10. 魔眼
体が動かない。
意識を失ったのか?
しかし、頭の中で流れる映像は続いている。
何故、エリナが……。
違う……エリナじゃない……。
似てるが、別人だ……。
それにしても、この頭の中に流れ込んでくる映像は何だ……。
誰かの記憶……。
赤い瞳の目の、元の持ち主の記憶か?
どうやら、エリナに似た赤髪の少女と、赤い瞳の目の元の持ち主は、幼馴染だったようだ。
クッ! 頭が痛い……。
いつの間にか、場面が進んでいる……。
城?
空が真っ赤だ……。
魔物の軍団?
「エル! 遂にここまで来たわよ!」
赤髪の18歳前後の少女が、俺に話し掛けてきた。
エル?、誰だ? 俺の事か?
赤髪の少女の瞳に、黒髪、赤目の20歳位の青年の姿が写っている。
赤目……
そうか……コイツが赤い瞳の目の正体か!
もしかして、こいつが大賢者?
確か、伝承によると大賢者は、赤目で黒髪だったと言い伝えられている。
どうやら俺は、大賢者の記憶を見ているようである。
そして、赤髪の少女は、多分、エリナの御先祖で間違い無い。
赤髪の少女が持ってる、まるで包丁のようなデッカイ刀に見覚えがあるのだ。
アレは、エリナのお母さんである隣のオバチャンが、料理や解体の時にいつも使っている包丁?だ。
という事は、大賢者とエリナの御先祖は、幼馴染だったという事か?
「アア」
大賢者が、遅れて返事をする。
エリナの御先祖と大賢者以外にも、仲間が後二人いるようだ。
「オイ、お主ら、ここからが本番じゃぞい! 」
大盾を持った、ズングリムックリの髭オヤジが、赤髪の少女と大賢者に話し掛けてきた。
「分かってるよー! ジイジは心配性なんだから!」
「何度も言うが、儂の事をジイジ言うでない! 儂はこう見えても30歳なんじゃぞ!」
「ドワーフの年齢なんか、分からないよぉー! 20歳超えたら、みんなジジイでしょ!」
「違う! 儂の髭を見るのじゃ! まだ真っ黒じゃろ! ドワーフの年齢は髭を見れば分かるんじゃ!」
「そんなの普通の人間には、分からないよぉ!」
赤髪の少女と、ドワーフがワイワイやっている。
そんな二人から少しは離れた所で、神官服を来た背の高い顔かたちが整った青年が、薄ら笑いを浮かべながら俺達の事を見守っている。
クッ! 頭が割れる……。
また、場面が進む。
正面に対峙する者から、強烈な殺気を感じる。
人間? イヤ魔族か?
それにしても、こいつの圧はなんなんだ?
気が緩むと、意識が持っていかれそうになる。
こいつは、もしかして……魔王?
『帰らずの森』の魔物など、雑魚に感じる程の圧倒感。
俺の後で、赤髪の少女とドワーフが倒れている。
どうやら倒れてるだけで、死んではいないようだ。
魔王の前に立ってるのは、俺と、パーティーメンバーである、いつも薄ら笑いを浮かべている神官だけ。
俺も満身創痍だ。
俺は、目の前に転がっていた、赤髪の少女が使っていたデッカイ包丁のような刀を拾った。
「これで最後だ!」
デッカイ包丁のような刀に、禍々しい赤黒い魔素が漂う。
「俺の全ての魔力を込めた、一撃を喰らえ!」
俺は、デッカイ包丁のような刀を下段から上段に向けて、斜めに斬り上げた。
ズザザザザザザザァーーーーン!!
体中の魔力が抜けて、倒れそうになる。
「これで、倒せなかったら終わりだな……」
「まさか魔王である我が、勇者でなく、よくわからん伏兵に殺られるとは……」
ズルズルズルズル。
魔王の上半身が、斜めに滑り落ちていく。
ボトッ!!
そしてそのまま、魔王の上半身は地面に落ちた。
「倒したのか……?」
「エルさん、やりましたね!」
ずっと俺の後ろで、魔王との闘いを見守っていた、神官が話し掛けてきた。
「殺ったのか? 本当に?」
「ハイ。間違いなくエルさんが、自らを犠牲にして魔王を打ち倒しました」
「ん……自らを犠牲にして?」
神官が、薄ら笑いを浮かべる。
「そうです。自らを犠牲にして」
グサッ!
「エッ!?」
胸から短剣の刃先が突き出している。
「な……何で……」
「何でって、私は貴方の事が嫌いだったんでよ。幼馴染だという理由だけで、エルザさんと仲良さそうにして!」
「それは、エルザが勝手に……」
「アァーー五月蝿い! そういう態度が、癪に触るんですよ!
エリザさんに対するスカした態度!
