焼き芋
久しぶり。
最近すっかり冷えてきた。人気のない夜道の中、何か温かいものでも食べようかと歩いていると――。
「焼き芋―おいしい焼き芋はいらんかねー?」
知り合いが焼き芋の屋台を引いていた。
元国民的アイドルなのにその姿はやけに板についている。
「ヘイ! 鈴木竜一! 奇遇だねえ」
「何やってるの火富さん?」
「知り合いのおじさんが腰痛めちゃってね、今日だけ手伝いしてるのさ! お一つ如何かな?」
困っている人がいたら助ける。そんな当たり前のことを実践できるのが火富さんの美徳だ。思い込みが激しく、時には暴走するのが玉に瑕だが、その優しさゆえに人の心をつかむのだろう。
そんな俺も頑張るその姿を見てついついお金を出していた。
「せっかくだからいただくよ。一つください」
「まいど!」
新聞紙に巻かれた出来立てほやほやの焼き芋を受け取る。
あちち、これはすぐ食べれそうにないなあ。
「私がふうふうして食べさせてあげようか?」
「さすがにそこまでしなくていいよ」
「つれないなあ、キミのためだったら喜んでするのにぃ。それこそ、あーんなことやこーんなことも――」
一人盛り上がっている火富さんを無視して焼き芋を真っ二つにすると、あふれ出る湯気と共にきれいな黄金が姿を見せる。
少し覚ましてからぱくりといただく――これは! ほくほくとした食感に蜜のような上品な甘さが合わさり最高においしい!
熱さなど気にせず無我夢中で食べてしまった。
「おいしいでしょ? だけど私はおじさんの作る焼き芋こそが世界一だと思ってるよ。あーあ早く復活してほしいなあ」
これもおいしいのにそれ以上なのか。想像するだけで思わず喉が鳴る。
「……これまで食べてこなかった後悔するな」
「ふっふっふ、どれだけおいしいか気になるかな? おじさんが復活したら教えてあげるからその時を楽しみにしていてね」
そう聞くとまた腹の虫が鳴る。晩飯前だが、もう一個ぐらい買っていいだろう。だってこんなにおいしいのだから。
もう一つ焼き芋を買い、今の味をかみしめる。考えればこの味も今だけの期間限定だ。
俺は夜空を見上げながら、まだ見ぬ焼き芋に思いを馳せるのだった。
少しずつでも続けていくよお。