少女の思い1
メラ子ちゃん視点になります
妹が事件に巻き込まれた。
その知らせを受けた時頭の中が真っ白になった。
急いで電話するがつながらず、両親に連絡してようやく無事だと確認できた。
――今すぐ氷ちゃんの元へ向かいたい。
その時氷ちゃんから電話がかかって来た。
「姉さん?」
「氷ちゃん無事!?」
その時は私の方が慌ててしまって、氷ちゃんに宥められてしまった。我ながら情けない。
だけど一度冷静になったら氷ちゃんの話をしっかり聞くことができた。
帰り道突然襲われたこと、話したこともない同級生に助けられたこと。
「急いでそっちに向かうからちょっと待ってて!」
「ダメ‼」
「っ! 氷ちゃん?」
氷ちゃんは嗚咽を漏らしながらも、しっかりと言葉を紡いでいく。
「姉さんは、みんなを笑顔にできる。だから私一人の為に仕事を投げ出してはダメ」
違う、私は誰よりも氷ちゃんを笑顔にしたかったから――
「姉さんならできるよ、応援してる」
「氷ちゃん――」
「じゃあ切るね――あ、鈴木君‼」
そこで電話は切れた。
こんな時でも氷ちゃんは私を応援してくれた。
本当は頼ってほしい、弱音を吐いてほしい――だけど期待は裏切りたくない。
――私は氷ちゃんの笑顔が見たかった。
小さいころは両親の仕事が忙しく、私は氷ちゃんと二人きりで過ごすことが多かった。
氷ちゃんは賢い子だった。私に迷惑をかけまいとわがままも言わず自分のことをこなすようになり、やがて笑うことがなくなった。
何とかしようと考えた私は、氷ちゃんを喜ばせるため即席のダンスや歌を披露した。
見るに堪えないいびつなダンスだっただろう。だけど氷ちゃんは笑ってくれた、拍手をしてくれた。「もう一度」と言ってくれたのが本当に嬉しかった。
両親の仕事が落ち着いてから私は本気でダンスと歌を学んだ。
氷ちゃんにもっと喜んでもらいたい、その一心で努力を重ねた。
アイドルになったのはたまたま友達からオーディションの誘いを受けたからだ。断るつもりだったけれど氷ちゃんに「姉さんはダンスも歌も上手だから輝いてほしい」と後押しを受けたので、やれるだけやってみた。
その結果合格した。あの時、氷ちゃんが泣いて喜んでくれた姿は目に焼き付いている。
最底辺からスタートし、今ではトップアイドル。不思議な気分だけど氷ちゃんの励ましがあれば頑張れると思えた。
氷ちゃんに託された想いを胸に、両頬を叩く。
気合は十分! 今日も行ってみよー‼
――ところで鈴木君って誰?
それが気になってしまい、その日の仕事は少し失敗した。