表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

佐渡尚は冴えない男子 その7

 日が沈む間際の学校は、木材の香りがより強く漂う。僕は、この時間が嫌いではない。コーヒーを片手に読書なんかしてみたいと思うのだが、帰宅部の僕にとって、学校に長居する理由はない。

 しかし、今日は違うようだ。


「で、どこに行くんだ?」


 僕は、後ろを振り返る。そこには頭を掻く充が立っていた。


「えっと、文化棟の教室だったはず……」

「おいおい、お前が誘ったんだから、ちゃんと把握しとけよな」

「あはは。悪い。そんじゃ、行くか」


 この高校は、普通教室が並ぶ教室棟と特別教室が並ぶ文化棟がある。体育館は、文化棟の三階から、渡り廊下で移動という面倒な作りで、運動部の人たちはよくその事について愚痴を吐いたりする。


「そういや、部活勧誘ポスターってすっかり見なくなったな」

「そりゃあ、もう五月だし。一年生は大体入部したんだろ」

「充って部活入ってたっけ?」

「俺? 文芸部」

「……驚いた。お前、運動できるくせに文芸かよ。なんだ、本好きなのか?」

「別に。うちの文芸部は緩いから、寝られる。あと、お前の好きな本、読めるだろ」


 入部への動機が充らしくて納得した。一方で嬉しくも思った。充は僕の好きな本を知ろうとしてくれていたんだ。


「……充、悪かったな」

「ん? 何が?」

「朝、お前に失礼なこと言った」

「あー、別に。つか、それを矯正すんのに今、部室向かってるんだろ?」


 そう話している間に、文化棟へ入った。建て替えたのは教室棟だけなので、文化棟は老朽化が進んでいる。木材メインから、コンクリートの多い景色に変わり、「コツン」という足跡が新鮮に感じる。


「ボランティア部は二階だ。階段上るぞ」

「はいよー」


 徐々に見えてきたボランティア部。ここに入って、何が変わるのか疑問に思うが、折角、充が用意してくれた機会だ。それに、いざ部室付近に来ると、どんな所なのか楽しみにも思えてきていた。


 文化棟二階の隅に、ひとつ。空きの教室があった。充曰く、そこがボランティア部らしい。いい読書スペースになるといいな、なんて期待を胸に、扉を開けた。中は物置部屋。ガラクタで使えるスペースはほぼない。埋め尽くされた八畳ほどの部室を見て、僕は充を問い詰めた。


「……まさか、ここが部室だなんて言うんじゃないだろうな」

「多分だけど、そのまさかだな」


 ……マジかよ。めちゃくちゃ散らかってるじゃねえか。犬小屋の方が居心地いいんじゃないか?


「で、部長はどこだ?」

「今くるらしい……って、いたいた」


 充は、廊下を走ってくる部長を手招きした。僕も、廊下側に視線を移す。……! 


「ごめん、充くん! で、新入部員って誰?」

「あー、こいつ」


 充は僕を指差す。その部長は、僕を見て目を見開いた。


「……尚くん!」

「黒崎……」


 廊下に風が吹いた。僕の視線に気づいた充は、また手を合わせてサイレントな謝罪をする。黒崎とのことを知っているくせに、よくもまあこんなお節介をできたもんだ。


「よろしくねっ! 尚くん!」

「まだ入るって決めたわけじゃ……」

「え、でもこの部、私一人だし……」


 おい、悲しそうな顔をするんじゃあない。嘘だと割り切っても、女子のそんな顔を見て断れるわけないだろ。


「おい、充」

 僕は静かにそして重く、その言葉を放った。


「そ、それじゃ、俺、用事あるから!」

 大きな足音を響かせ、充は帰っていった。


 ……最悪だ。優しさ克服とか銘打って、そもそものきっかけである奴と部活とか、どう考えてもおかしい。


「わかったよ。入る」

「うそ、やったぁ!」


 汚い部室に、裏のある部長。

 三上さん、俺の青春、かなり痛ましくなりそうだよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