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自殺探偵  作者: きのこシチュー
4/20

case1.自殺トリックを暴く者-4

解決編です。なんか長くなってしまったので頑張ってください。

「謎が解けた」


そう、大庭は言った——





「——わざわざすみません。ありがとうこざいました」

ぺこりと神在はお辞儀をする。

「どうだ神在。聞き込み調査の方は」

「そうだなー…まあ被害者がどういう人かは見えてきたな」


——現在二人はアパートの住人などの交流があったと思われる人間に聞き込みを行なっていた。


「ていうかお前も手伝えよ…」

「面倒い。つーか腹減ったし俺はハンバーガーでも食いにいくわ」

「はぁ?!お前ふざけんなよ?!」

大庭はひらりと白衣を翻し、某有名ハンバーガーチェーン店へと向かっていった。

それに神在は大声を上げるが、大庭は聞かずにスタスタと歩いて行く。

「ッあーーもーーー!!お前金持ってんのか?!」

「なーーい。」

「馬ッ鹿じゃねぇの?!」

そうして二人はハンバーガー屋へと向かっていった。

本日3回目の場面転換である。



「——さて。じゃあここまでの情報を整理しようじゃねぇか」

ハンバーガーを頬張りつつ、大庭は話を開始する。

「そうだな…じゃあまずは。


東阪青葉の死亡推定時刻は昨日の昼から夕方。


発見時刻は今日の朝刊に出るってことは6時より前。

いや、昨日の時点で発見された可能性有り、か。


そんで死因は——」


「あーいい。そういうとこは確認するまでもなく分かってっから。さっきの聞き込みで得た情報よろしく」

呆れた顔で神在の話を遮り、大庭はポテトを数本取って口の中に放り込む。

「へいへい。んじゃ、気を取り直して。


東阪青葉は最近引っ越してきた。

まあ最近っつってもジジババの言うことだ。ちゃんと聞いたら半年前に来たと言っていたよ。

とても感じの良い方だったとの証言多数。


間宮智史との関係性は良好に見えた、という証言も多数。

まさか浮気するとは思わなかったとも。

というか「間宮智史はなんとなくヤキモチ妬きに見えた」って言ってる人が多かったな。


間宮智史はこの辺の人物ではないらしく、東阪が連れてこない限りこちらには来なかったそうだ。」


「——なるほど。フィ◯オフィッシュ美味いな」

「オイ聞けよ」

最後の一口を頬張る大庭に神在はツッコミを入れる。

「むぐ、ほんで、もぐ、ふぃがいしゃと、」

「とりあえず飲み込め」

「ん」

ハンバーガーチェーン店の片隅で、まるで保護者と子供のようなやり取りが交わされる。25歳の大人のする会話ではない。

「……それで、被害者と容疑者—間宮智史の家族やら共通の知り合いとかの話題は出たか?」

「いや、無かったはず…ん、ああでも確か間宮智史にはよく似た妹がいるって話があったな。よく似てたから覚えてるってその人は言ってた。ああ、東阪青葉にも兄がいるらしく、よく部屋に出入りしてたって証言もあったな。でもなんでだ?」

「…よし、ありがとう神在。おかげで仮説が確信に変わった。警察署に向かうぞ」

席を立ったと思えば、バサリと白衣を翻して大庭は店から出て行ってしまった。

「っあーーー!!もー!!ちゃんと片付けてから出てけよな!!」

そう言いながら2人分のプレート片し、大庭の後を追う神在であった。






――――――――――――――――――――――――



「…それで?どういう事なんだ、大庭。説明しろ」

「まあ待て桐月。まだ慌てる時間じゃねぇ」

半笑いしつつ大庭は怪訝そうな顔の桐月を制止する。

——ここは加賀瀬尾警察署の取調室。ここには大庭と桐月、神在と真城の他に、数名の人間が集められていた。ちなみに真城と桐月の2人はずっと事務所に居たが大庭に呼び出された。

