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11. 魔眼(2)

 

 ここはどこだ?


 薄暗い石造りの部屋。

 結構、広い。

 棚には、何百、何千もあると思われる蔵書が並んでいる。

 どうやら、エルが住んでいる家のようだ。


 部屋が何部屋も有るらしく、エルは廊下に出て、洗面所と思われる部屋に入って行く。


『エッ!?』


 洗面所の鏡に映ったエルは、真っ白な長い髭を生やし、腰も曲がっていて、まるで仙人のように年老いていた。


『オイオイ……レスターに対する復讐劇は、どうなったんだよ?

 こ……これはちょっと進み過ぎだろ……』


 俺の疑問を他所に、エルは、何かの儀式に備えてか、入念に洗面所で身なりを整えている。


 そして、外出するらしく家を出た。


『ん? ここは見覚えがあるぞ!

 帰らずの森のラスボスの奥の部屋。

 俺が今居るはずの、赤い瞳の魔眼があった場所だ!』


 エルは部屋の中央まで歩き、そしておもむろに、懐から宝石箱を取り出す。


 エッ……まさか……。


 突然、エルの右手の指先が、俺に近づいてきた。


 嘘だろ! 止めろ!


 俺は抵抗するが、これはエルの記憶なので、抗うことなど出来ない。


 そしてそのまま、エルは、自分の左目の窪みに指を突っ込み、目玉を抉りだした。


 何となくやることは分かっていたが、自分で自分の目を抉り出すのは、勇気がいる事である。


 俺はエルの記憶を覗き見しているだけだが、感じない筈の激痛が、左目に襲って来た程だ。


『ヤバ過ぎる。エルさん、あんたヤバ過ぎるよ!』


 何故だか分からないが、俺は、片目を失ったエルを見ている。


 どうやら今まで俺が見ていたエルの記憶は、エルが抉り取った左目の魔眼の記憶だったみたいだ……。


 片目を失った大賢者エルグレオは、常軌を逸したマッドサイエンティストの狂人にしか見えない。


 そして大賢者エルグリオは、用意していて宝石箱に、目玉をしまい蓋をした。


 ん……?


 真っ暗ですけど……。


 何も見えない。


 やはり、俺の頭の中に浮かんでいた映像は、エルの魔眼が見せていた映像だったようだ……。


 しかし、エルが目玉を宝石箱に入れてしまったので、そこから先の記録がないという訳か……。


 真っ暗……。


 いつまで続くんだ?


 確か大賢者エルグリオは、1000年前に実在した人物と言われている。


 という事は、1000年間、ずっと真っ暗という事か……。



 ーーー


 どれだけ真っ暗な無の時間を過ごしたであろう。


 どうやら、大賢者エルグレオの記憶が、俺の脳ミソにダウンロードし終わり、俺は自分の意識を取り戻したようである。


 しかしながら、エルグレオの記憶は小間切れ。

 中には、エリグレオが山田直人だった時の記憶も、俺の脳ミソにダウンロードされてるみたいである。


 ダウンロードって言ってる時点で、この世界の言葉でない異世界の言葉だったりする


 そんな事より、俺の左目には大賢者エルグレオの魔眼が、しっかりと移植されているようだ。

 まだ、慣れていないせいか、視界がボヤけている。


 まあ、それは置いといて、俺は記憶を頼りに、「開けゴマ!」と、間抜けな呪文を唱える。


 因みに、『開けゴマ!』は、この世界の言葉では無い。

 この世界の言葉の発音には無い、異世界の日本という国の言葉であるらしい。


 俺は、エルの記憶がダウンロードされた事によって、日本語が話せるようになったが、この世界の人間では絶対に『開けゴマ!』という魔法の発音は発せられないのだ。


 まあ、大賢者エルグレオにしか、本来使えない魔法である。


 そうこうしてると、何も無かった石の壁から扉が現れた。


「フフフフフ、記憶通りだ!」


 俺は、思わずニヤけてしまう。


 大賢者エルグレオの記憶をダウンロードされて、分かった事なのだが、この『帰らずの森』は、そもそも大賢者エルグレオが復活する為に作ったトラップだったのだ。


『帰らずの森』に、大賢者の遺産が眠っていると広めたのも大賢者エルグレオ本人であり、どうやら自作自演であったようだ。


 記憶が細切れなのでよく分からないが、エルグレオは、ずっと幼馴染だったエルザとその娘を、『帰らずの森』から、見守ってたみたいだ。


 エルザは未婚の母で、娘は誰の子か不明らしい。


 レクターとの復讐劇の記憶とか、その辺りの記憶は、俺の脳ミソに上手くダウンロードされなかったみたいで謎であるが、

 兎に角、自分と同等の実力がある若い男の体を乗っ取って、エルザと結婚出来なかった代わりに、エルザの子孫と添い遂えげようとしていたようである。


 大賢者エルグレオが、【死に戻り】のスキルを使って、生き返ってから爺さんになるまでの記憶は、ゴッソリ抜け落ちているので、それまでの間に何があったか知らないが、人の体を乗っ取るとか、結構鬼畜な計画を立てたものである。


 まあ、それを置いといても、大賢者エルグリオと同等な実力者など、そうはいない。


 なのでエルグレオは、『帰らずの森』を使って、自分と同等な人物を招き寄せる計画を立てたのだ。


『帰らずの森』を、攻略できるような人物なら、大賢者エルグレオと同等か、それ以上の実力者であると言える。


 それ程の実力者でないと、大賢者エルグレオの魂の器になる事は出来ないのだ。


 しかしながら、実際に『帰らずの森』を攻略したのは俺。

 というか、攻略したというより、ズルして赤い瞳の魔眼の部屋に来てしまったというのが正解なのだが……。


 まあ、そのせいで、大賢者エルグレオの計画は失敗してしまった。


 俺はハッキリ言って凡人。


 魔力総量は、人より少し多いぐらいで、体力も普通よりは有るほうだが、一般人の領域からは、はみ出ていない。


 そんな普通の一般人の体に、大賢者エルグリオの魂が入り切る筈がなかったのだ。


 その為、大賢者エルグレオの魂は疎か、エルグリオの記憶も小間切れにしか、俺の脳ミソにダウンロード出来なかったと思われる。


 俺としたら、体を乗っ取られなくて助かったけどね。


 まあ運が良いのか悪いのか分からないが、都合の良い事に、俺に備わっていないのは、エルグレオの魂と、彼の辛い記憶の部分だけ。


 それ以外の魔術の記憶や、山田直人の異世界の記憶は、バッチリ俺の脳ミソに記憶されている。


 そんな訳で、今の俺は、神レベルの超絶魔法でも、大賢者エルグレオの記憶のお陰で使えてしまうのだ!


 しかしだ……。


 どんなに凄い魔法が使えるようになったとしても、俺は少しばかり暗殺スキルが有るだけの凡人。


 魔力が、圧倒的に足りないのだ……。


 超絶魔法を使ってみたい。


 知識は有る。


 でも、魔力が無い。


 欲望が、心の内から湧き出てくる。


 色々、出来るようになったら、それを使いこなせるようになりたいと思うのが、人のサガである。


 なんとしても、魔力総量を増やしたい。


 その方法は、俺の脳ミソの中。大賢者エルグレオの記憶の中にに有るのだ!


 まあ、兎に角、大賢者のアジトに入ろう。


 これからの事は、取り敢えず、アジトの中を見てから決める事にする。


 大賢者エルグレオの記憶によると、このアジトにには金銀財宝やら、お宝がたくさんある筈なのだ!




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