宇宙人
あなたは宇宙人を信じますか?
「総員! 敵に向かって一斉に撃て!」
有松信五陸軍少佐は叫んだ。空が真っ赤に染まるほど辺りは炎に包まれているが、彼ら陸上自衛隊第三中隊五十八名は引き金を引いた。数十メートル先にいる異形の生命体へありったけの弾丸を叩き込む。
日本の中枢である東京を攻め落とされれば、この先成す術なく奴らの侵略を許してしまう。それだけは絶対にさせてはならない、奴らにここへ攻めてきたことを後悔させてやれ、とほんの数時間前に言った手前、自分が部下を鼓舞しなければ。
信五は狙いを定めてまた引き金を引いた。
事態は一週間前に遡る。突如、全世界のあらゆるテレビ、ラジオ、SNS等の情報発信機器がジャックされ、奴らが人類に宣戦布告をした。
奴らは、自分達は遠い星からやってきた宇宙人である。新天地を探しているときたまたま地球を見つけたので我々がこの星の新たな支配者になる。その前にこの星の現在の支配者、それすなわち人類を皆殺しにすると言った。
それから奴らは手始めに北の二つの大国、ロシアとアメリカをわずか一日で破壊した。それから徐々に周辺の国を陥落させ南下していた。
こうした状況を受け、日本は全国の自衛隊に出動要請が出た。奴らが日本に上陸する前、日本国現総理大臣は全国放送でこう述べた。
「今こそ、自衛隊の存在意義、自国防衛としての戦力を行使するときだ!」
奴らは北海道から侵攻を開始、自衛隊の抵抗虚しく防衛線は突破されついに東京まで来てしまった。
戦闘開始から一時間半、戦況は互角だった。
「ひるむな! 敵に休む暇を与えるな! 航空部隊も応援してくれている!」
是が非でも食い止めようと航空部隊からの爆撃のおかげで自衛隊と奴らはほぼ五分の戦いをしていた。
「撃て! 撃てぇ!」
そのときだった空からプロペラの音が聞こえたかと思うと奴らの軍団の中心からすさまじい爆発が起こった。航空部隊の爆発が奴らを直撃したのだ。今がチャンスと思い、他の隊員達へ叫んだ。
「今だ! 一気に攻勢をかけろ!」
機関銃が火を吹く。機関銃が火を吹く。奴らもさすがに堪えたのか動きが鈍くなった。信五は奴らの内の一体に向かって駆けた。
胸元のナイフを抜き、奴に突き立てた。
思い知れ! 人類の力を! 怒りを! 殺されていった仲間たちの報いを!
※ ※ ※
「いやぁ、激しい戦争だったな」
「ああ。だがもう奴らも終わりだ。戦争は終わる」
「しっかし、開発部もよく考えたよな。まさか人間だけにきく長時間幻覚ガスを作って地球全体にばらまくなんてな」
「一週間あいつら仲間討ちし続けてもう残り少ないしな」
「今ごろどんな幻覚見てるんだろうな」
「俺達に勝って盛り上がってるんじゃないか?」
「そうかもな」
二人は眼下で繰り広げられる人類同士の仲間討ちを見ながら高らかに笑った。
新しい名前で再出発です。