4. 猛毒スライム
本格的に大賢者の遺産を探しを始める事にした一日目。
俺は、『帰らずの森』について、くまなく調べてみる事にした。
今までも『帰らずの森』に入っていたのだが、それは借金を返す為に必死で、何も考えずに、【不可視】スキルを使い続けたまま、『帰らずの森』にしか自生していない薬草を採取していただけなのだ。
実際、『帰らずの森』は、危険な森である。
薬草を採取している間にも、見るからにヤバそうな魔物を、何度も目撃した。
【不可視】スキルが無ければ、確実に瞬殺されていた筈だ。
俺は手始めに、『帰らずの森』に張られいる結界の周りを探索する事にしてみる。
結界の外には、魔物は出てこないが、結界付近には、『帰らずの森』中央付近と比べれば弱めの魔物が現れる。
父の残した鞄の中には、メモ帳も入っていて、『帰らずの森』に現れる魔物の特徴や習性、弱点などが書かれてあった。
どうやら父は、『帰らずの森』の魔物も、少しばかりは倒していたらしい。
俺は気になり、父の形見の鞄の中身をしっかり調べる事にした。
父の形見の鞄は、いわゆる魔法のバックと言われている物で、鞄の大きさ以上の物をたくさん入れれる鞄なのだ。尚且つ、鞄の中では時間が止まっており、食べ物の長期保存とかに重宝する。
という訳で早速、俺は、父の形見の鞄の中身を全て取り出してみた。
鞄の中には、父が使っていたであろう武器や道具、それから、『帰らずの森』の魔物と思われる素材や肉がたくさん入っていた。
「……」
この素材を売っていたら、普通に俺の家は金持ちだったのではないか……。
父の馬鹿さ加減にあきれてしまう。
恋は盲目というが、父は母の病気を治すのに必死過ぎて、『帰らずの森』で狩った魔物を売りもせず、ただひたすら少しでも早く女神の雫を見つける為に、『帰らずの森』を探索し続けたのだ。
終わった事は仕方がない。
時は戻らないのだ。
ただ、俺の中の父の評価がダダ下がりしたのは間違い無い。
それは置いといて、取り敢えず、再び、父のメモ帳を開いてみる。
メモ帳を見ると、どうやら父は『帰らずの森』の魔物を、魔法の鞄に入っていた毒針で殺していたようだ。
毒針はどうやら、暗殺者の家系であるトゥルーズ家に伝わる殺しの道具であるらしい。
【不可視】スキルで、ターゲットの死角に近寄り、急所を毒針で一突きして絶命させるのが、トゥルーズ家に代々伝わる暗殺の仕方のようである。
どうやら、それと同じ方法で、父は『帰らずの森』の凶悪な魔物を倒していたみたいだ。
メモ帳には、それぞれの魔物の背後の取り方。急所が書かれてあった。
凶悪の魔物でも、急所を刺せば一撃で倒せるという事だ。
しかも毒針は、魔物に強力な毒まで打ち込むめてしまうので、例え急所を外したとしても、最終的には魔物を倒す事が出来てしまうのだ。
暗殺者最強じゃね!
というか、トゥルーズ家に代々伝わる【不可視】スキルが凄いのか。
俺は早速、父の戦法を試してみる事にする。
暫く『帰らずの森』の結界周辺を探索すると、緑色のスライムを見つけた。
父のメモ帳を見ると、緑色のスライムは、猛毒を飛ばしてくる猛毒スライムという種類のようだ。
スライムなので、『帰らずの森』の中では最弱なのだが、その毒が強烈過ぎて、1分以内に解毒剤を飲まなければ、誰でも必ず死んでしまうらしい。
因みに、父の毒針の毒は、猛毒スライムの毒を使用しているみたいだ。
解毒剤も、『帰らずの森』の中でしか取れない毒消し草でしか作れないらしく、普通は手に入らない。
なので、『帰らずの森』を攻略しようと、たまに訪れる冒険者の殆どは、『帰らずの森』で最初に遭遇する猛毒スライムを、普通のスライムと勘違いして瞬殺されてしまうとか……。
まあ、兎に角、猛毒スライムを倒してみよう。
【不可視】スキルは、常時張っている。
【不可視】スキルは、対象に触れると認識されてしまうスキルだ。
即ち、魔物に攻撃した瞬間、魔物に自分の存在を気付かれてしまうという事である。
なので、一撃必殺の攻撃をしなければ、反撃されて返り討ちにあってしまう。
まあ、返り討ちといっても、相手はスライムだ。
攻撃といっても大したダメージは負わないし、毒を受けたとしても解毒剤を持っている。
俺はゆっくりと猛毒スライムに近づいていく。
猛毒スライムに死角はない。
というか、目が無いので、どこが死角なのか分からないというのが正直な所だ。
俺は猛毒スライムにギリギリまで近付き、毒針を逆手でしっかりと握り締める。
毒針の長さは30センチ程で、それ程長くはない。
短いのは、しっかりと急所を狙う為だ。
無駄に長いと、急所を外してしまう。
猛毒スライムの急所は、半透明の体の中心にある魔核。
緊張の為か、背中に嫌な汗が流れる。
俺は、意を決して、猛毒スライムの魔核に毒針を突き刺す。
「アッ……」
猛毒スライムの魔核は小さい。
俺は見事に、猛毒スライムの急所を外してしまった。
それと同時に、俺に攻撃された事を認識した猛毒スライムが襲いかかってくる。
バシッ! バシッ!