そして神在と真城の2人ははマジックミラー越しに取調室を傍観している。


「さぁて、まずはなんで集められたか、だな。こんなかでわかる奴はー?」

そのままの顔つきで、大庭は口を開く。


「わかる訳ないじゃない!」

と、喚くのは間宮智史の妹・間宮明音まみやあかね。証言通り、兄にそっくりである。


「…青葉について、か?」

と暗い顔で呟いたのは間宮智史。割とイケメンである。


「……いや俺は関係な、くは、ない…けど…お、俺はやってねぇぞ?!」

と必死の弁解をするのは東阪青葉の兄・東阪樹とうさかいつき。間宮兄妹とは違い、妹の写真とはあまり似ていない。


「まあ確かに私は第一発見者ではあるけどねぇ…」

とぼやくのは大家さん。めちゃくちゃいい人そう。



「うんうん、みな思い思いの事を言ってくれて結構結構!」

ニッと白い歯を見せつつ、清々しい笑顔でそう言う大庭はまるで悪魔のよう。しかし椅子を行儀悪く背もたれに跨っているためにそこまで怖くはなかった。

「お前ら4人をここに集めたのは他でもねぇ、東阪青葉を殺した犯人を当てるためだ」

大庭の目の色が変わる。先程まではふざけた態度だったが、真面目でどこか殺気のようなモノも感じられるような気がする。


——ざわつく取調室。

自殺と報じられた人間が、実は他殺だったなんて——。

そんな声が其処彼処から聞こえてくる。


「はいはい静粛に静粛に!」

そんな動揺によるざわめきを破ったのは桐月だった。

「それで?どいつが犯人なんだ、大庭」

「…ヤケに冷静だな?桐月、お前何か」

「俺もあの死体を見た時なんとなく他殺なんじゃないか?という気はしていたからな。それだけだ」

「ほーん。まあどうでもいいや。じゃ、正解発表と行こうか」

大庭はそう言うと目を瞑った。

そして、目を開いた時、彼の瞳に映っていたのは。





「——間宮明音。


お前が、犯人だ。」






「…証拠はあるんでしょうね?」

指名された明音は、動じなかった。あくまで冷静にそう答えた。だが、その額には一粒の雫が浮かんでいた。

「ああ、あるとも」

大庭は白衣のポケットから、黒い何かを取り出した。

それを見た神在は思わず声をあげた。

「え、アレって…」

「何か知っているんですか?神在さん」

「ああいや、さっき家宅調査した時に大庭と一緒に見つけたんだよ。いつの間に持って行ってたんだアイツ…」

「そ、そうなんですね…」

呆れた顔をして神在は真城に向けていた目線を大庭へと向ける。


「…なによ、それ」

「ん?覚えてないか??こらなぁ…指輪の箱だよ。

()()()()()()()()()()()()()()()()はずの、な。」

「…それが、どうして私が犯人だという証拠になるの?」

「よぉし、それじゃあリクエストにお答えして俺の推理を披露しよう!」

そう言って得意げな笑顔を見せ、大庭は話を続ける。

「まず、間宮明音。お前は大の兄貴好きだ。そらぁもうこの世が滅んだとしても愛してる!っていうくらいに。」

「そっそんな事っ!」

顔を真っ赤にして、明音は立ち上がる。

そんな彼女を「まあまあ、まだ終わってないから落ち着けって」と宥め、大庭は推理を再開する。

「んで、そんな兄貴に恋人ができた。

…ここは兄妹だな。どっちもヤキモチ焼きだった。

兄を誰にも渡したくない妹と、自分の彼女を誰にも渡したくない兄。

まあここで三角関係ができたわけだ。兄貴が妹の恋心に気づいてたかは知らんが」

「……そうだったのか、明音」

「…………ふん」

智史はこの時初めて妹の気持ちに気づいたらしく、心底驚いたという顔をしていた。

妹の方は耳まで真っ赤にしてそっぽを向くだけだった。

「そんで、兄貴の嫉妬心が昂ぶったのかなんなのかは知らねぇが、東阪青葉に結婚を申し込んだ。指輪はそん時のだ。」

「まて大庭、死体には指輪は無かったぞ?」

「おいおい落ち着け桐月。まだまだこれからだぜ?」

怪訝そうな顔をして横槍を入れた桐月を、大庭は笑いながら制し、続きを話す。

「なんらかの方法で指輪を買った事を知った明音は、嫉妬心に駆られ、東阪青葉んとこまで行った。東阪青葉は…多分ニブい奴だったんだろうな。兄の嫉妬心にも、妹の嫉妬心—いや、殺意にも気づけなかった。だから訪ねてきた彼氏の妹を快く迎え入れた。——そこで悲劇が起こる。」

