出会い
すっかり陽も沈み、暗くなった高校の帰り道でとんでもない場面に遭遇してしまった。
うちの学生服を着た女性がパーカーを着た人物に襲われ、口元にタオルを押し付けられていたのだ。あれでは声も上げられないだろう。
どうしよう、警察を呼ぶべきだろうか?
いや今から呼んでも間に合わない。
「な、何をしている!」
「⁉」
俺の声に反応してパーカーの人物は一目散に逃げだし、それと同時に女性が力なくその場に座り込む。
「だ、大丈夫?」
屈んで声を掛けると女性が抱き着いてきた。
よほど怖かったのだろう。震えながら嗚咽を漏らしている。
心臓が止まりそうになるぐらい恥ずかしかったが、女性が落ち着くまでずっと背中をさすってあげた。
黒い長髪がさらさらして気持ちよかったし、いい匂いがした。
しばらくすると女性は俺から離れて、見つめ合う状態になった。ここでようやく俺は女性の正体に気づいた。
「助けてくれてありがとう、私は土屋氷。キミは?」
土屋氷。うちの高校で一番の美少女であり、その名の通り冷たいクールな女性として有名だった。告白して撃沈した男子の数は知れず、別のクラスのため遠目で見たことはあったが会話したことは一度もない。
そんな彼女だが、高校とは違いただの儚げな少女にしか見えなかった。
「す、鈴木竜一……」
「本当にありがとう鈴木君。キミがいなかったら私――」
土屋さんは不安そうに瞳を潤ませながら俯く。襲われていたし無理もないだろう
「よ、よければ家まで送るよ。まださっきの奴が近くにいるかもしれないし」
「……うん……ありがとう」
ひとまず土屋さんを安全な場所まで送ることにした。立つように促すが、何故か顔を赤らめたまま動こうとしない。どうやら足がすくんでしまい、立つことができないようだ。
「お、おぶって行こうか?」
「……お願いします……」
「お、おう」
この年で異性に背負われると言うのは抵抗があるだろう、何度も謝ってから華奢な体を背負った。
「……ごめんね、重くないかな?」
「だ、大丈夫。ところで家はどのあたり?」
「最近第一町に引っ越ししたの」
「ぐ、偶然だね。うちもそっちだ」
「そうなんだ!」
土屋さんが嬉しそうに笑顔を浮かべていた。まさか同じ町に引っ越ししているとは思わなかった、これから会う機会もあるのだろうか。
そう思いながら土屋さんの案内で家にたどり着いたのだが――
「こ、こんなに近くだったとは……」
「すごい偶然だね」
土屋さんの家は俺の借りているアパートのすぐ横だった。
近所とはいえアパートの住民にまであいさつ回りはしないだろうけど、こんな偶然あるのだろうか。
「運んでくれてありがとう、もう大丈夫だと思う」
「ど、どういたしまして」
ゆっくり下すと、少しふらついたが問題なさそうだった。
「今日は本当にありがとう。またね!」
土屋さんは笑顔で去っていった。
彼女が家に入るのを見届けてから、鍵を開けて部屋に入り、荷物を放り投げてベッドに倒れ込んだ。
「つ、疲れたー」
あんな現場を目撃しただけでなく、雲の上の存在と思っていた人物と話せば疲れは倍増した。さっきまでの出来事が夢のように思えて、俺の意識はすぐ闇に溶けてった。