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15. 大賢者になる男

 

「間違い無い。この街に逃げ込んで来たのは、7人だけ。

 教会のシスターと、その教会にいた孤児の子だけだ……」


 シスターと孤児だけ……。


 エリナや隣のオバチャンは死んでしまったのか?


 死んでしまっているかもと、薄々は思っていたが、実際に話を聞くとショックは大きい。自然とリアムの瞳から涙が溢れ出してきた。


 何でだ……何で、俺の大切な人達はみんな死んでしまうんだ。


 俺が何をしたっていうんだ……大賢者の遺産とか、次いでに探していた物は全て手に入れる事が出来るのに、本当に欲しい物は、指の隙間から簡単にこぼれ落ちていく。


『エリナ……』


 俺はエリナの事が好きだった。

『帰らずの森』で、フォレストドラゴンに殺されそうになった時に、自分の気持ちに気付いたのだ。


 あの時、直ぐにエリナに会いに『帰らずの森』の村に帰っていたら、エリナを失わなかったかもしれない。

 しかし、あの時帰っていたら、俺はもう二度と、『帰らずの森』の攻略は出来なくなると思ったのだ……。


 それ程、フォレストドラゴンに足を燃やされたのは恐怖だった。

 時間が経てば経つほど恐怖が蘇って来て、直ぐに動きださねば、もう二度と『帰らずの森』に入れなくなると思ったのだ。


 エリナの笑顔が思い出される。


 毎朝欠かさず、手作りの朝食と弁当を持って、俺を起こしに家にやって来た。

 俺が『帰らずの森』の村にいる時は、鬱陶しい程まとわりついてきたが、今思えば、父と母を同時に失って気落ちしていた俺の事を心配して、ワザと構ってくれていたのだろう。


 エリナはガサツで、人の心の中にズカズカ土足で入り込んでくる所があるが、本当は思いやりがある優しい子なのだ。


『あの時、帰っていたら……』


 しかし、あの時はまだ、大賢者の遺産を手に入れていなかった。

 自分一人だけなら、【不可視】スキルを使えば、魔王軍団から逃られただろうが、エリナや隣の家族を護りながらとなると、とてもじゃないが無理だ。


 それに、人の良い隣のオバチャンは、村の人を見捨てて逃げる事などしないだろう。


 俺の見立てでは、隣のオバチャンの強さは本物だ。

 下手な冒険者ぐらいなら、瞬殺してしまう程の力はあると思う。


 隣のオバチャンは、『帰らずの森』の村から出たこと無いと言ってたが、家で料理をしてただけで、あれ程の剣筋というか、包丁さばきをみせるとは、流石は勇者であったエリザの直系である。


