みんなで動物園に行こう2
「モウダメダー」
数々の壮絶な体験の果て、俺はベンチで仰向けになっていた。
明日筋肉痛確定、しばらく動けない。
土屋さんは申し訳なさそうな顔していたが、まだまだ元気そうだったので遠慮なく動物園を回ってくるように言った。
最初は首を横に振っていた土屋さんだったが、後ろ髪を引かれる思いがあったようで、最終的に動物園を見て回ることを選んだ。
そういえば先ほどからメラ子ちゃんの姿が見えないが――
「えい」
「冷たっ‼」
頬に冷たいものを当てられ思わず飛び上がると、メラ子ちゃんが缶ジュースを二つ持ちながら声を上げて笑っていた。
「あははは! ナイス反応! 今のはポイント高いよ‼」
「嬉しくもなんともないやい――っとサンキュー」
投げられた缶ジュースを受け取る。
氷の様に冷えたオレンジジュースだ。
ぐいっと一気に飲んでのどを潤す。
「ぷはー」
「何だかおっさんみたいだね」
「うるさい」
メラ子ちゃんが俺の横に座り、缶ジュースを開けると一気に飲み干した。
そして一息ついたかと思えば、空になった俺の缶を奪い取り、ごみ箱に捨ててから戻って来た。
「今日は付き合ってくれてありがとう、私も氷ちゃんも楽しかったよ」
「俺もだ、同年代とこうやって出かける機会なんてほとんどなかったからな」
「――私はキミと話やすいと思うけど、前の学校では本当に一人で過ごしていたの?」
頷くしかない、今でこそましになったが、前の学校まではひどいものだった。
俺は話しかけるのが苦手で、いつも相手の行動を待っていた。
友達を作ろうにも誰かが話しかけてくれるだろうと待つだけで、いつも気づけばぼっちになっていた。授業で二人組作ってと言われた際は地獄だった。
寂しくなかったと言えば嘘になる、一歩踏み出す勇気が持てればと何度も自分を呪った。そんな時、襲われていた土屋さんを見かけた――
「――そうか、キミの一歩が氷ちゃんを助けてくれたんだね。本当にありがとう、キミのおかげで大切なものを失わずにすんだ。何かあったら頼ってほしい、必ず助けになる」
そう言ってメラ子ちゃんが俺の手を両手で握る。
――顔が近い。
このメラ子ちゃんスタイルじゃないと恥ずかしくて顔赤くなっていただろう。
「ふふ、顔赤くなってるよ?」
「え⁉」
思わず頬を触ると、一気に顔が火照ったのがわかった。
そして何故かメラ子ちゃんは笑っている。
「あはは! 冗談だったのに本当に真っ赤になっちゃた。かわいいね」
先ほどまでの真剣な雰囲気が無くなったメラ子ちゃんに拳骨を落とす。「暴力反対!」と頭を押さえながら訴えられたが、からかう奴が悪い。
「すぐ暴力を振るうところは減点だよ! だけど、私がからかったのも事実だし、あそこの売店でアイス買って来てあげる!」
え? さっきのジュースでお腹冷えて――行ってしまった……。
冷たいジュースを一気に飲んだのがまずかったのか、お腹の調子が少し悪い。
果たしてアイスに堪えられるかどうか――いや、メラ子ちゃんがせっかく買ってきてくれるのだ、ここで断れば男が廃る。
ほんの少しだけ辛抱してくれ、俺のお腹よ。