にひろちゃんが乗っていると女神が囁いたので、馬車を追いかけたそうだ。

 そして護衛を跳ね飛ばし馬車を追い回し、逃げ惑う馬は御者を振り落とし、馬が疲れ果てて倒れ止まった馬車からアデルが放り出されて感動の再会となったわけだ。オッケーオッケー現状は把握した。




『ゆきちゃんがぶつかったらしんじゃうよってめがみさまいうから、ひろちゃん、じゃないやあでぃちゃんのとこまでゆっくりあるいたの』


「そうなのね、ありがとう。ぶつからなくてよかったわ。さ、もういいわ、おつかれさま」


 女神様グッジョブ。アデルゆきちゃんがぶつかったら死んじゃう。細かい配慮ありがたいです。

 生乳たっぷりの寸胴鍋を持ち上げながらふとゆきちゃんを鑑定をしてみる。







[名前]ゆきちゃん

[年齢]2

[種族]魔獣 ジャージー▽

[状態]健康

 ♡愛の女神の加護▽




 こんなに乳が出るなんてゆきちゃんは妊娠何ヶ月かな? もしかして産後? と思い鑑定したのだが魔獣ジャージーは妊娠していなくてもメスが成体になると乳が出るそうだ。ジャージーのとなりの▽をクリックしたら書いてあった。すごい。畜産革命である。




 少しゆきちゃんから離れたところに寸胴鍋を置き、指先で地面に触れ土魔法でかまどを作る。

 その中に火魔法で出した火の玉を放り込む。



「殺菌……は魔法でいいかな?」



 少し考えて、寸胴鍋ごと光魔法で浄化した。



 収納魔法から出した片手鍋で寸胴鍋の乳をすくい、燃え盛るかまどに載せる。


 すぐにぐらぐらと沸き浮いてきた膜をフォークでくるくるとすくい、はふはふと食べる。


「あちっ。牛乳といえばこれよね」


 ヒロコはわざと高温で沸かして厚めの膜を作るのが好きだった。

 やはり同じ魂、これはアデルの口にもあった。



『なぁにそれー? あでぃちゃん、はやくゆきちゃんのおちちのんでほしいの』



 ゆきちゃんが鼻先をアデルのつむじに押し付けてくる。

 出会いの感動もそこそこに、『おちちのんでほしいの』とゆきちゃんが言い募るため、馬車が停止したすぐ横で乳搾りをしながら事情聴取をしていたのである。



「これもゆきちゃんのお乳よ。栄養たっぷりの膜。ええとこれを冷まして……」



 片手鍋を火からおろし、氷魔法で包み込む。

 しばし待って氷魔法をキャンセルするとパキィンと鍋を包む氷が砕け、キンキンに冷えた牛乳の出来上がりである。

 ヒロコは膜は好きだが飲むなら冷たい牛乳派だったのだ。


「よし、じゃあいただくわね!」


 ゆきちゃんに鍋を軽く上げて見せ、そのまま鍋のふちに口をつけた。お行儀が悪すぎるが、これはヒロコの影響ではなくアデルの普段の行いであった。

 山育ちのアデルは生水は沸かし冷やして、鍋から直飲みしていたのである。




「んっ、んくっ……、ぷは、う、うまぁぁぁぁい!」



 こんなにおいしい牛乳、飲んだことない!!!


 喉をそらし鍋をあおり、ゆきちゃんの牛乳を一気に飲み干したアデルはあまりのおいしさに叫んだ。

 するとぱぁぁぁ! と淡く光るピンクのハートに包まれた。



『ゆきちゃんのミルクを初めて飲んだあなたに特別サービスよ♡ゆきちゃんと仲良くねアディちゃん♡んーまっ♡』


 無数のピンクのハートの中に浮かび上がった

 白く美しい女性の顔が優しく微笑み、アデルの額にくちづけをして消えた。




『めがみさまのかご、もらえた?』




 ゆきちゃんが嬉しそうに顔をすりよせてくる。

 これ知ってたから飲ませたがってのか。先に教えてゆきちゃん、アデルびっくりしちゃうから。


 確かめるため、片手鍋を握りしめた右手を鑑定してみた。



[名前]アデル

[年齢]15

[種族]人間 シュヴィー王国民

[状態]健康

[スキル]火魔法5

 土魔法5

 水魔法5

 氷魔法5

 光魔法5

 収納魔法EX

 鑑定EX

 ♡愛の女神の加護▽




 ▽愛の女神が贔屓しちゃう♡ラッキー♡



 曖昧! まぁ加護ってそんなもんよね。


 それにしてもアデル、ステータスすごくない?

