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6. 狼鍋

 

 探索2ヶ月目。


 俺は地道に、『帰らずの森』の探索を続けている。

 猛毒スライム以外にも、倒せそうな魔物に対しては、【不可視】スキルを最大限に活用して、倒してみたりもしている。

 俺の暗殺スキルもメキメキ上達していき、今では殆ど百発百中で、魔物の急所に毒針を突く事ができるようになっている。


 まあ、急所を外したら確実に殺られると分かっていれば、もの凄~く集中できるので成長も早いのだろう。


 何でも集中は大事なのだ。


 何かを習得しようとする時、集中しないで、何時間もダラダラやっても何も身につかないが、5分でも10分でも集中してやった方が身に付くものだ。


 俺はその一瞬の集中を、自分の生死をかけて何度も繰り返してきた。


 上手くならない筈は無い。


『オッ! ブラックファングだ!』


 森を探索していると、狼の魔物に遭遇した。

 こいつは、俺の親父を食べた魔物だ。

 俺の親父を食べた個体かは分からないが、ブラックファングは、とても美味しいので、倒しておくことにする。


 個体は一匹。

 倒すにはおあつらえ向きだ。

 俺の毒針攻撃は、暗殺に特化した技術である。

 なので、多人数相手だと後手に回ってしまう。


 親父がブラックファングに殺された時も、一匹、二匹だけなら、確実に倒していただろう。


 だが、あの時、俺はブラックファングを何十匹も引き連れていた。

 親父の選択としては、俺を見殺しにするか、自分を犠牲にして俺を助けるかの二択しかなかったのだ。


 まあ普通、暗殺は、一人一殺が基本である。

 親父は、騎士でも魔法使いでも勇者でもない暗殺者なのだ。多人数戦は、専門外。

 1対1なら、抜群の強さを発揮するが、多人数の相手だと、たちまち弱さを露呈してしまう。


 俺も親父と同じ暗殺者なので、基本、一匹で行動している魔物しか襲わないのだ。


 俺はブラックファングに合わせて、並走する。

 ブラックファングの急所は、首筋。

 俺は毒針を逆手で握り締め、精神統一する。

 ブラックファングは、真横に居る俺に全く気付いていない。


 グサッ!


 俺は毒針をブラックファングの首筋に突き刺し、素早くその場から離れる。

 たまに、刺した瞬間に襲ってくる魔物もいるのだ。


 ドサッ!


 ブラックファングは俺に襲い掛かることなく、操り糸が切れたマリオネットのように地面に崩れ落ちた。

 一応、確認してみると、既に絶命しているようだ。


 俺は手早く、ブラックファングを、魔法の鞄に放り込む。


『激ウマのブラックファングを狩った事だし、まだ早いけど今日は帰ろう!

 そして、このブラックファングの肉で、隣のおばちゃんに狼鍋を作って貰おう!』


 俺は、出来たて熱々の湯気が立つ狼鍋を想像しながら、早足で家路についた。


 トントン。


 俺は、隣の家の戸を叩く。


「アッ! リアムちゃん、どうしたの?」


 暫くすると、隣の家のおばちゃんが出て来た。


 続けて、「リアムが来たの?」と、娘のエリナも出てくる。


「ブラックファングを狩って来た!

 これをやるから、狼鍋を作ってくれ!」


 俺は、魔法の鞄からブラックファングの死体を取り出し、隣のおばちゃんの前にぶっきらぼうに突き出した。


「えっ! 一頭丸ごと貰えるの?

