勇者
皆さんは豪勢な食事と聞いたら何を思い浮かべるだろうか。
まぁアニメやら漫画やらで良いなら色々思い付くと思う。
だがこうして目の前にあるとかなり……いや、滅茶苦茶圧倒される。
なにせ内心冷や汗を掻いている大和の目の前のテーブルには鳥の丸焼きに魚をまるごと使った香草焼き、サラダにステーキにライスと、とにかく贅を尽くした料理の数々が用意されていた。
これ全部作るのに幾ら掛かるんだろうと思うほどで、その料理を乗せている皿も素人目に見ても高そうだ。なので促されて食べているのだが味がイマイチわからない。上手いと思うのだが厳かな空気も合間って全く味がしない。
それは大和以外の皆も同じだったようで、緊張した面持ちで料理を食べており、味がわかっていないようだ。
そんなこちらの気持ちなんてお構い無しにガファリア王はさっさと食べ終えると用事がと言って部屋に引っ込んでしまった。改めて聞きたいことがあったのに……
何て思いながらいると空気に耐えられなくなったのかポツポツと食事を止めていく姿が見られそれに合わせてここに案内してくれた執事さんやメイドさんが自室にと宛がわれた部屋につれていってくれる。
(おれももう良いか……)
それを見た大和もナイフとフォークを置き、ナターシャに声をかけて部屋に連れていって貰うことにした。
何時もなら若いしこのガタイなのでもっと食うのだがこの空気じゃなぁ……
等と考えつつ大和はナターシャに連れられて自室を目指す。しかし見れば見るほど今まで生きてきた17年と言う短い人生とはいえ見たことのない造りだ。
先程ガファリア王はさっさと出ていったと言ったが、ホントになにも会話がなかったわけではなく、ここがアーバルト王国の城だとか築何百年も経つが未だ健在とだとかここはワインが上手いとかそんな他愛のない話しはされていた。後はサラッとここが俺たちの世界から見た異世界と呼ばれる場所だとか。何か凄い重要そうなワードなのにあっさり言われたな……
ホントはもっと核心的な話をしたかったのだがそれは明日で良いだろう。席は設けると言われてるし。
「こちらです!」
と、考えていたら着いたらしい。それからナターシャに扉を開けてもらい、部屋に入る。
中は思っていたより処か想像より遥かに大きい。天外付きの巨大なベットだけじゃなくて別の扉を開けるとシャワーらしきものやトイレまである。何か知らないところから来たと思ったが意外とそこはハイテクだ。
「まずはシャワーでしょうか?」
「あ、うん」
若干興奮しながらいた大和は少し驚きつつもシャワーがあった部屋の扉を開けようと行こうとするとナターシャまでついてくる。
「あの、おれシャワーを……」
「はい!なのでお体を洗わせて貰おうと……」
「いっ!?」
ナターシャは何を驚いてるんだろう?みたいな顔をしているが、そんなものは良いと大和は慌てて一人でシャワー室に飛び込んだ。
◆
個人的にはシャワーは熱めで水圧が強い方が好みなのだが流石にそこまでではなくかなりチョロチョロでぬるい所かほぼ冷水だった。流石にこれはさっぱり出来ず早々に着ていた制服ではなくバスローブを着てベットのある部屋に戻る。
すると既にナターシャは小さなテーブルの上にお茶を用意して待っていた。
「リラックス出来ますよ!」
いや君の元気な姿見てるとこっちまで元気になってしまうからリラックス出来ないんだけど……なんて思いつつ椅子に座ってお茶を飲む。
うん。ハーブティーみたいな感じで確かに落ち着く気がする。気がするっていうのはまぁナターシャがこっちをずっと見てくるからなのだが……
ニコニコ笑ってるとはいえ全く落ち着かない。だが少し別の事を考えて気を紛れさせる。
ここが今まで自分がすんでいた場所ではない。それは確かだろう。ドッキリにしては自宅からここに来るまでの道中が不自然(と言うか突然来たためなにもわからない)だし建物の作りも違う。と言うかここの人たち容姿も明らかに日本人じゃない。ナターシャだって金髪に翡翠色の眼だし。
んで次に帰る方法だが……ないって言われてしまった。だがそれは困る。こちとら皆勤賞を狙う高校生だ。折角一年無遅刻無欠席を通し、二年となった今も無遅刻無欠席だ。