 この国では魔法を使える人間は多いが、たいていひとつの属性。レベル3以上は珍しい。

 それが……なんだこのスキル。

 収納魔法か鑑定はどちらかを持っているだけで商会関係で引く手数多だしEXってなんだだし、火魔法5ってがんばったら一撃で国を焦土にできるし、土魔法5ってがんばったらその更地に一瞬で城を建てられるし、光魔法5なんて死んですぐなら蘇生できちゃうレベルだ。


 控えめに言って世界最強じゃない?

 アデル、ゆきちゃんがぶつかっても死ななかったかも。

 光魔法の回復が常時発動してるからさっき馬車から落とされて頭を打ったときの傷もすっかり良くなってるし。



 こんなハイスペックで、なんでメイドなんかやってたんだっけ?



 アデルは自分の着ているメイド服を見下ろす。

 白いエプロンが血と泥で汚れているのにいまさら気づき、光魔法で浄化した。

 血で張り付いていた髪もさっぱりさらさらである。


 きれいになったところでアデルの記憶を辿ろうと目を瞑る。

 ええと、アデルのパパとママは5歳の時に死んでしまって、それから……あーお腹すいた、なんか食べ物持ってなかったっけ……







「きみ、すげえな」



 不意に上の方から声がした。

 木の上からしゅたっと現れたのは、薄汚れたそばかすの少年だった。




「おれはピーター。乳を分けてくれるなんて、その獣をテイムしたのか?」


「私と彼女はお友達よ」


「へ、へぇ……??」



 記憶を探るのを一旦やめ、片手鍋に牛乳をすくい、かまどにかける。

 ふつふつと沸いてきたところで、数年前に収納魔法に放り込んだまま放置していたレモンを絞り匙でぐるぐると混ぜる。



「な、なぁ、おれピーター、獣が暴れてるって聞いて見にきたんだよ。きみは?」



 ふきんで濾し、氷魔法でさっと冷やしたらヒロコの母がよく作っていた、カンタンリコッタチーズの完成である。

 ヒロコの記憶を思い出すのに五万キロカロリーくらい使ったのかもしれない。とてもおなかが減っていた。

 アデルの収納魔法には暮らしの必需品がひと通り入っているので助かった。


「なぁってば、無視しないで」



 匙ですくいぱくりと口に入れる。



「うーん! ふんわり! まろやか! おーいしいー! ゆきちゃん、とってもおいしいわ!」


『わーゆきちゃんのおちちでおりょうりしたの? うれしー』



 ゆきちゃんがつむじに鼻先をこすりつける。

 さらさらになった髪がくしゃくしゃだが、我が友ゆきちゃんならばかまわないのである。

 しかしチーズはおいしいが、物足りない。炭水化物がほしい。

 クラッカーくらい入れておけばよかった……。アデルは収納魔法を使えることを仕えているお屋敷では隠していたので、昔から使っている道具しか入っていなかったのだ。




「それ、ちょっと味見させてくれないか。俺の黒パン一個やるから」



 そばかすの少年が、肩掛けカバンから取り出した丸い黒パンをアデルの目の前に差し出した。


「えっ! いいの? ちょうど欲しかったのよパン。ところであなた誰?」


「おれピーター。さっきから言ってんじゃん……。きみは?」


「私はアデル。遠慮なくいただくわね」



 ピーターの手から受け取った黒パンをむしっと半分に割り、リコッタチーズをたっぷりと塗りつけ、大きく口を開けてかぶりついた。




「んーおいひい! あ、あなたもどうぞ!」



 味見したがっていたことを思い出し、ピーターにもリコッタチーズをすすめる。

 ピーターは遠慮がちにほんの少し、自分の黒パンにのせて口に運んだ。



「うめー! あんな簡単に作ってたのに、すげーうめー!」


「ゆきちゃんのお乳が最高なのよ」


『あでぃちゃん、うれしーのー』


 つむじをこすり続けるゆきちゃんの鼻先を優しく撫でながらリコッタチーズと黒パンを貪った。

 少し落ち着いたけど足りない、あと30個くらい食べたい。



「おれ、向こうの山で羊飼いやってるんだ。その……お友達? と一緒に来ないか?」



 こちらも物足りなそうなピーターがもじもじとそう言った。


「えっ突然なに?」


「山はいい草がたくさん生えてるし放牧に最高なんだ。そいつ暮らしやすいんじゃないか? それで、このうめーやつ作って売ったりしねぇ? おれもっと食いたいし、かたいもんがくえなくなったばあちゃんにも食わしてやりたいんだ」




 そばかすの羊飼いのピーター。かたいものが食べられないおばあちゃん。

 ところどころ惜しいけど某アニメを彷彿とさせるわ。

 女神様、ヒロコとゆきちゃんのためにこちらの世界いじりましたか……!?


