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自殺探偵  作者: きのこシチュー
3/20

case1.自殺トリックを暴く者-3

「…間宮智史は容疑者ではない?」

神在は鳩が豆鉄砲を食らったような顔と声を出した。

「ど、どういう事だよ」

「説明してやっからこっちに来い」

未だ遺体から離れたところにいる神在を、大庭は手招きして呼び寄せる。

「…っ」

神在が死体を見て、顔をしかめたところで、大庭は口を開く。

「…まず、誰かがこいつの首を手で力一杯絞めた」

首についた赤黒い縄の跡を指差した…と思った次の瞬間、指先でその跡の上下を擦る。

「は?!おい勝手に死体に触れちゃ…ッ?!」

「——ほらな。これはただのカモフラージュ、恐らく女性の使うファンデーションだ」

彼がなぞったところの肌色が剥がれ、下に隠された、本当の絞め痣がその生気のない綺麗な肌に浮かび上がった。

赤黒いそれは、あからさまに『手で絞めました。』とでも言いたげであった。

「…なるほど、だから『間宮智史は犯人ではない』?」

「そうだ。つーわけで、間宮智史に事情聴取しに行くぞ」

くるりと踵を返し、大庭は死体安置所から出ようとその足を進め始めた。その決断の早さ、潔さはもはや賞賛に値するな、と呆れ、そしてため息混じりに神在はそう思った。

「あのなぁ大庭。簡単に言うけどな、勝手に事情聴取なんてしちゃダメだと思うぞ?それに、俺らは被害者の東阪青葉の事も、間宮智史の事も、全くもって知らない。知っているのは東阪は恐らく昨日命を絶った事と、東阪と間宮は付き合っていたという事だけ。まずはその辺じゃね?」

すぐに行動に移してしまう大庭に、神在は冷静かつ的確に今の状況を進言する。

そんな彼の真面目な顔に、大庭は目をまん丸くする。

「…神在が、探偵の助手みたいなこと言ってる…」

「いや、ガチの探偵の助手だからね…?」

神在の呆れ顔が加速する。


そうして、二人は、死体安置所を後にした。





――――――――――――――


数十分後。


「…あのさ。お前、俺の言った事分かってんのか?」

「ああ。だからここに居るんだろ?」

二人が居る場所は、加賀瀬尾市夕顔町二丁目のとあるアパートの一室。東阪青葉が自殺した場所である。

「いやさっきの流れどう考えても容疑者と被害者についての情報収集の流れだったろ!!少なくとも俺はそう考えてたんだが?!」

神在の大声が部屋中に響く。

ちなみに部屋の鍵は大家さんに言ったら普通に開けてくれた。

「そうカリカリすんなって。カルシウム足りてっか?」

「わけわからん煽り方すんな!!あと牛乳なら毎日飲んどるわ!!」

いっそう大きな声が響く。

そこまで言い切ったところで、神在は息が切れ、肩を上下に揺らしながら乱れた息を整える。

その間にも大庭は部屋のものを色々物色していた。

「…はぁ。まあもういいや…東阪と間宮の二人については聞き込みでもすればいいもんな…それにしては色々ハショリ過ぎだけど…つうかアッサリ鍵も開けてくれちゃってるしさ…」

ため息混じりに頭を抱えてそうブツブツと神在はボヤいた。

そんな声など聞こえないと、大庭はぐんぐん先に進み、物を拾っては捨て、物色しては放り投げひっくり返していく。

「…それにしても綺麗な部屋だな」

息の落ち着いた神在が、散らかす大庭の後を追いながら、そうポツリと呟いた。

「まるで事件から俺たちが来るまで何も弄ってないような…?」

「そりゃそうだろ」

相変わらず散らかしながら、大庭は振り向きもせずそう言い放つ。

「最近何故だか知らんが殺人事件が多い。それもこういった変に凝ったトリックのものがな。おかげで俺は退屈しないが…警察や死体処理、特殊清掃の側は人手が足りないんだろう。毎日毎日事件、だからな。もはや警察やら新聞記者やらは飽きてるんじゃないか?ってくらいさ。それに元からそういった類の職種をやりたがる奴は少ないもんだしな」

