格闘ゲーム
一度完結にしましたが少し続けたいと思います
「えっ、土屋さんゲームしたことないの?」
座布団に正座した土屋さんが首を縦に振る。
話を聞けば、トランプなど簡単なものはしたことがあるがゲーム機には触れたこともないらしい。
引っ越ししてから、土屋さんはほぼ毎日俺の部屋に来るようになった。
田中のこともあり、「一緒にいると安心する」と言われれば断る理由もない。
一緒にテレビを見たり、雑談をして時間を過ごしていたのだが、部屋に置かれているゲーム機に興味を持ったようだ。
思わず「一度プレイしてみる?」と聞けば全力で頷いた。
「はいどうぞ」
土屋さんはコントローラを受け取ると、興味深そうに触り始める。新しいおもちゃをもらった子供の様に目を輝かせており、俺がつい笑ってしまうと恥ずかしそうにしていた。
コントローラの握り方から、ボタンの押し方を説明し、ようやくゲームを起動する。入っているソフトはいわゆる格ゲーだ。
チュートリアルを済ませ、ある程度戦い方を理解した土屋さんはいきなり戦いを挑んできた。もちろん初心者である土屋さん相手に本気を出すわけにはいかず、わざと負けることにした。
土屋さんが操るキャラのコンボが決まり、俺のキャラが場外に吹き飛ばされる。土屋さんの勝ちだ。
「……鈴木君わざと負けたでしょ?」
「そ、そんなことは――」
あっさりばれてしまい、じとーっとこちらを見る土屋さん。
「私は本気の鈴木君と戦ってみたい。だから、もう手加減しないで」
「……はい」
約束したため、コントローラを握り直す。
これ以上失望されたくないので、全力で挑んだ次の試合は俺の圧勝だった。
さすがにそれなりにやり込んできたため、今始めた初心者に後れを取ることはない。
「ご、ごめんね土屋さん」
よほどショックだったのか、土屋さんはしばらく黙って俯いていたのだが――
「やるね鈴木君。だけど準備体操は終わりだよ」
顔を上げると何事もなくそう言い放った。
しまった土屋さん、すごく負けず嫌いだった。
その後、土屋さんが勝つまでゲームをし続ける羽目になり、気づけば日をまたぎそうになっていた。
満足そうに土屋さんは帰って行ったが、俺の顔はやつれていただろう。
明日学校休みでよかった。