 ヤギじゃないんかいと言いたいところだけど羊は羊毛が取れるし、ヒロコのソウルフードとも言うべきジンギスカンが食べられるわね。

 ヒロコの実家の秘伝のタレの配合は完璧に覚えているわ。



『ゆきちゃん、くさがすき』


「ゆきちゃん、そうなのね! ピーター、行くわ! あら、ゆきちゃんのせてくれるの?」


 さっと道具を収納魔法に放り込み、頭を下げるゆきちゃんの背中にひらりと飛び乗った。

 馬には乗ったことがないけど前世で母の買った乗馬マシンでダイエットに励んだことがあるわ。ゆきちゃんのほうがぜんぜん揺れないわ、余裕ね。




「あの山はなんて名前なの?」



「えっ山の名前? アルームだよ」


 素晴らしいわ! 山には気難しいおじいさんがいるかしら。

 干し草のベッドは前世でやったけどちくちくして無理だったから羽毛を希望するわ。






「おい、おまえ、主人を置いてどこに行くんだ?!」


 馬車から顔を覗かせた若い男が怒鳴り声を上げた。

 すっかり忘れていた!ぼっちゃまとクソ執事野郎のことを!




「え、アデル! うわぁぁん! アデルどこに行くの、行かないでぇぇ! けほっけほっ」



 ぼっちゃまの泣き声が聞こえる。

 そうだ、喘息のぼっちゃまの療養に、お気に入りメイドのアデルはついてきたのだ。




 アデルは五歳で両親を亡くした。

 両親は商売をしていたのだが、家も店も親戚に乗っ取られ、自らも売られる危険を感じたため逃亡し、山に逃げ込み自給自足生活をしていた。

 生きながらえたのは魔法のおかげである。

 火をつけたいなーと思えば指先に火が灯ったし、寝床をどうしようと思ったら土で小さな穴ができ、潜り込んだ。

 両親が絶対に他人に知られてはいけないと言っていた収納魔法には多少の食材を入れてあったので、それで食いつないでいる間に狩りの腕を磨いた。

 仕留めた獲物を料理し、たまにこっそりと町に降りては獲物の毛皮と塩や服なんかと交換していた。過酷な人生である。


 教会でスキル判定を受ける前だったし、自分に鑑定魔法をかけるということを思いつきもしなかったので、アデルは自分のスキルがめちゃくちゃすごいと気づかないまま今まで生きてきたのだった。


 知ってたら逃げないであのクソ親戚どもは丸焼きにしていたというのに……!



 昨年、こっそりと取引をして山に戻る途中、山裾で泣いている小さなぼっちゃまを見つけた。

 仕方ないので背負って町に行くと、町中ぼっちゃまを探して大騒ぎになっていた。

 ぼっちゃまは領主様のご子息だったのだ。

 それでぼっちゃまに感謝され気に入られ、メイドとしてお仕えすることになった。

 文明が恋しくなっていたし、慕ってくれるぼっちゃまはかわいらしいし、否はなかったのだが、ぼっちゃま付きのクソ執事野郎はポッと出のアデルが気に入らないらしく、やれ品がないだのぼっちゃまにふさわしくないだのいちいちつっかかってきやがった。



 あげく囮として馬車から放り出したのだ。




 病弱なぼっちゃまは心配だけどクソ執事野郎が私を放り出すの止めもしなかったし、私がお仕えしてやる筋合いなくね? 

 ないね、ないない。


「ゆきちゃん、行こう」



 振り向きもせずゆきちゃんの歩みを早めるアデルを駆け足で追いかけながら、ピーターが聞いた。



「おい、めっちゃ怒ってるけどいいの?」


「いいのいいの。そのうち護衛が追いつくでしょ」



「そ、そうか……。おっあれ、うちの羊たちだ。おぉーい!」



 ぴゅーぅい!

