表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【転生者があらわれた!】【ッ確保!!】【ナンデっ!!?】←今ココ

作者: こん

【おり の なかに いる】


「出してください!ボクは何もしていない!!こんなことが許されるとでも!!?」


そう、何度も叫んだ。

声が枯れるほどに。

でも、助けは来ない。

看守らしき騎士たちも煩そうにするだけで、声すらかけてこなかった。


力尽きた僕は備え付けのベッドに倒れ込み、天井を見上げた。


…叫んでも意味はなさそうだ。ならせめてこれからのことを考えて体力を温存しないと…。


そう考えた僕はベッドに再び倒れ込み、今までのことを思い返す。




僕の名前は夏目狼一。

通称ナロー。

数日前に幼馴染を通り魔からかばって死んだ。

とんでもない痛みと共に、体から熱が強制的に、そして際限なく失われていく喪失感。

この世の不快感を集めて煮詰めて冷まし抜いたような絶望を味わわされながら意識を手放した。


そして、僕はまっしろな部屋で目を覚ました。

上下左右全く何もないまっしろでまっさらな空間。


そこで意識を取り戻した僕に、ナニかが話しかけてきたんだ。

後は暇つぶしに良く読んでいた有名投稿小説サイトの定番、異世界転生ものとほぼ同じ展開だった。


天使っぽい人が言うには、幼馴染をかばって死んだ僕の行動や今までの行い、何より正義感が評価されてそのままあの世に行くか異世界に転生するか選ばせてくれるってことらしい。、

せっかくだから異世界に転生させてもらうことにした。


赤ちゃんからやり直しかと思ってたけど、死んだときと同じ14歳の姿でどことも知れない森の中に立っていたんだ。

幸い定番ものの主人公よろしく、いわゆるチートもいくらかもらっていたから、現れた凶悪なモンスターにやられることもなく撃退できたし、その近く立ち寄った農村で理不尽に奴隷として売られようとしている人たちを助けることもできた。

口減らしのためって言ってたから、畑を荒らす小型モンスターや小動物は根絶やしにする勢いで退治して肥料の作り方なんかも教えてフォローもしておいたからきっと大丈夫だろう。

他にも鳥害で悩んでる村には霞網の作り方を教えてあげたりとか。


途中に立ち寄った町では流行らない料理屋にマヨネーズなんかの調味料や日本の料理を教えて感謝されたりもしたね。

ちなみにそこで知り合った友達が実は領主様だったり。

なんでも貴族は貴族でも庶子だったから家を継ぐ予定もなく、市井にまぎれて暮らしていた所、戦争とそのあとのお家騒動で領主一族が全滅。

仕方なく庶子とは言え血のつながった彼が領主を継ぐことになったとか。


当然きちんとした教育も受けてないから今はほとんど家臣の言いなりみたいで、色々と愚痴を聞かされた。

無駄としか思えないしきたりや非効率だったり理不尽だったりに思える貴族の常識がとても大変らしい。

話を聞くついでに色々アドバイスしてみたらすごく喜ばれた。

せっかくだから気になってた奴隷制度なんかにもちょっと口出ししてみたり。

いくら犯罪奴隷でも死ぬまで鉱山でただ働きは酷いと思う。

やっぱり更生の機会は必要じゃないかな。


彼も庶民時代からそこは気になってたらしいね。

なんでも知り合いの宿屋のお父さんが盗賊の仲間として捕まって鉱山送りにされたとか。

その人自体は盗賊団の一員でもなんでもなく、ただチップを貰って金払いの良いお客さんのことを知り合いの商人に仲介していただけらしい。

その知り合いの商人が盗賊団とつながってたから巻き添えをくったみたいだ。


結果宿は潰れ一家は離散。

初恋の相手だった宿屋の娘は奴隷として売られていったとか。


僕の話を聞いてその悔しさを思い出したらしく、絶対に奴隷制度を見直すと約束してくれた。

他にも衛生の重要性と、それによる乳児死亡率の低下とかについて教えてみたからきっと町はもっと人が増えて発展するだろうね。


そうやって色んなイベントを解決しながら旅をして、王都と呼ばれるこの都にやってきて、検問を通ろうとし…逮捕された。


ステータスプレートに転生者の表記があったのがばれたらしい。

良くある囲い込みとかだろうか、なんて考えながら数日。


ようやく役人らしき人がやってきた。


すぐに起き上がって無罪を訴えようとした僕を遮って彼は言った。


「死刑。」


…………は?


「詐欺、騒乱誘致、大量殺人で死刑。…全くこの短期間でよくここまでやってくれたものですね、この悪魔の使徒が!!」


「ま、待ってください!僕はそんなことしちゃいない!!それに悪魔の使徒?天使とは話したことがあるけど悪魔なんて見たことも…」


「悪魔がそれとわかるような恰好で現れるとでも?たいていは善人や天使、神の使いを装って現れるものでしょう。過去に現れた転生者とやらも同じことを言っていたらしいですが、そろいもそろって疑うことを知らないのですか?