 ブラックファングのお肉や素材は、超高級品なのよ!」


 隣のおばちゃんが、ビックリして驚いている。


「飯の御礼だ! 余った肉や素材は、食費の足しにでもしてくれ!」


 俺は照れ隠しして、ちょっとだけ格好つけて答えた。


「リアムちゃん! ありがとう!」

「流石、私の未来のお婿さん! 太っ腹!」


「それは違う!」


 エリナの言葉に、反射的に突っ込む。


「リアムは、照れ屋さんなんだから!」


「だから、違うって!」


「またまたー」


 エリナと話してたら、埒があかない……。


「リアムちゃん、狼鍋は、ブラックファングの血抜きと解体が終わってからになるから、ちょっと時間がかかるわよ」


 隣のおばちゃんが、ブラックファングの状態を見ながら話し掛けてきた。


「待ってる」


 まだ、昼の2時だ。流石に、まだ腹は減ってない。


「それならちょっと、ブラックファングを納屋に運ぶの手伝ってくれる!」


「ああ」


 俺は、少し大人ぶった感じで返事をしてから、魔法の鞄に再びブラックファングの死体をしまい、隣のおばちゃんの後を追う。


「アッ! 忘れてた。エリナ、血桶を家から持ってきて!」


 隣のおばちゃんが、納屋に行きがてらエリナに指示を出す。


「ハ~イ!」


 エリナは元気に返事をして、家に戻っていく。


 納屋に着くと、隣のおばちゃんは、天井を指差し、

「梁に、このロープを使って、ブラックファングの首を下にして吊るして頂戴!」

 と、お願いしてきた。


「了解した!」


 狼鍋にありつく為だ。俺はなんでも隣のおばちゃんの言う事を聞く。

 俺はハッキリ言って、隣のおばちゃんに胃袋を握られているのだ。


 俺が梁にブラックファングの死体を吊るし終えると、ちょうどエリナが血桶を持って来たようだ。


「血桶をブラックファングの下に置いて頂戴!」


「ハ~イ!」


 エリナが血桶を置くと、隣のおばちゃんは、刀のようなデッカイ包丁を取りだして、そのまま一閃、目にも止まらぬ速さでブラックファングの首筋を切りつけた。


 プシュー!


 ブラックファングの首から、血が流れ出す。


 なんか、よく分からないが凄い。


 俺は、毎日、魔物の急所を狙って毒針を刺しているから分かるが、今のおばちゃんの包丁捌きというか、剣筋には、一点の迷いも無かった。


 ブラックファングの頸動脈を、寸分違わず切り裂いたのだ。

 それもハイスピードで。


 隣のおばちゃんは、料理の達人だ。

 料理を極めると、ここまで包丁捌きが凄くなるものなのか……。

 俺は、ただただ感服する。


「リアムちゃん! 2時間ぐらい血抜きをするから、家に帰っていていいわよ!

 そして2時間経ったら、小川に行って、ブラックファングを流水で洗ってきてくれるかな!」


 隣のおばちゃんは、人使いが荒い。

 しかし、ここは狼鍋の為だ。

 俺は、狼鍋の為なら頑張れる!


「分かった!」


 俺は返事をして、自分の家に帰った。

 家に帰ると、何故かエリナも着いてきた。


「何で、俺に着いてくるんだ?」


「未来のお嫁さんに向かって、酷いよぉー!」


「そんな約束はしてない!」


 俺は、速攻で突っ込む。


「こんな可愛い美少女が、好きだって言ってるのに、そんな態度とるのリアムだけだよ!

 私なんか、昨日もトーマスに『好きです!』って、告白されたんだからね!」


「最近の子供は、ませてるな……」


「それだけ私はモテるって言ってるの!」


「自分で言うか?」


「私は正直なの!」


 確かに、エリナは可愛い。

 健康的でハツラツとしており、目鼻も整っている。

 特徴的な真っ赤な髪も、艶やかで美しい。


 美少女と言っても差し支えないが、俺にとっては幼なじみで、妹のようにしか思えないのだ。


 まあ、エリナの事は ほっといて、武器の手入れなどの作業をしていたら、あっという間に2時間が経った。


「ほら行くぞ!」


「もう2時間経っちゃったのぉー!

 もっと、リアムとイチャイチャしたかったのにー!」


「何言ってんだ? お前、ずっと俺のこと見てただけだろ?

 どうやったら、イチャイチャしてた事になるんだ?」


「想像してイチャイチャしてたんだもん!」


 前々からヤバイ奴とは思っていたが、妄想を現実と取り違えるとは……エリナは想像以上にヤバイ奴だったみたいだ……。


 まあ、エリナの事は置いといて、取り敢えずは、隣のおばちゃんに頼まれた仕事をしなければ、狼鍋にありつけない。


 俺は納屋に行って、血抜きされたブラックファングを魔法の鞄に入れて小川に向かい、20分ほどブラックファングの死体を丁寧に洗った。


「こんだけ洗えばいいか?」


「いいと思うよ!」


 エリナが、OKを出す。

 エリナの意見を信じるのは不安だが、エリナはよく、隣のおばちゃんが獣を解体するのを手伝っているので間違いないだろう。

 隣のおばちゃんは、その超人的な包丁捌きを村の住人達に知られていて、よく獣の解体作業を頼まれているのだ。


 俺は再び、魔法の鞄にブラックファングの死体を入れて隣のおばちゃんの家に向かう。


「ウン! よく洗えてる!

