負傷
「鈴木くんってねー土屋さんと仲いいよねー」
「い、いきなり何を?」
「照れちゃって、かわいいねー」
放課後になり、俺は田中先生に頼まれプリントを一緒に運んでいた。この人以外と強引で、まったく話を聞かない。
「土屋さん、急に明るくなったんだんよねー。確か鈴木くんと一緒にいるようになってからだねー、どうやって仲良くなったのかなー?」
そのうえ、気にした様子もなくプライベートに土足で踏み込んでくる。佐藤先生がましに思える癖の強さだ。
「つ、土屋さんが引っ越してきて家が近くになったんです。その後は成り行きで」
「ふーん、そうなんだねー、なら帰り道に合うことぐらいあるねー。土屋さんてかっこいいからねー、私が男だったら間違いなく惚れていたねー」
教師としてその発言はどうなんだ。
その後しばらく田中先生の独り言に付き合い、解放されるのに時間がかかった。というかあの人、自分の分を押し付けてきたうえに置く場所指定して先に帰ったよ。手伝わせておいてすごいな……。
こうしてはいられない土屋さんを待たせているんだ、急がないと。
「よう鈴木、元気にしていたか?」
曲がり角でめんどくさい奴らに見つかった。
一組の不良グループ! くそ、こんな時に。
「お前が二組に替わったって聞いてよぉ、心配になって見に来たんだよ。元気そうで何よりだぜ。折角だ、クラス替え祝いに俺たちと遊びに行かねえか?」
逃げようとするが、不良たちに行く手を遮られ身動きが取れない。
薄気味悪い笑みを浮かべながらにじり寄って来る。このまま連れていかれれば、どんな目に合うのか……。
「そこで何をしているの?」
「つ、土屋さん!」
曲がり角から出て来た土屋さんが腕を組みながら不良たちを睨み付けていた。俺が遅いのを心配して見に来たのだろう。
不良たちは僅かに怯むが、それはすぐ余裕の表情に変わる。何だと思えば、不良の一人に後ろから首を絞められた。
「鈴木君!」
「土屋さんよぉ、そんなにこいつが大事か? 孤高の姫だったあんたが俺は好きだったが、こんなもやしのケツを追っかける女になっちまって、がっかりだ」
俺のせいで、土屋さんが身動きを取れずにいる。
睨むだけで手出しができない土屋さんの腕を不良が掴んだ。前のこともあって絶対に怖いはずなのに、おくびにも出さない。
「っつ!」
「痛っ!」
土屋さんを助けるため、首を絞めていた腕に噛みつき、腕を振り払う。そして土屋さんに迫っていた奴に殴りかかった。
「ちっ! 糞が、調子に乗るな!」
俺の拳はあっけなく止められ、逆に頭を殴り返され倒れ込んだ。激痛で立ち上がれず、顔を生暖かい液体が濡らす。どうやら今ので出血したらしい。
「お姉さま―! お待たせしましたわー!」
「お前たち何をしている⁉」
猫矢さん、それと佐藤先生が血相を変えて走って来た。恐らく土屋さんが声を掛ける前に猫矢さんに指示していたのだろう。
「てめえ……!」
さすがにこの状況はまずいと不良たちは一目散に逃げだした。倒れ込む俺に解放された土屋さんが駆け寄って来る。
「鈴木君!」
意識が朦朧とする中、必死で俺を呼ぶ土屋さんの声だけが聞こえていた。