そもそも、知識も常識も与えず、ただ凶悪な力と異世界の知識を持った生き物を無責任に放り出すような危険なことを神がなされるはずがないでしょう。」


「そ、それは神様が人類の文明の停滞を解消しようと…。」


そう、あの天使から聞かされた話を口にすれば


「それならなおさら常識は必須でしょう。更に言えば文明が加速すれば人類だけでなくほかの生き物や環境にまで影響が及ぶのは必然。神とは人類だけのものではないのです。人類が自らの手で発展するならばいざ知らず、自然の調和を乱しかねないことをなさるものですか。」


とあっさり叩き返される。


「う…。で、でも僕は悪いことなんてしていない!ずっと人助けばかりしてきたんだ、そんな悪魔が喜ぶようなことなんて…」


「【地獄への道は善意で舗装されている】でしたか?過去に現れた転生者の遺した言葉だそうですね。実に良い教訓です。確かにあなたに悪意はなかったのでしょうね。ですが、あなたの行動が引き起こした被害がなくなるわけではありません。」


そう言った彼は僕の『罪状』の説明を始めたんだ。


「まずは開拓村の壊滅。不用意に生態系を破壊したためスタンピードが発生。村は壊滅したそうです。生き残りはなし。加えて今後数十年に渡って開拓は不可能とのことでした。」


「………は?」


あたまがまっしろになった。


「そもそも冒険者ギルドが何故あるのか、理解していますか?モンスターも生態系の一部です。そのバランスを破壊しないよう綿密に管理し、討伐対象を絞って乱獲させないためですよ。

 今回はあなたが森の主を倒し、天敵がいなくなっ中間層の魔獣が大量繁殖。更にその餌となる小動物や小型の魔物が根こそぎ狩られていたため餌を求めて森から魔物があふれたのが原因ですね。植生もねこそぎ食い尽くされたため森も死にかけていますからあの地が農地として復活できるかどうか…。

 莫大な投資と、何十人もの人が命がけで培ってきたもの、何よりも必死に生きていた多くの命の全てが失われました。」


「鳥害対策も同様ですね。天敵がいなくなったため蝗害が発生、その村だけでなく周辺の農村や小規模な街まで悉く食い尽くされ、多くの死者が発生しただけでなく、大飢饉を引き起こしています。

 蝗害は一度発生すれば卵が残ります。

 西の地ではこの先数年、飢饉が続くでしょう。」


「………。ぼ、僕はそんなつもじゃ…だ、だってみんなありがとうって…」


「それと、まよねーず、でしたか?

 なかなかの美味だったようですが依存性があったようですね。

 このたび第一種危険麻薬として指定されました。」


「なっ!?そんなはずない!あれは僕の世界じゃ定番の調味料で」


「あなたの世界では、でしょう?あなたがまよねーず作りに使用した油と酢、単体では無害ですが加熱せずに混合させた場合、依存性の強い毒性を発揮するようです。

 この世界とあなたの世界の生き物はどれだけ似ていても別物です。成分が異なっている可能性をなぜ考えないのですか。

 大量の中毒者に加え、領主までも汚染され、あの都市は半壊…」


「ぅ…ぁ…」


「それだけではありません。あなた、あの新米領主に奴隷撤廃を吹き込んだようですね。

 そのおかげで市井の生活は大混乱となり、加えてあの周辺はモンスターが跋扈する危険地帯になっているそうです。都市の廃棄も視野に入れているそうです。」


「な、なんで…た、ただ鉱山で奴隷を使い潰すのはおかしいから、少しでも人権をって…」


「その結果、鉱山から安価で使用できていた奴隷が消え、鉱石の採掘量は激減。当然そうなれば鉱物を使用する日用品は大幅に値上がりせざるを得ません。

 更に何よりも影響を受けるのは冒険者です。

 彼らの武器には大量の鉱物が必要不可欠。

 それが値上がりすれば新しく購入するどころかメンテすらも困難になります。

 まともモンスターの討伐もできなくなり、近隣の脅威が増大中です。

 あぁ、それと聞き取りで判明しましたが新米領主の過去話。

 宿者の主人でしたか?確かに直接の犯行ではありません。ですが彼の行動で盗賊団がカモを物色していたそうです。その被害で多くの大店が潰れ、何十人もの人が路頭に迷って奴隷落ちしたり餓死する家族もあったとか。」


「更に!あの都市は辺境の要。そこが弱体化どころか壊滅しかけたのです。あの地と隣接する帝国が食指を動かし始めたとの情報が入りました。…おそらくは戦争となるでしょうね。」


「な、ならせめて僕に償いの機会を!奴隷としてでも良い、帝国の魔手を食い止める手伝いを…!」


「正気ですか?」


「え?」


「帝国が動く理由は領土慾もあるでしょう。ですが何よりも食糧難が最大の理由です。…帝国の領土はあなたが荒らしまわった地の更に先。当然蝗害やスタンピードの影響を受けています。

 つまりは帝国の進行の原因。その大半はあなたなのですが?どのツラさげて半難民の帝国軍を討つと言うので?」


「ぁ…ぁ…」


「この判決はむしろ慈悲ですからね。

 あなたの行動で出た被害は直接間接合わせて数万人。さらにこれからの戦争次第でその数は跳ね上がるでしょう。なにせこの王国は数多の強国に囲まれる立地にあります。これからこの国は各国の草刈り場となるでしょう。下手をすれば…いえ、高確率でこの国は亡び、国民は奴隷として使い潰されることになるでしょうね。」


「ですからもはやあなたにできること…いいえ、していただくことなど何一つありません。これ以上害悪を振りまく前に大人しく死になさい。」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