「…だからか。死体安置所に東阪青葉以外の自殺死体も眠ってるように感じられたのは」

神在は言いながら、死体安置所の冷たい空気を思い出し、一つ身震いをする。

彼は霊感が無くはないが、気配だけ感じる程度の弱いものなので、そういった場所に行くのが少し苦手である。


大庭がとある部屋を開いた。

そこは女性の寝室—東阪青葉の部屋のようで、シンプルな家具でまとまっていた。

ほかの部屋に比べ謎の冷たい空気に包まれていた。

「…ここで、死んだのかな」

「さあな。それはこれから物色する」

相変わらず前だけ向いて、大庭は親友の問いかけにそう答えた。

かくして、大庭と神在によるこの一室の探索が始まった。



「…ん?なんだこれ」

探索中、神在はあるものが床に転がっているのを発見した。

拾い上げ、まじまじとそれを見つめる。

「どうした神在、何かあったのか?」

「いや、これ…」

それは、小さな黒い箱だった。

かぱっと蓋が開き、中には箱と同じ色の、真ん中に切れ目の入ったクッションのような何かが入っている、という物だった。

「…指輪、か」

ひょいと神在の手の中から箱が取られる。

大庭はその箱を何の意味もなく、かぱかぱと開いたり閉じたりと弄ぶ。

「指輪?でも東阪青葉の死体には無かったぞ?」

「そうだな。ベッドの下とかに転がってるかもしれねぇし、神在、探しといてくれ」

ポイ、と黒い箱を捨て、大庭は神在のそばから離れて行く。

「そっちもなんか見つかったのか?」

「いんや、なんとも。」

「んだよそれ…」

俺ただのパシリかよ…とぼやきつつ、神在は言われた通りベッドの下を弄り始めた。


「…これか。縛った縄は」

神在から別れた大庭は、部屋の隅に落ちている物に近づく。

それは、白のスズランテープだった。

そばに古雑誌や古新聞、鋏が置いてある事を見ると、それらを縛るために置いてあったのだろうと分かる。

「さて、ではこれをどう吊るした、か…」

そのスズランテープを手で遊びながら、大庭はキョロキョロと辺りを見渡す。

机。椅子。タンス。本以外の色々な物も収納されている本棚。フレームのガラスの割れた写真。傘の形の釣り電燈。薄い桃色で彩られた、少し乱れたシンプルな寝台。そして神在のケツ。

そのどれもが、事件から少しも変化していないのだろう。

「……ん?」

——そこで、大庭の頭にはある仮説が生まれた。



数分後。

「おーい大庭ぁ…なんもねぇぞ…」

成果なしと言いたげに、ベッドの下から埃だらけの神在がもそもそと出てくる。

しかし大庭はそれに答えず、なにやら熟考しているようだった。

「大庭ー?」

彼の視界に入るような位置に立ったり、瞳の前で上下に手を振ってみたり、ほっぺをふにふにしたりしたが、大庭はまるで気づいていないとでも言いたげに考え続けている。

「………」

そんな親友の態度にイラッときた神在は、彼の両肩に両手を乗せて思っきし上下左右に振る。

ぐわんぐわん、と擬音の付きそうな勢いで大庭の首が揺れる。

「おいやめろ神在、今ちょっと纏まってきたとこ、なん、ちょ、やめ、吐きそ、おい、和夫、」

青い顔をした大庭に気づいた神在はパッと手を離す。

いきなり解放された拍子に大庭は大きくよろめく。口を押さえつつ。

「うっぷ…いくらなんでも振りすぎだ神在…しかも上下左右とかふざけておぇっ」

「おいここで吐くなよ?てかお前そんなに三半規管弱かったっけ?」

「俺は考え事してる時に揺らされるとうぇっ、酔うらしおぅっ」

そうだったのか。また一つ新しい事を知った。今後大庭に理不尽な事されたらやってやろう。—そう神在は企んだ。

「そんで?指輪はどうだっおうぇ」

「お前とりあえずトイレで一通り吐いてこいよ…」

大庭は神在の言う通り、トイレに入っていった。


数分後すっきりした面持ちで大庭がトイレから帰ってきた。

そして先程聞きそびれた事を話し始める。

「気を取り直して。指輪はどうだった?」

「いや無かった。どこにもだ」

それを聞いて大庭は何かを確信したらしく、

「やっぱか」

とと呟いたのち、踵を返して玄関の方へ向かっていった。

「ちょオイ!どうしたんだよ!てか置いてくな!!」

遅れて神在もそちらへ向かって行った。



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