佐渡尚は冴えない男子 その5
僕の通う、北海道立綾西高校は最近立て替えたばかりのクリーンな学校だ。鉄やコンクリート主体の鼠色な内装ではなく、木材をふんだんに使った温かみのある設計が、生徒の集中力を保つとかなんとか……。
まあ、個人的にはどうでもいいことだ。ここらでは珍しい吹き抜けの玄関で、二階の生徒と会話ができることが特徴である。三階はギリギリ。四階は無理だ。
リア充どもは、登校してすぐ教室に行けばいいのに、玄関と二階とで無駄話をする。僕みたいな奴を邪魔したいのだろう。そうだ、そうに決まっている。昨日振られてばかりの僕に、リア充の姿がよく見える筈がない。ああ、腹が立つ。
僕は下駄箱に靴をしまうと、昨日の傷心を思い出し、また酷く落ち込んだ。この様子じゃ、一週間は戻らないだろうな。
「尚、おっはよ」
「んだよ、充か」
「昨日はドンマイだったな!」
「うるせえよ。お前も告れ」
「えぇー。だってー、好きな奴いねぇし?」
充はわざとらしく、煽り口調で話す。そのふざけた顔を殴ってやろうか。
この、高橋充こそ、僕に告白をさせた張本人であり、許すまじ、悪の元凶である。悪戯が三度の飯よりも好きなようで、男女問わず、隙あらば、余計なことをする。そんな奴だ。
茶髪で高身長、運動もできるんだから、何もしなきゃ、モテる筈なんだがな。この性格故、僕と同じく、彼女を持ったことがない。
「お前が黒崎を呼び出さなきゃ、こんな事にならなかったんだ。責任取れ」
「いやいや、お前だって最初は嫌がってたけど、後半やる気だったじゃん。つか、だったら、行かなきゃよかったのに」
「それはっ! 黒崎が可哀想だろ?」
「ん? 私がどうかした?」
「くっ、黒崎! お、おはよ!」
「おー、黒崎ちゃん。おはよー」
背後から突然の声に、僕は素っ頓狂な挨拶をした。黒崎は、僕を不思議そうな目で見つめている。裏の顔を知ってしまったからか、距離の取り方がわからない。
「あ、そうそう黒崎ちゃん。昨日、どうだった?」
「昨日って?」
「ほら、こいつの告白!」
おい、やめろやめろ。充の性格の悪さは小学生の頃から何も変わらない。
「あー、私、尚くんとはずっと友達でいたいから振っちゃった」
完璧な笑顔。普段の僕なら刺さっただろうが、今の僕は、振られた上に彼女の秘密を知った為、反応に困る。
「よかったなー、尚! ずっと友達だってさ! 羨ましいな~」
「……充、後で覚えとけよ」
充は上靴に履き替えると、手を合わせて謝った。声を出せ。声を。
「じ、じゃあ、教室行こっか」
「ほら、黒崎もそう言ってるし、早よ行くぞー」
「あー、はいよ」
充は、大きなあくびをしながら、僕の隣を歩いた。