14. 絶望
「どういう事だ……」
リアムは頭が麻痺してしまって、全く今の状況が呑み込めないでいる。
エルグレオの異世界の記憶の中に、浦島太郎とかいう話があったが、天空城と地上の世界では時間軸がズレていて、俺が天空城で過ごした2年間が、地上の世界では20年間だったとか?
取り敢えず、自分の家だった場所に行ってみる事にする。
見た感じでは、時間経過して家が壊れてしまった感じではない。
人の手によって、ボロボロになるまで破壊された感じだ。
地面には、俺が干していた毒スライムが散らばっている。やはり、20年経ってる訳ではなさそうだ……。
一体、誰がこの村を襲ったんだ……。
エリナや隣のオバチャンは無事なのか?
リアムは、破壊された村の隅々を調べたが、やはり人の姿は見えない。
「アッ……そんな……」
リアムは、村から少し離れた場所に、墓標のような十字にされた木が、たくさん刺さっている場所を見付けた。
「そんな……嘘だろ……」
リアムが走って近づくと、そこには何百本もの十字された木が突き刺さっていた。
二年前には、こんなもの無かった筈だ。
「みんな死んでしまったのか……村の人口は何人だったけ……」
リアムが、チラッと数えただけで、十字にされた木は、600本近く刺さっている。
『帰らずの森』の入口の村は、それ程大きな村ではない。
多分、村の人口は700人かそこら、十字にされた木は、600本は刺さっているのだ。
という事は、村の人口の7分の6が、誰かに襲われて死んだという事になる。
この村自体に、良い思い出は何もなかったが、エリナとか隣のオバチャンとかシスターとか、俺に良くしてくれた人達も少なからずいたのだ。
「クソッ! どうして俺は、『帰らずの森』の入口の村に、もっと早く戻ってこなかったんだ!
今の俺の力なら、どうにかできた筈なのに……」
悔しくて涙が止まらない。
エリナや隣のオバチャンとの思い出が、次々と思い出される。
エリナや隣のオバチャンが心配だ。
まだ、死んだと決まった訳では無いのだ。
もしかしたら、どこかへ逃げ延びてるかもしれない。
ここでずっと泣き崩れていても仕方が無い。
今は泣いている場合じゃない。
兎に角、隣町に行こう。そこで『帰らずの森』で、何があったか聞くのだ!
リアムは涙を拭い、隣の街へ向かって走り出す。
『帰らずの森』の村から隣の街まで、本来なら歩いて2時間程の距離だが、ブーストを使った為、わずか5分程で到着する事が出来た。
隣の街は、『帰らずの森』の村より大きく、人口5000人程の街である。
街の周りには、5メートル程の木の柵に覆われていて、魔物の侵入を防いでいる。
俺は、街に入る為に門の前に並んでる行商人達を掻き分け、門の前にいる守衛に話し掛けた。
「オイ! 『帰らずの森』の村が、どうなったのか知ってるか!」
俺は勢い余って、守衛の胸ぐら掴み質問する。
「何だ! 貴様!って、お前、もしかして『帰らずの森』の村の出身者か?」
「そうだ! 『帰らずの森』の村で、何があったんだ!教えろ!」
俺は、鬼の形相で守衛に質問する。
「そうか……お前は魔王軍に滅ぼされた『帰らずの森』の村の出身者か……」
守衛は、俺の事を気の毒そうに見ながら話を続ける。
「まあ興奮しないで、まずはその手をどけろや。
その手は、人に質問する態度じゃないぞ」
リアムは、ハッ!と、我に帰り、守衛の胸ぐらから手をどけた。
「悪かった……それより魔王軍だって? 今の時代、魔王なんて居ないだろ?」
俺は守衛に質問する。
「それがどうやら、新しい魔王が誕生したらしいんだよ……」
どうやら、俺が天空城にいた2年間の間に、下界では新たな魔王が誕生していたようだ。
「その新たな魔王とやらは、何で辺境にある『帰らずの森』の村を襲ったんだ?」
俺は訳が分からず、守衛に質問する。
『帰らずの森』の村は、アリシア大陸にあるキシリア王国の辺境に位置する、ただの田舎の、何処にでもある平凡な村にすぎないのだ。
「それがだな、どうやら魔王は、『帰らずの森』に眠ると言われている、大賢者の遺産を求めて『帰らずの森』に現れたらしいんだ」
ん? おかしい……天空城には、魔王は疎か、誰も訪ねて来ていないのだが……。
それは置いといて、俺は、『帰らずの森』の村の事を聞きたい。
「そんな事より、『帰らずの森』の村の事を教えろ」
「急かすなって、魔王軍が、『帰らずの森』の村を、襲ったのは、まあ、次いでだな。『帰らずの森』を、攻略する前の前哨戦ってとこか!」
「そんな理由で、『帰らずの森』の村は、魔王軍に滅ぼされたのか?」
「まあ、そんなとこだな。だが、この話には続きがあって、
結局、魔王軍をもってしても、『帰らずの森』を、攻略出来なかったらしいな。
結局、魔王軍も全滅して、一人生き残った魔王も、すごすご魔国に逃げ帰ったらしいぞ」
まあ、そうだろう。
俺が天空城にいた2年間の間、誰も天空城を訪れた者は居ない。
多分、フォレストドラゴン率いる『帰らずの森』の魔物達が頑張ってくれたのだろう。
フォレストドラゴンを、レベル上げの為に殺さなくて良かった。
フォレストドラゴンは天空城の防衛の為に、絶対に必要な戦力だと今更ながら認識した。
またいつ、魔王の奴が、大賢者の遺産を求めて『帰らずの森』の攻略に来るのか分からないしな。
「それで、『帰らずの森』の生き残りが、この街に逃げ込ん来てるだろ。
その人達は、どこに居るんだ?」
俺は本題に入る。
ハッキリ言って『帰らずの森』の住人の事なんかどうでも良いが、隣の家族は別だ。
隣の家族は、俺に良くしてくれた。
それから隣のオバチャンが、簡単に死ぬとは思えない。
隣のオバチャンは、ハッキリ言って強かった。
戦ってる所は見た事ないが、あの包丁捌きは、並ではない。
流石は、勇者だったエルザの子孫である。
「この街に逃げ込んで来たものは数人だけだ。
『帰らずの森』に、逃げ込んだ者もいたようだが、その末路は分かるだろ……」
守衛は、言葉を濁す。
魔王軍でさえ全滅させてしまう『帰らずの森』に入って、生きて出られる道理は無い。
「だったら、この街に逃げ込んできた人達の中に、赤髪の女は居なかったか?」
「居ないな」
「それは間違い無いのか?」
「間違い無い。この街に逃げ込んで来たのは、7人だけ。
教会のシスターと、その教会にいた孤児の子だけだ……」




