黒崎未白は優しい女子 その1
「まず、ここ、ボラ部について説明するわね!」
ゴミ屋敷(ボランティア部 部室)の掃除を三十分程度付き合わされたと思うと、今度は長机を挟んで部活についてのオリエンテーション的なのが始まった。こんな中途半端な掃除で清潔な部室を作れる筈がなく、ただ、空気中に多量の埃を舞い上がらせるだけの結果となった。お陰様で、さっきからくしゃみが止まらない。
「……黒崎。もう少し掃除しないか?」
「いや、早く説明しないと尚くん、馴染めないでしょ?」
この絶妙な気配りが迷惑になっていると気づいて欲しいが、入部したてのペーペーが、部長様に命令だなんて、する勇気がなかった。
「で、ここは何の部活なんだ?」
「名前の通り、ボランティアをするの! 具体的には地域貢献つまりは地域の人と積極的に関わって綾西の評判をよくしよう! って感じね」
なるほどね。年寄りや子供と会館でわちゃわちゃするあれか。正直、面倒だ。いや、とても面倒だ。
「本当に黒崎しかいないんだな」
「そ! だから尚くんの入部、すっごく嬉しいの!」
「でもボランティアつっても、そんな毎日あるわけじゃないだろ? 普段は何してんの」
「んー、自由? 私は個人的に色々してるけどね」
「……色々とは?」
「運動部の助っ人とか、クッキー作ってお年寄りの方に配ったりとか、たまに小学生の下校を付き添ったり……」
うわぁ、善人だ。真のボランティアとはこういうことか。これが偽善だとしても、素直に尊敬できる。
「忙しいんだな」
「うん! でも充実してるよ」
黒崎は立ち上がると、教室の窓から外を眺めた。
「……なあ、黒崎」
「ん?」
「嫌だったら、断れよ。ボランティアは善意でやるものだ。いやいややる事ではないからな」
一瞬、時が止まった気がした。そう感じるほどに、黒崎の動きがピタッと止まった。
「い、いやいやな訳……」
「別にそうじゃなければいいんだ。凄えいい事してると思う。ただ、善意のない優しさは優しさじゃないと思うんだ。思わせぶりな行動が、誰かを傷つけることだってある」
……この忠告で、僕は更に嫌われるだろう。でも、傷つくのは僕だけでいい。これで、僕のような人が今後、生まれるのを防げると言うのなら、それでいい。
「うん。ありがとね」
いつも通りの感謝が帰ってきた。本当に、こちらも嬉しくなるような、そんな笑顔と共に。
「それじゃ、明日からよろしく」
「うん! よろしく」
この部に入ってしまった以上、これから彼女といることは多くなる。だから、決めた。
僕は、真実を暴く。やはり、昨日の出来事だけでは、判断材料が足りなすぎる。さっきの黒崎を見ても、いつも通りで、普通だった。本当に、あの黒崎が素であるのかどうなのか。単純に興味がある。彼女の優しさは嘘か、本当か。
……知らないと、きっと、後悔すると思うから。