エルザさんが、君の事好きって分かってるから、そんな態度が取れるんですよね!」
「エルザが、俺の事を好き……?」
「そうですよ! もしかしてエルさん、エルザさんの気持ちに気付いて無かったんですか?
これだから、辺境出身の田舎者はイヤなんですよ!
恋の駆け引きも分からないなんて!
でも御安心して下さい!
これからは僕が、エルザさんに恋のレクチャーを手取り足取りしてあげますから!
そういう事で、エルさん、とっと死んで下さいませんか?」
神官が、俺の心臓に刺した短剣を、ぐるりと捻じり込む。
グフッ!
心臓の傷が肺にも達したのか、血が逆流して、口から溢れ出てきた。
血で、息が出来ない。
辺りが霞んできた。
どんどん意識が遠のいて行く。
「ハッハッハッハッハッ!
エルさん、魔王を倒してくれてありがとうございます!
これで私は、魔王を倒した勇者パーティーの英雄の一人として、地位も名誉もお金も全て得て、エルザさんと二人で、ずっと幸せに暮らしますよ!」
悔しいが、肺に血が入り込んでしまって、言葉も呼吸も吐く事ができない。
そしてそのまま、神官の高笑いを聞きながら、俺は死んでしまった。
ーーー
「エルグレオさん、お久しぶりです。
いや、田中直人さんと言った方が宜しいでしょうか?」
俺は死んだ筈なのに、目が覚めると神聖な空気が流れる、神々が住まう神殿のような場所に立っていた。
「エルでいいよ。そんな事より、まさかあんな所で死ぬとは思わなかったよ」
「魔王を倒して、喜びいっぱいの所で死んでしまわれましたからね!」
「ああ、【死に戻り】のスキルをゲットしといて良かったよ!
それにしても、まさかレクターの奴が裏切るとは思わなかったな……」
「アラ、私はレクターが最初からいけ好かない人物だと思っていましたわ!
あの薄気味悪い薄ら笑い。反吐が出ますわ!」
「お前、俺の事をずっと観察してたのかよ!
それから、この世界の主神である女神様が、『反吐が出ますわ!』って……」
「女神も、人格を持った一人の神です!
好き嫌いも有りますわ!」
「それにしても、ほとんど最強だと思ってたのに、あんなにアッサリ死んでしまうなんてな……。【死に戻り】のスキルを100ポイント中の50ポイントも使ってゲットして、本当に良かったよ!」
「そうですわね! 異世界転生者の中で、異世界転生特典スキルポイントの半分も使う【死に戻り】スキルをゲットする人は、中々居ませんわ!
普通の人は、大体、30ポイントでゲットできる【不老不死】スキルをゲットしますからね!」
どうやらエルは、50ポイント使って【死に戻り】スキル、40ポイント使ってレア職業の大賢者、そして、10ポイント使って魔眼をゲットしていたようである。
「不老不死なんて、普通嫌だろ!だって死ねないんだぜ!
俺は、限りある人生だからこそ輝けると思うんだ!
それより、一度死んでから、もう一度やり直せる方が面白いだろ!
そのお陰で、本当の敵が誰だか分かったし……。
それにしてもレスターの野郎、絶対に許さねーぞ!
良く考えたら、魔王討伐の時、俺に一度もヒールを掛けてくれなかったな……」
エルが、思い出して怒っていると、女神が話し掛けてきた。
「エルさん。お怒りの所、誠に恐縮ですが、そろそろ時間になります!
魔王城にあるエルさんの体の回復が終了しましたので、直ぐに魂を定着させないといけません!
20分以内に魂と体を定着しませんと、死に戻り出来なくなってしまいますから!」
女神様がそう言った瞬間! エルの意識は魔王城にある体に引き戻された。
エルは立ち上がり、体をグルグル回してみる。
違和感はない。体力も魔力も戻っている。
辺りを見渡しても、角が折られた魔王の死体しか残っていない。
もう既に、レクターや、エルザ達は帰っているようだ。
多分、レクターが、エルザやドワーフのジジイが目を覚ます前に、移転スクロールを使って王都に戻ったのだろう。
さあ、これからどうするか?
まあ、死んだ筈の人間が、イキナリ ヒョコッと現れたら、皆、驚くであろう。
それより、俺が死んだと思わせておいた方が、レクターに復讐するのに優位だ。
奴は神官。
この国では、神官は高い地位を持っている。
下手に、レクターに殺されたとか騒いだら、逆に背信者とか言って牢屋にぶち込まれる可能性もある。
実際の俺は、この国の主神の女神とマブダチなのに……。
『痛っ!?』
エルの記憶の映像を見ていたら、また、頭が痛くなってきた……。
『ここで、終わり?
エルの復讐劇を、もっと見たかったのに……』
頭の鈍痛が益々、酷くなって来る。
そして、再び、場面が進んだ。