 それに、あの包丁のような刀は聖剣だったりする。

 聖剣を包丁代わりにするのはアレだが、勇者だったエリザも聖剣を包丁代わりにしていたので、遺伝であろう。


 というか、包丁にしては大き過ぎる聖剣を、隣のオバチャンの家では代々包丁として使う事により、自然と勇者の剣技を子孫に伝えていたのかもしれない。


 そして多分、隣のオバチャンは、最後まで魔物の軍団と戦い、壮絶な最後を迎えたに違いない。


 俺の知ってる隣のオバチャンの性格や、大賢者エルグリオの記憶にある勇者エリザの性格からすると、そんな気がするのだ。


 自分の身を顧みず、無駄に正義感ぶって、人の為に頑張ってしまう。


 俺や、大賢者エリグリオは、そんな隣のオバチャンやエルザに救われたのだ。


 隣のオバチャンは、無駄に優しい。

 優し過ぎるのだ。


 俺が困っている事があると、何も言わずに、ただ黙って手を差し伸べてくれた。

 両親が死んで一人っきりになってしまった俺を、家に招いてくれご飯を食べさせてくれた。

 一般的な家庭というものを知らなかった俺に、普通の家庭の温かさというものを教えてくれた。

 そんなちょっとした事を、少しづつ積み重ねていき、荒んでいた俺の心を癒してくれたのだ。


 そんな優しい隣のオバチャンが死んでしまうなんて……。


 よく、いい人ほど早く死ぬという話を耳にするが、その話は本当だった。


 エリナや隣のオバチャンの事を考えると、二人を殺した魔王への憎しみが、心の底から、フツフツと、沸き起こり、怒りで頭の中がどうにかなってしまいそうになる。


 魔王め……絶対に許さない。


 何としてでも、絶対に殺してやる。


 悪魔に魂を売っても構わない。


 それで魔王を殺せるなら本望だ。


 今の俺の実力では、倒すのは無理かもしれないが、絶対に実力をつけたら魔王を倒しに魔国に向かう。


 そして、エリナと、隣のオバチャンを殺した事を何度も懺悔させて、何度も殺してやるのだ。


 一回死んだだけでは許さない。

 何度も殺す。


 俺には大賢者の遺産、女神の雫があるのだ。

 女神の雫は、死んだ人間を30分以内なら甦らす事が出来る奇跡の薬だ。


 俺の父が、生涯をかけてずっと探していた秘薬でもある。


 二年前までに、この女神の雫さえ手に入れていたら、母も父も死ぬ事は無かった。


 しかし、どうしても欲しい時に手に入らなくて、どうでも良い時に簡単に手に入れてしまえるのが俺の人生。


 どうせなら、この今更 いらなくなった女神の雫も利用してやる。


 何度でも何度でも、女神の雫が続く限り魔王を殺すのだ!


 エリナと、隣のオバチャンの為に、それから次いでに隣のオッチャンの為にも、俺は絶対に魔王を殺すと、心に誓った。


「オイ、お前……大丈夫か?」


 守衛のオッサンが、暫くのあいだ惚けて突っ立っていた俺を心配して話し掛けてきた。


「アア……もう大丈夫だ」


「そう気を落とすなよ。魔王なんて天災なんだから。普通の人にはどうする事もできやしないしな」


「普通ならな。俺は大賢者になる男だ。俺は必ず、魔王を倒す!」


「大賢者か……。確かに、『帰らずの森』の大賢者は、大昔に魔王を倒したとかいう伝説は有るが、それにしても、『大賢者になる男だ!』と、自分で言うとは大きく出たな!

 大賢者は、歴代勇者を上回る実力だったと言われてるんだぞ!

 まあ、なんと言おうと人の自由だ。せいぜい死なないように頑張んな!」


 守衛のオッサンが、俺の話を、話半分で笑い飛ばす。

 全く、俺の話を真に受けていないようだ。

 まあ、これが普通の反応だろう。


 誰も、成人したばかりの15歳の坊主が、攻略不可能と言われている大賢者の遺産を手に入れているとは思わないのだ。


 俺は兎に角、魔王を倒す為にも、もっと強くならないといけない。


 相手は魔王。


 魔国の王様なのだ。


 国一つを相手にするとなると、流石の俺でも分が悪い。


 まず、実力を付けて、仲間も募る。

 その為には、王立魔法学園に入学するのが手っ取り早い。


 新たな魔王が現れたなら、きっと国も動いている筈である。

 大賢者エルグレオが生きた1000年前もそうだった。


 国中から、実力のある者を王立魔法学園に集め、魔王を倒す為の勇者を選別する。


 その当時、冒険者として頭角を現していたエルザとエルグレオも王立魔法学園に招待され、最終的に、エリザは勇者に、エルグレオも勇者パーティーに選ばれたのだ。


 なので、魔王を倒す為には、元々入学するつもりだった王立魔法学園に入学するのが手っ取り早い。


 勇者パーティーに選抜されれば、国が魔王討伐にかかるお金を出してくれるし、優秀な仲間も手に入るのだ。


 それに、勇者パーティーに入れば、俺が目標にしている、少しだけ有名になるという目標も達成出来る。


 勇者になってしまうと目立ち過ぎてしまうが、勇者パーティーのパーティーメンバーぐらいだったら丁度良いだろう。


 本当は、滅茶苦茶有名になってみたいという願望はあるのだが、

 俺は元々ボッチで、尚且つ、代々暗殺者の家柄からか、人目を避けるのは得意中の得意なのだが、目立つのは滅茶苦茶不得意なのだ……。





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