勝者と敗者
のんびりしすぎて投稿が遅くなってしまった。
「まずいことになった」
先日行われたテストの結果が掲示され、学生たちが掲示板を前に集まっていた。
己の順位を不安そうに確認し、ほっと胸をなでおろすもの。あまりの成績に崩れ落ちるものと、この一帯では勝者と敗者に二分されていた。
もちろん下層で名前を見つけ、肩を落とす俺は敗者に該当する。
さすがに留年とまではいかないが、赤点を取ってしまったので追試は免れないだろう。
「また学年一位か。土屋さんはさすがだな」
「文武両道、才色兼備。まさに高嶺の花であるな」
ふとそんな会話が耳に入り、目に入ったのは学年の頂点に存在する氷さんの名前。あこがれの人が堂々の一位で我が事のように誇らしかったのだが、対する自分の不甲斐なさに首を垂れるしかなかった。
「何を落ち込んでいるのだ鈴木。さては成績が振るわなかったのだな?」
「蚊藤」
余裕の表情で蚊藤が俺の肩を叩く。
「気にすることはない。一度敗北しても次は勝利すればいいのだ」
「ということは、お前は追試ないのか?」
「全教科追試だ」
「――え? まずくね?」
「ふっ、このままでは留年だな」
「何誇らしげにしてるのよ馬鹿‼」
「んぎゃー‼」
蚊藤の腰に金髪の女子生徒の飛び蹴りが見事に炸裂。
くの字になって吹き飛んだ蚊藤は勢いのまま廊下を転がり、壁にぶつかってようやく止まった。
「普通は全教科赤点なんてとれないわよ‼ 一体今まで何をしていたのよ!?」
「ゲームだが?」
「する時間を考えなさい‼」
まったくもってそのとおりである。
金髪の女子生徒は蚊藤を正座させ、周りの生徒のことなど気にせず説教を始めた。
見た目はきつそうな人だけど、これは完全におかんだ。頬を膨らませてふてくされている蚊藤は子供といったところか。
「助けてくれえ鈴木―‼」
「うわ! 引っ付いてくるな‼」
「こら! 話はまだ終わって――あんた誰?」
「す、鈴木竜一だ」
「あんたがこいつの言ってた新しい友達ね、私は香取千子。こんなもやしみたいなやつと仲良くしてるなんて、あんたも物好きね」
「もやしとはなんだ!」
二人はまた言い争いをはじめてしまった。
「ヘイ! 鈴木竜一!」
「火富さん?」
笑顔で火富さんが後ろから抱き着いてきた。
胸の感触に頬が火照るのを感じる。
「ほうほう顔が赤くなっちゃって、かわいいね」
「からかわないでくれ。ところで火富さんの成績は?」
「私は留年の危機だ」
「お馬鹿‼」
一瞬で顔の火照りが消え失せた。
ふらふらと抱き着くのをやめ、あきらめたような表情で虚空を仰ぐ火富さん。
見てみると名前が最下層に沈んでいた。
「私は一体どうすればいいんだ!? このままだと留年して、キミと一緒のクラスに――あっ、それはそれでありかも」
「ありじゃない‼」
こちらの胸倉をつかんで揺らし始めた火富さんを引きはがし息を整える。
人のことは言えないが、まさか火富さんの成績もここまで悪いとは思っていなかった。
「むむむ、これは鈴木竜一に失望された匂い! うおー! マジやっべえ!」
「いやいや俺も追試組だから」
「そうなの? それはよくないなあ、勉強しなきゃ」
「火富さんもな」
「返す言葉もございません」
二人そろって大きなため息をつく。
数日後の追試を考えれば考えるほど気分が沈んだ。
「どうしたの?」
「元気がありませんわね」
「氷さんに猫矢さん」
氷さんは言わずもがな、猫矢さんの成績も学年トップクラスだ。氷さんの友達として恥をさらすことはできないと努力しているのだろう。
「何を隠そう私たちは追試を受けることになってしまったんだよ」
「姉さんはともかく鈴木君も?」
「あっ、この反応。氷ちゃんの中で私は追試受けること前提なのね」
「うん」
勝手に自爆して火富さんは崩れ落ちた。
氷さんの心配そうな視線が突き刺さる。
「恥ずかしながら英語だけはどうしても苦手で……」
つい目をそらしてしまった。
申し訳なく思いちらりと表情をうかがうと、何やら考え込んでいる様子。
少しすると、妙案を思いついたのか手を合わせる。
「ならうちで勉強会する?」
「え?」
「お姉さま!?」
こ、氷さんの家で勉強会!?
学年一位の氷さんに教えてもらえるのならこれほどありがたいことはないが……。
「せっかくの連休だから泊まり込みで勉強しよう」
「マジですかい!? 喜んでえええええええええええええええええええ‼」
「あんたは遠慮しなさい‼」
蚊藤は再び飛び蹴りで吹き飛んだ。
短いですが続きます。