少女の思い4
「何をしているんだ?」
鈴木竜一が男を睨み付ける。
私が見たことのない勇ましい顔だ、不覚にもどきりとした。
「お前はこいつと一緒にいたガキか、助けにでも来たのか? 格好いいじゃねえか」
男はおどけるように肩をすくめる。
「見られちまったのはまずかったが、俺の優勢に変わりはない。写真は当然コピー済みで、週刊誌は修正してあるがお前の顔がばっちり映っている分もある。社会的に死にたくなければ俺に従うんだな」
「脅しのつもりか?」
それだけは駄目だ! 何かされるのは私だけで十分――!
私は逃げるように言うが、鈴木竜一は表情を崩さず、見せつけるように何かを取り出した。
「なんだそれは? ただのボールペンじゃないか」
今度は鈴木竜一が呆れたように肩をすくめた。
それを見て男の額に青筋が浮かぶ。
「お前、自分の立場が分かっているのか? ふざけた真似すると、写真をばらまいて一生世に出れなくするぞ?」
「――その言葉、返させてもらう。このボールペンにはカメラが内蔵されている、今のやりとりも撮影済みだ――何が言いたいかわかるな?」
男の顔が真っ青に染まる。
自分が絶対有利だと思っていた状況が覆されたのだ。
「俺を道連れに逮捕されるか、俺達と一切かかわらずこれまで通りの生活をしていくか、選んでもらおうか」
狼狽える男だがその表情が突然変わる。
どこか吹っ切れたような獰猛な笑みだ、これはまずい。
「仕方ねえ、俺にはその手の知り合いも多くいる。お前をばらして口封じさせてもらおうか」
「やめて‼」
私は男に掴みかかり、抑え込もうとする。
だが私の小柄な体ではなすすべもなく、男に投げ飛ばされてしまった。
地面で体を強く打ち、肺から空気があふれ出る。
男に髪を掴まれ強引に立たされた。
「火富さんを離せ!」
「誰が離すか。お前はそこで大人しくしていろ」
あぁ、最後の最後で足を引っ張ってしまった。
ごめん――
「その手を離せ、下種が」
男の体が地面に叩き付けられる。
何事かと思えば、氷ちゃんが隣に立っていた。
どうやら路地の反対から回り込み、男をそのまま一本背負いしたようだ。
氷ちゃんはうめく男の腹を殴り、気絶させるとすぐに駆け寄って来た。
「遅くなってごめんなさい。あぁ姉さんの顔に傷が……」
顔に触れると、何やらねっとりしたあたたかいものに触れた。体をぶつけた時額を切ったみたいだ。
氷ちゃんも鈴木竜一も申し訳なさそうにこちらを見ている。
迷惑かけたのは私なのに、全部私のせいなのに。
情けなくて、いつの間にか目から涙があふれ出ていた。
「二人とも……ごめんさい……ごめんさい」
私は鈴木竜一の胸を借りて泣き続けた。