 ピーターの指笛でわらわらと寄ってきた羊たちは、ピーターを素通りし皆ゆきちゃんの前でぺこりと一礼をして後ろに従った。


 なんてかわいいのかしら、これではジンギスカンにする気が失せてしまうわ。するけど。



「え、お、おれ、いらなくね……」



 ゆきちゃんのうしろを整然と歩く羊たちに、ピーターは自分の存在意義を見失い、項垂れたのだった。





 *




 アルームの山の暮らしはすばらしかった。

 空気は澄み渡り口笛はどこまでも響き、白い雲はアデルを歓迎し、ピーターの祖父である気難しいおじいさんはアデルのために羽毛布団を仕立ててくれた。

 いい羽毛の取れる鳥いるのよアルーム。




 アデルはゆきちゃんの乳でおじいさんとチーズやバターを作り、かたいものが食べられないおばあさんと羊毛を紡ぎ編み物をした。

 羊飼いの座をゆきちゃんに譲り渡したピーターは商会を作りそれらを売り捌いた。


 おばあさんは編み物の天才だった。この辺りでは誰もしていない、柄を編み込む技などを思いつき取り入れていたのだ。

 山奥に住んでいた上、ピーターもおじいさんも編み物の良し悪しなどわからない男だったので埋もれていたのだ。

 これは絶対売れる! とアデルが推しおばあさんの作品を売りに出したら即完売した。

 おばあさんの負担が増えてはいけないので村人を雇い編み方を教え、職人を増やしているところだ。



 トントン拍子に商売がうまくいったのは愛の女神の加護のおかげかもしれない。

 ちょうど空いた店舗があったりちょうど仕事が欲しい人に出会ったり、いちいちラッキーが続いたのだ。

 乳製品も編み物も品質が良いと噂になり遠くの町からも買い求める客が増え、村は賑わい、商会は潤い、慎ましく生活していたピーター一家は豊かになった。

 おばあさんの食べやすい柔らかい白パンだって毎日買えるのだ。



「ゆきちゃん、ありがとうねぇ、アデルちゃんもねぇ」


「ゆきちゃん、アデル、アルームに来てくれてありがとう」



 おじいさんとおばあさんがゆきちゃんを撫でてくれる。

 ゆきちゃんは俯き、『いいの、あでぃちゃんといれて、おちちたくさんのんでもらえてうれしいの』とアデルにだけ聞こえる声でつぶやき、しっぽを振り回した。

 ゆきちゃんはアデル以外には照れ屋さんなのだ。









「ただいまー。アデル、今日さ、きみのぼっちゃんが走り回ってたぜ」


 村から帰ってきたピーターがネクタイを緩めながら言った。

 ゆきちゃんのおいしい牛乳を毎日飲んで、ピーターはぐんぐん背が伸びたくましくなった。初めは照れていたスーツにネクタイの商会長スタイルが、すっかり板についていた。



「おかえりなさい。ぼっちゃまが? まだ村にいたの?」




 ぼっちゃまはそもそも別の、もっと先の大きい町に行く予定だったのだ。



「そうなんだよ、うちの……ゆきちゃんの牛乳やチーズが体にあったみたいでさ。滞在を伸ばすうちにすっかり元気になったみたいだぜ」


「さすがゆきちゃんの牛乳、すごいわ」




 元気になったぼっちゃまは村のこどもたちと楽しそうに駆け回っていたらしい。



 クソ執事野郎も「こらー! お戻りくださいクラウス様!」

 なんて言いながらも嬉しそうだったそうな。



 あいつが喜ぶのは癪だけどぼっちゃまが元気になってよかったわ!




「アデル、……アディ、ゆきちゃんの牛乳を飲んでるおれたちのこどもは、すげー元気なんだろうな」


 シャツを脱いだピーターがぎゅっとアデルを背中から抱きしめた。



「あら……夕飯は?」


「まだ早いよ、アディ、夕飯の前に……ダメか?」



 耳にかかる熱い吐息を、アデルはくちびるで受け止めた。

 ふたりはつい先日、夫婦になったのだ。

 お年頃の男女がひとつ屋根の下にいたらどうなるか、お察しってやつよね。

 結婚式のあとは盛大にジンギスカンパーティーをしたわ。飲み物はもちろん牛乳ね!


 ゆきちゃんのおいしい牛乳のせいかピーターったら毎日元気で大変お盛んで、アデル恥ずかしいけど幸せ!

 

 




 熱いくちづけを交わしながら、ふかふかの羽毛布団を敷いたベッドにふたり仲良く飛び込んだ。





最後がちょっとアレかな?とR15にしてみました。



私はいったい何を書いているんでしょうか、おしえておじいさん……。


タイトルしっくりきてないのでご意見ありましたらぜひお願いします!

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[良い点] ハッピーエンド! 村の暮らしや商売とか恋愛気になりますね! 転生系スローライフと商売成り上がりジャンルですかね? [気になる点] ゆきちゃんと同種の乳牛の魔獣牧場に増えたのでしょうか? …
[一言] ペーターじゃなくて、ピーターね! リアルタイムで見たアニメを思い出しつつ(笑) ゆきちゃんの牛乳のおかげで、アデルのおっぱいも羨ましい大きさになっていそう
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