フッと大庭の顔から笑みが消える。

「東阪青葉が油断しているところで、その首を、手で締めた。

力一杯。許しはしない、という気迫を込めて。

いきなりの事だったから抵抗はおろか、助けさえ呼べなかった。あんな小綺麗な部屋だ。手につかんだ物で殴る事も出来なかったんだろう。

…或いは、東阪青葉の優しさ故、彼氏の妹を傷つけたくはなかった、というのもあるかもしれねぇ。自分が殺されかけてるのにそんな事を考えられるかどうかは知らねぇが。

それで、お前が気づいた頃にはもう、彼女は息をしていなかった。

途端にパニックになったんだろな。ん、でもまあ案外冷静だったやもしれん。狂人の洞察力って奴な。今も冷静っぽいしお前。」

チラと明音の方を見る。

冷静に静聴するその姿は、最早一周回って自分が犯人だと主張しているようにも見える。

「まあそこはどうでもいい。重要なのはその後だ。

お前の頭には「自殺に見せかければいい」という考えが浮かぶ。どうしてそんなもんが浮かんだのかは知らねぇが、その思いのままに動いた。

ちょうどスズランテープが落ちてたしな。これで首吊りのように見せてやろう、と。そう考えたんだろ?間宮明音。」

間宮明音は何も答えない。

「…黙秘だんまりか。まあいい。

スズランテープで吊るのはいいが、このままでは下ろした時に手で締めた事がバレてしまう。そこで使ったのが化粧品…ファンデーションだな。こいつは満遍なく塗ってしまえば肌の色と同化する優れものだからな。

あとはどこにどう吊るしたか、だが。これは簡単だな。

傘付きの電球。あそこに引っ掛けた。

持ち上げたのは…ベッドって普通壁につけて使うものだろ?まあそういう事だ。テコの原理的な感じ。てかお前首絞め殺せるから腕力ありそうだしな。」

「そうだね、明音は昔から役者目指して鍛えていたからね」

顔の爽やかに反し、無感情な、淡々とした声色で、間宮智史は口を挟む。

「なるほどな。だが今回はそれが裏目に出たな。」

「……まさか明音が青葉を殺すなんて…」

そんな信じられないという思いを込めたセリフが、智史の口から出た瞬間、ずっと黙秘だんまりを続けていた明音が立ち上がって大声で怒鳴り始めた。顔を真っ赤にして。

「だって仕方ないでしょ!?お兄ちゃんから結婚指輪貰っていい気になるから!!!私が絶対に貰えない物をアイツが持ってるから!!!私だって欲しかった…!お兄ちゃんが…お兄ちゃんが欲しかったの…!!」

嗚咽を漏らしながら、彼女は椅子に座り込む。

その隙に、桐月は彼女の無防備な腕に手錠をかけた。

その間は誰も何も言わなかった。

ただ哀れな妹の嗚咽と、静寂だけが流れた。


「——いや、しかし。見事な自殺劇だった。俺でなければ見逃してたね」

明音が桐月に連れられて、扉から出るその前。

大庭が口を開いた。

「そう、彼女は重要な部分を踏まえてなかった。それは——」


にっと笑うそれは。

——悪魔か、それとも。


「——首吊り死体は、クソが垂れ流しなんだぜ☆」









——彼の名前は、大庭睦月。


巷の人々は彼に対し、賞賛とたまに軽蔑を含んで、こう呼ぶ。




——自殺探偵、と。

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