 それじゃあ、ここからは私の出番ね!」


 隣のおばちゃんは、そう言うと、刀のような包丁を取り出し、流れるようにブラックファングを解体していく。


 その包丁捌きは、芸術的で的確。尚且つ、早い。


 一瞬にして、皮を剥ぎ、貴重な素材や肉を、各部位に解体してしまった。


 そうこうしてると、畑仕事をしていた隣のおばちゃんの旦那さんが帰って来た。


「オッ! 今日は狼鍋かい?

 リアム君、いつも悪いね!」


 隣のおばちゃんの旦那は、一言でいうとなんの取り柄もない凡人だ。

 まあ良く言えば、真面目でよく働く、人の良いオッチャンである。


「いつも、ご飯を作ってくれる御礼です」


「ご飯の御礼といっても、ブラックファングの素材もくれるんだろ?」


「勿論です」


「それは、貰いすぎだよ」


「僕は、魔物の解体できませんから。解体しないと、お肉食べられませんし……」


「まあ、それならそういう事にしとこうか……でも、お金が必要になったら言ってくれよ。

 素材を売った代金は、私がずっと預かっておくから」


 俺は、このオッチャンが大好きだ。

 というか、善人ばかりの隣の家族が大好きだ。

 俺は、隣の家族のような普通の家庭に憧れている。


 真面目で働き者の父親。料理上手の母親。可愛く元気な娘。

 理想的じゃないか。


 そんな理想的な家庭に、俺は、普通に迎え入れてもらっている。


「……」


 ん? この状況……不味いんじゃないのか? 

 よく考えたら、これは隣の家の策略だ……。


 俺に優しくしてくれるのは、『帰らずの森』で、高値で売れる魔物を簡単に狩ってくる俺を、娘の婿にしたいだけだ。


 俺を家族の中に迎え入れてくれるのは、ただ既成事実というか、有耶無耶の内に、俺とエリナをくっつけようと思ってるのかもしれない……。


「狼鍋できたわよ!」


 俺がモヤモヤ妄想していると、いつの間にか狼鍋が完成したようだ。


「美味しそう~」


 エリナが、舌なめずりしている。


「 女の子が、舌なめずりなんかするもんじゃないよ!

 そんなんじゃ! リアムちゃんに嫌われてしまうわよ!」


 隣のおばちゃんが、エリナを注意しながら狼鍋をテーブルに置いた。


 狼鍋は、ブラックファングの肉以外にも、畑で採れた新鮮な野菜とかも入っていて美味しそうだ。


「それじゃあ、リアム君が狩ってきてくれたブラックファングの狼鍋を、皆で頂くとするか!」


 オッチャンが、そう言うと、隣のおばちゃんの家族は手を合わせて、目をつぶった。

 俺も真似をして、目をつぶる。


「豊穣の女神様。私達の生きる糧に、森の恵に祝福をお与え下さい。アメン」


「「アメン」」


 オッチャンが、豊穣の女神に祈りを捧げた後、俺達も続けて、祈りを捧げる。


 祈りが終わると、隣のおばちゃんは、狼鍋をお皿に取り分けてくれた。


 美味そうな匂いが、食欲をそそる。


 俺はまず、スープをすする。


「美味い!」


 ブラックファングの肉と、野菜のダシが上手く取れている。


 続けて、ブラックファングの肉を食べる。

 肉汁が溢れ出て、柔らかくて美味い。


『これは、箸が止まらないぞ!』


 俺は、心の中で叫ぶ。


「リアムちゃん! おかわりいっぱいあるからね!」


 俺の心の声が聞こえたのか?

 隣のおばちゃんは、エスパーなのかもしれない……。


「お母さんの料理は、ヤッパリ一番おいしいね!」


「俺は、ママの料理の腕に惚れて結婚したんだ!」


 エリナとオッチャンも、隣のおばちゃんの料理を称える。


「料理の腕だけ?」


 どうやら、オッチャンは失言してしまったらしい……。


「いや、それは言葉のあやで、俺はママの全てを愛してる!」


「アラ、ヤダ! アナタったら!」


 バシッ!


 オッチャンが、隣のおばちゃんに背中を叩かれてむせている。


 確かに、こんな美味しい料理が毎日食べれるなら、この家の婿になって良いかもと、少しだけ思うリアムであった。



 ーーー


 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 お気に入りに入れてくれたら嬉しいです。



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