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自殺探偵  作者: きのこシチュー
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case1.自殺トリックを暴く者-1

——うん?おや、どうしたんだい?

迷子になったのかな?

それとも、僕に会いに来たのかな?

…え?どちらも違う?そうか。そういう事もあるのか。

まあいい。せっかく来たんだ、ゆっくりして行くといい。

え?僕が誰かって?

んー…まあ強いて言うなら観測者、いや、幽霊ってところかな?

うんそう。この世に未練を残して死んだっていうアレ。


そうだ、とっておきのお話があるんだった。ちょっと暇つぶし程度に…っていうか老人の独り言だと思って聞いてもらえるかな?


そうかい、ありがとう。

じゃあ話そうか。


これより話すのは、とある変わった探偵のお話——


――――――――――――――――――――――――――











——キンコーン、と扉のベルが鳴る。

「はいはーい」と若い男性の声がして、その扉は開かれる。


「お待たせしました、こちら大庭探偵事務所です」






紅に咲き誇る月と〜松の章〜

『自殺探偵』

case1.自殺トリックを暴く者






バンッと強い音を立てて応接間の扉が開く。

「大庭探偵はいるか!!」

眼鏡をかけた黒髪短髪の男が大声を出しながら、応接間の奥に鎮座するデスクの前へと突き進んで行く。そこには新聞を広げ、まるで男の声など聞こえてないとでも言いたげな青年が座っていた。

「殺人事件の依頼だ!大庭探偵!」

ばさっと男はデスクの上に書類をぶちまけた。

しかし大庭と呼ばれた白衣の青年はそれらと男に見向きもせず、食らいつくかのように新聞を読みふけっている。

そんな様子に痺れを切らした男は、怒りのままバンッと力強くデスクを叩いた。

「は、な、し、を、き、け!!」

音と大声によって、大庭はやっとその男の顔を見た。

が、すぐに手元の新聞に目線を戻し、何事もなかったかのようにぱらりと新聞をめくる。そしてデスクの上に置いてあっマグカップの中身を口に含む。

「ん、これで最後だったか…真城、コーヒーおかわり」

「はーい!」

大庭の座るデスクの右隣の扉の奥から、真城と呼ばれた少女の声が響く。カチッとスイッチの入る音の後、火の灯る音が聞こえたので、彼女のいる部屋はおそらくキッチンなのだろう。

「ッあ〜〜〜〜!!!!」

いつまでも態度の変わらない大庭に、男はわっしゃわしゃと自分の頭を乱暴に掻き毟る。

と思えば次の瞬間、彼はいつまでも大庭の視界に居座るその紙を、強引に上からかっさらう。

「あ、おい!なにしやがる!」

「なにしやがるはこっちのセリフだ馬鹿者!!依頼だ、と言っているだろうが!!」

男は凄い形相と大声で大庭に迫る。

大庭はそんな男に対しあからさまに嫌な顔をした後、一つため息を吐いた。


「相変わらずうるさい刑事デカだな、桐月文也」

「誰のせいだと思ってるんだ、自殺探偵大庭睦月」


心底忌々しいと言いたげな探偵と、怒りで威圧する刑事。


探偵の名は大庭睦月おおばむつき

刑事の名は桐月文也とうげつふみや


この二人は、旧知の仲である。



「で、依頼は受けてくれるんだろうな?」

「さーぁな。受けるも受けないも俺の勝手だろ?」

と、そこで不意にキッチンの扉が開く。中から湯気の立ったコーヒーの良い香りのするマグカップを持って、助手の夜宵真城やよいましろが出てきた。

彼女はそのマグカップをデスクに置き、空になったマグカップを手に取った。

と、そこで大庭と相対している人物に気づいたらしく、

「アレ?!お、お客さんが居たんですか?!あわわ、こ、コーヒー淹れてきますね!!」

と慌ててキッチンへ引っこんでしまった。ぺこぺことお辞儀をしながら。

「……なあ大庭」

「あ?」

「俺っていつも彼女に忘れられてない?」

「さあな、知らん」

大庭は真城の淹れてくれた新しいそれを、さっそく口に含んだ。


「なあお前ホントに受けないのか?ちゃんと依頼料出るんだぞ、やって損は無いと思うが」

真城の介入によってか、桐月は先程までのイライラした態度から、ため息混じりの呆れ顔に変わっていた。

しかし大庭は桐月の一歩譲ったその提案を鼻で笑う。

「は、俺は別に依頼料の為に事件解決してるわけじゃあないんでね。神在!」

大庭はガタリと音を立てて立ち上がる。

神在、と呼ばれた今まで背景と化していた、はじめにドアを開いた青年が「はいはい」と言いつつ桐月がその辺に置いた新聞を取り、大庭に手渡した。

そして大庭と神在は桐月の隣を抜け、ドアの方へ向かっていく。

「お、おい何処へ」

「うっせぇお前はお前でその書類持って帰れ。探偵に頼らず本職のヤローが決着つけろ」

唐突に動き出した探偵に驚いた桐月だったが、大庭のそんなセリフに一蹴され、それ以上は言えなくなった。


大庭は白衣を翻し、外へ出て行く。

「留守は頼んだぞ、真城!」

そんな彼の大声だけが、探偵事務所に響き渡った。






「ところで大庭、今回はどの記事が引っかかったんだ?」

外に出たところで、大庭の助手である青年・神在和夫かんざいかずおが新聞を広げ大庭にそう尋ねた。

「ん」

大庭はそれだけ呟くと、一つの記事を指差した。


そこには、


『アパートの一室で首吊り遺体を発見。原因は浮気か?』


と、書かれていた。



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