8. 帰らずの森の主(2)
「グアアアァァァ……!」
足が燃えるように熱い。
しかし、熱さは腿より上には上がってこない。
「ハッ!」
俺は辺りを見渡す。
そこには、先程までいたフォレストドラゴンも、魔物の群れも居なかった。
「助かった!」
ギリギリ、フォレストドラゴンに消し炭にされる直前に、転移する事に成功したようであった。
しかし、成功と言っても、足が炭化するほど焼け焦げている。
一歩でも歩けば、崩れ落ちてしまいそうだ。
俺は急いで、魔法の鞄からポーションを取り出し、炭化した足に振り掛けた。
すると炭化していた足はミルミル再生していき、最終的には傷一つ無く元通りとなった。
「良かった、元通りになった」
『帰らずの森』で採取した薬草で造るポーションは、特別製だ。
教会て売ってる最上級ポーションより、10倍は効果が高い。
俺が住んでる村の教会で造られてるポーションは、他の街で作られてるポーションより効果が高いと言われているが、俺が作るポーションは、その教会のポーションに比べても効能が凄いのだ。
教会のポーションを作るのに使われてる薬草は、『帰らずの森』の結界の外の薬草だが、俺が作るポーションは、結界の中で採取した薬草で作っている。
『帰らずの森』は、特別な森なのだ。
同じ種類の薬草だとしても、『帰らずの森』の中央付近で取れる薬草と、結界の外で取れる薬草とでは、その効能には天と地の差がある。
『帰らずの森』は、中央に近づけば近づく程、魔素濃度が高く濃密なのだ。
その魔素に当てられて育った薬草は、他の場所で育った薬草と違って魔素をたくさん含んでいる。
必然的に、その薬草で造ったポーションは、効果が高くなるという訳だ。
村の教会で造られてるポーションも、効果が高くて有名なのだが、俺の造るポーションと比べる事など出来ない。
俺が造るポーションは、ちょっと位の身体の欠損なら、元通りに治す事だって可能だ。
借金を返す為に、一時期、村の教会に『帰らずの森』の中央付近の薬草を売っていたが、その効能の余りの凄さにシスターは絶句していた。
そして、俺が全ての借金を返し終わった頃、
「リアム君、もうこれ以上は薬草を買い取れないわ。教会本部が、リアム君の薬草で造ったポーションの効能を聞きつけて、どうやって造ったか教えろ! と言ってきてるの。今の所は、
『いつも通り造っただけです!』
と、答えてるけど、もし、リアム君の存在が教会本部に知れたら、リアム君は教会本部に目をつけられて、いいように利用されてしまうと思うの」
と、言ってきた。
シスターの話によると、教会本部は腐敗しきっており、お金になる事に手段を選ばないらしい。
もしも、俺が安い値段で『帰らずの森』の薬草を教会本部に卸さなければ、背信者だとか難癖つけて脅してくるかもしれないと言っていた。
それ以来、俺は、『帰らずの森』の中央付近で取れる薬草は、どこにも卸していない。
大賢者の遺産を探すのが忙しいのに、どうでもよい事に巻き込まれたくないし。
まあ、取り敢えずは、俺が造ったポーションのお陰で、フォレストドラゴンに焼かれた足は治ったので良しとしよう。
それより、フォレストドラゴンに足を燃やされたせいで、腿から下のズボンと靴が、燃えて無くなってしまっている。
俺は魔法の鞄から、予備の靴を取り出して履く。
基本、俺の魔法の鞄には、生活に必要な物が殆ど入っている。
『帰らずの森』は、結構広いので、『帰らずの森』で、キャンプする事も結構あったりするのだ。
火とか使わなければ、【不可視】スキルを持っている俺は、殆ど魔物に見つからない。
手作りの、トゥルーズ家秘伝の魔物避けも使えば完璧だ。
今ままで、キャンプしていて魔物に見つかった事は、一度もない。
「よし、もう一度行くか!」
俺は気合いを入れ直す。
先程のフォレストドラゴンの恐怖は拭いきれないが、逆に、日にちを空けてしまうと、金輪際『帰らずの森』に踏み入れなくなってしまいそうと思ったからである。
それ程、フォレストドラゴンのファイアーブレスは恐ろしかった。
普通、フォレストドラゴンなど、最上級ダンジョンの最下層にしか出てこないラスボスだ。
例えば、フォレストドラゴン一匹を討伐するとなると、勇者パーティーか、SS級の冒険者パーティーじゃないと無理と言われている。
そんなフォレストドラゴンが、大賢者の遺産が隠されていると思われる地下に続く階段の周りに、視認しただけで20匹はいたのだ。
ハッキリ言えば、大賢者の遺産は、誰も攻略する事は不可能。
実際に、誰も攻略した事ないし。
そんな『帰らずの森』を攻略出来る者が居るとしたら、【不可視】スキルを持っている俺だけ。
全く、魔物と戦わないで攻略するのは少し卑怯だとは思うが、俺には【不可視】スキルしか無いのだ。
【不可視】スキルが、俺の生命線。
実際、【不可視】スキルを持っていなかったら、今頃、俺は奴隷になってた筈だ。
そんな訳で、今更、卑怯などとは言ってられない。
恐怖が蘇って来る前に、サクサク攻略しに行かねば!
俺は再び、地下へと続く階段に向けて進む。
一度、行った事がある場所なので、思いの外、早く階段周辺まで来れた。
地下へと続く階段の前では、フォレストドラゴンが、階段を囲むように何匹も待ち構えている。
恐怖で足が竦む。
流石に、殺されそうになった魔物の前に立つのは、勇気がいる。
俺は移転スクロールを、両手に握りしめる。
緊張の為か、手汗が噴き出し喉が渇く。
俺は何度も手汗を服で拭い、一歩を踏み出す。
先程のような失敗は、絶対にしない。
フォレストドラゴンの警戒を怠らないのは当たり前だが、足元にも注意をする。
一回目の時のように、石に躓いてコケるとか、アホな事をしないように。
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