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5. 隣の家族

 

『帰らずの森』は、静寂に包まれている。

 結界周辺は、猛毒スライムの縄張りなので、あまり魔物が出ないのだ。


 猛毒スライムは、どんな魔物でも殺す猛毒を持っているので、他の魔物も相手にしない。

 普通のスライムなら、人間も、スィーツとして食べたりするのだが、猛毒スライムは流石に食べられない。

 食べたとしたら即死する。

 魔物も同様で、他の魔物も猛毒スライムを食べないのだ。


 まあ、魔物も利口なので、食べれもしない猛毒スライムなんか襲わない。

 下手に襲って、逆に毒液をかけられたらたまったものではない。


 そんな煮ても焼いても食えない猛毒スライムに狙いを定めて、俺は、結界周辺をひたすら探し回る。


「居た!」


 猛毒スライムは、花がたくさん咲いている森の中の陽だまりで、ボーーッと佇んでいた。


 相手は一匹。狙い目だ。

 まだ、複数相手には自信もないし……。


 俺は、ボーーッとしている猛毒スライムの目の前に行き、毒針を逆手で構え、魔核に狙いを定める。


 猛毒スライム退治は、魔物の急所を狙う練習にもなりそうだ。

 なにせ、猛毒スライムの魔核はとても小さい。

 それを寸分たがわず、一撃で突けれるようになれば、どんな魔物の急所だって一撃で突けるようになるだろう。


「アッ……」


 また外した。


 外した瞬間、猛毒スライムの無慈悲な攻撃を受ける事になる。


 リアム平常心だ。

 心を落ち着かせろ!

 猛毒スライムの攻略は、確かに痛いが死にはしない。


 次こそ、絶対に刺す。


 ブスッ!


 魔核に毒針が突き刺さる。


「やった!」


 俺はそのまま毒針を抜くと、猛毒スライムの体から魔核だけ抜き取られ、猛毒スライムはその場で崩れるように形を失って、座布団のように平たい形状になった。


 今度は爆発しなかったな……。

 多分、一番最初に倒した猛毒スライムは、俺が毒針で滅多刺しにしてしまったのが原因で爆発してしまったのかもしれない。


 今度は、二度刺しただけなので爆発しなかったのだろう。


 取り敢えず、猛毒スライムは毒針に使う毒の材料になるみたいなので、魔法の鞄に死骸を投げ入れておく。


 こんな感じで、『帰らずの森』での本格的な探索の最初の一日目は、猛毒スライムをひたすら倒し続けて終わった。


 家に帰ると、夕食がわりの干し肉をむしゃぶりつきながら、トゥルーズ家直伝の巻物を拡げる。

 この巻物は、父の形見の魔法の鞄に入っていたものだ。


 巻物には、一子相伝の暗殺の秘伝書みたいな物で、暗殺の仕方。暗殺道具の作り方や手入れの仕方。毒の作り方。解毒剤の作り方など、暗殺に必要な知識が網羅されている。


 暗殺者になるつもりは無いが、巻物に記されている知識は、『帰らずの森』を攻略するのには、必要なスキルになる。


 実際に、父もトゥールズ家の暗殺の知識があったので、『帰らずの森』を8割も攻略できたのだ。


 俺は、干し肉をしゃぶりながら、秘伝書を読み進める。


「フムフム、スライム系の毒の作り方か。

 先ず、スライムを乾燥させてと」


 俺は折角なので、昼間に倒した猛毒スライムの毒づくりをやってみる事にした。

 といっても、猛毒スライムを乾燥させてから、石臼で粉末にするだけらしい。


 俺は取り敢えず、家の中に糸を張って、猛毒スライムを吊るしておいた。


 ---


 探索二日目。


 今日も猛毒スライム狩りだ。

 取り敢えずは、トゥルーズ流の暗殺技術で一番重要な急所突きを、完璧にしなければならない。


 最低でも、100回突いて、100回とも猛毒スライムの魔核を突けるようになりたい。

 猛毒スライムで、急所突きを失敗しても死にはしないが、他の『帰らずの森』にいる魔物の急所突きを失敗したら、それは死を意味する。


 急所を突かなくても、60秒後には、毒針の毒が回って確実に死ぬのだが、俺の身体能力では、絶対に60秒間、魔物から逃げ回れない自信がある。


 因みに、猛毒スライムには毒針の毒は効かない。

 毒針の毒の材料は、猛毒スライムの毒だからね。


 そんな感じで1ヶ月間。

 ひたすら猛毒スライムの倒し続け、遂に100発100中、猛毒スライムの魔核を突けるようになった。


 それと同時に、毒針用の毒作りまで上手くなったのは言うまでもない。


 ---


 そして今日から、『帰らずの森』の奥地の探索を始める。


 探索場所は、残り2割。


「絶対に、大賢者の遺産を探し出し、大金持ちになってやるぞー!」


「お金持ち! 嬉しいなー!」


 隣の家の娘のエリナが、俺と一緒になって、元気に声を出す。


 マトモにご飯を食べない俺を心配した隣のおばちゃんが、毎日朝食と夕食を作って持って来てくれるようになり、近頃は、娘のエリナがご飯を届ける係になっているのだ。


「何でお前が嬉しいんだ!

 大賢者のお宝は、俺が見つけるんだから、お前の物じゃないだろ!」


「大丈夫! 私はリアムのお嫁さんになるんだもん!」


「て、お前ガキンチョだろ!」


「ガキンチョじゃないもん!

 もう、10歳だもん!

 お母さんに、リアムのお嫁さんになるって言ったら、リアムちゃんなら稼げるからOKよ! って言ってたもん!」


 隣のおばちゃんは、善人だと思っていたのだが、実際は打算的な人間だったらしい。


 俺に毎日、朝食と夕食を作ってくれるのも、俺の将来を見越しての事だったのだ。


 俺は、実際 稼ぎがいい。


 なにせ、『帰らずの森』で採れる薬草を独占しているしね。


「俺は、お前の旦那にはならない!」


「なるもん! エリナが、リアムの胃袋を掴めば、きっとお嫁さんになれるって、お母さん言ってたもんね!

 だからね! 最近、エリナが、毎日早起きしてリアムのご飯作ってるんだよ!」


 なんだって……このご飯は、エリナが作っていたのか……。

 俺は、確かに手作り料理に憧れを持っている。

 俺が物心ついた時には、母は既に不治の病を患っており、俺は母の手作り料理を食べた記憶が無いのだ。


 クッ! ヤバイ……。

 手作り料理に、ここまで心を揺さぶられてしまうとは……。


「ハイ! これ今日のお弁当だよ!

 エリナの愛情、たくさん入れておいたからね!」


 ウッ……。俺には、この弁当を突き返す事など出来ない。

 愛情弁当。俺は家族に飢えている。


 俺は最初に、隣のおばちゃんの申し出を断る事も出来たのだ。

 しかし、母の手作り料理を食べた事が無かった俺には、それを断る事が出来なかった。


 だって、隣のおばちゃんの料理、美味しいんだもん!


 最近は、エリナが作ってるらしいが、エリナのご飯も、流石、隣のおばちゃんの娘というか、とても美味いのだ。


「ありがとう……」


 俺は素直に、エリナから弁当を受け取る。


「どういたしまして!」


 エリナがニッコリ笑って返事をする。


 俺は、どうやら既に、エリナに胃袋を掴まれているというか、隣のおばちゃんの手の平で、転がされているのかもしれない……。


 ーーー


 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 お気に入りに入れてくれたら嬉しいです。



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