至近距離からの猛毒スライムの攻撃で、よろけてしまうが、それ程ダメージは無い。
クッ! 次こそ毒針を魔核に突き刺さねば!
と、思った瞬間。
ビシュ!
「アッ!」
俺は、猛毒スライムが飛ばした毒攻撃をモロに受けてしまった。
どうする……逃げるか?
しかし、逃げても追いかけられるかもしれない。逃げてる間に1分経ったら俺は死んでしまうのだ。
かといって、解毒剤を取り出す隙も無い。
猛毒スライムの毒は、父のメモ帳によると、30秒程で効いてきて、最初は体の痺れから始まり、50秒後には動く事もできなくなる。
そして、60秒経過すると、必ず死んでしまうという恐ろしい猛毒なのだ。
俺に残された時間は、30秒だけ。
30秒経ってしまったら、自由に体が動かせなくなってしまうのだ。
殺るしかない。
俺は捨て身の覚悟で、猛毒スライムに攻撃を仕掛ける。
「死ね!死ね!死ね!」
俺は何度も、猛毒スライムの魔核を狙って、毒針を突き刺す。
しかし、焦りのせいか、全く毒針が魔核にヒットしない。
「クソ! 何でだ!」
バシッ! バシッ! バシッ!
そうこうしてるうちも、猛毒スライムは、俺に攻撃を仕掛けてくる。
スライム自体が、最弱の魔物と言っても流石に痛い。
俺は、無我夢中でスライムに毒針を突き刺し続ける。
ノーガードのどつきあい。
俺が先に、猛毒スライムの魔核に毒針を突き刺すか、猛毒スライムの毒が俺を殺すのが先か。
クッ! 手足が痺れてきた。
時間が無い。
猛毒スライムに、どつかれ過ぎて、顔が腫れて視界もままならなくなってしまっている。
俺はこのまま死ぬのか?
やっと、自分の為だけに生きられるようになったのに……。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない……。
無我夢中で猛毒スライムに毒針を突き刺し続ける。
体が思うように動かせなくなってきた。
ここまでか……。
パンッ!
死を覚悟した瞬間、スライムが破裂した。
スライムが死んだ?
毒針が、魔核に刺さったのか?
そんなこと考えている時間など、今の俺には無い。
早く解毒剤を飲まなければ、死んでしまう……。
俺は必死に、魔法の鞄から解毒剤が入った瓶を取りだし、一気に殻になるまで飲み干した。
「ぷはぁー! 生き返った!」
解毒剤の効果は絶大だ。
一瞬にして、死の淵から生還できた。
多分、後、数秒遅れていたら、俺は死んでいただろう。
帰らずの森……やはり恐ろしい所だ。
最弱の猛毒スライムでも、超一流の冒険者を殺すポテンシャルを持っている。
俺は解毒剤を持ってたから助かったが、普通の冒険者は猛毒スライムの解毒剤など持っていないのだ。
もし、『帰らずの森』を攻略していき、解毒剤の材料である毒消し草が自生している場所に来れたとしても、薬草の知識がなければ、解毒剤の材料だとは誰も気付かない。
父が、猛毒スライムの解毒剤の毒消し草だと分かったのも、父が毒に精通している暗殺者の家系のトゥルーズ家の人間だったからに他ならない。
普段から毒針を武器として使ってるので、解毒剤の知識に精通しているのだ。
兎に角、俺は生きている。
次こそは、猛毒スライムを一撃で仕留めてやる!
『帰らずの森』で、一番最弱の猛毒スライムを簡単に倒せないようでは、絶対に『帰らずの森』の攻略など不可能なのだ。
俺は気を取り直して、再び、猛毒スライムを攻略する為に歩き出した。
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