テストは終わったので明日と明後日の土日は部活をしてないので休みなので遅くとも二日間の猶予はある。その間に帰れれば何とか……
と、画策していると頭の使いすぎでか大きなあくびが出た。そういやここ最近テストの一夜漬けもあって寝不足ぎみなのだ。等と思っているとナターシャが、
「そろそろお休みになられますか?」
そうナターシャがベットを見てから言ってくれ、大和は頷くとイスから立ち上がりベットに飛び込んだ。ズブズブと体が沈んでいき、思わず息が漏れる。実家もベットなのだがこっちも中々負けず劣らず寝心地が良い。若干こっちのほうが固いかな?とそこに、
「それでは失礼します」
「は?」
ギシッとベットを軋ませながら此方に来るナターシャに大和は間の抜けた声を漏らし固まる。
だがナターシャはそのまま大和の腰の辺りに乗るとメイド服をはだけさせ、此方を見る。
「王からです。私を好きにして良いと」
「っ!」
そういうことかぁあああああ!と思わず声を上げなかった自分を誉めてもらいたい。
なぜここに自分と同じ飛ばされた連中が異性の付き人を付けられたのか……それは最終的にこの展開に持っていって色でも懐柔する算段なのだ。豪華な食事やこの広い部屋もそう言うことだろう。
ふふ、ガファリア王よ。確かに彼女いない歴=年齢の童貞にはかなり素晴らしい状況だ。まぁ、《《ナターシャの肩が震えてなければ》》だけどな。
「え?」
今度はナターシャが驚く番だった。なぜなら大和はそのままそっと彼女がはだけさせた襟元を直してきたからである。
「あの……」
「別に怖いことを無理矢理やるつもりはないから」
実際は結構ドキマギしてるのだがここは努めて冷静に答える。
「やっぱさ、こう言うのってお互い好きなもの同士でやるべきじゃん?いや、別にナターシャが嫌いとかじゃなくてな?」
そう大和が言うとナターシャがプッと笑う。
「変わってますね。普通こういう状況になったら男の人は我慢しないって聞いてたんですが……」
「俺は自分の欲望はコントロールできる男です」
フンッと胸を張りながら答えるとナターシャは更に笑う。うんうん。やっぱり笑ってる顔が一番だ。
「ありがとうございます。勇者様」
「勇者様なんてむず痒いな……大和で良いよ」
そう大和が言うと、ナターシャは首を横にブンブン振ってトンでもないと言う。まぁ確かにメイドと言う立場で勇者なんて立場とは思えないが向こうから見ればそう見える人物が良いと言っても難しいか……なら、
「じゃあ大和様で良いよ」
様付けだってむず痒いがそれでも実家で使用人たちに呼ばれていたのと同じならまだ耐えれる。ナターシャもそれならまぁみたいな感じだしこれで良いだろう。
すると、そこに扉がノックされナターシャが慌ててベットから降りて扉を開けると入ってきたのはガファリア王の隣にいて豪華な杖をもった男だ。
「ナターシャ殿。少々彼と二人になりたいので今日は部屋に戻りなさい」
「え?あ……はい」
驚いた顔をした彼女はこっちを見てから頭を下げて部屋を出ていく。
「えぇと……」
「先程もお会いしましたが名乗ってませんでしたね。初めまして、王宮魔術師筆頭のオータムと申します」
「あ、不動 大和です」
そう大和は言いながらベットから降りようとするとオータムにそのままで良いと言われた。
「それでどのようなご用件ですか?」
なので言葉に甘えてベットに座ったまま聞くと、オータムは柔らかい笑みを浮かべて……言葉を発する。
「えぇ、役立たずの処理をしに」
「はい?」
大和がなにいってんの?みたいな感じで首をかしげた瞬間突然猛烈な眠気が襲う。いや、眠気なんて生易しいものじゃない。もはや失神一歩前なくらいだ。
「おかしいと思ったのですよ。12人の勇者を呼び出したはずなのに何故か13人……なので全員調べましたが貴方だったのですね?フドウ ヤマトさん。貴方だけが何の能力も持っていない」
何の話だ?と大和は言葉を出すこともできない。もはや意識は殆ど機能していない。
「いや申し訳ない。我が王宮も財政が困窮しておりましてな。役立たずの面倒は見れないんですよ」
そうオータムが言い終わった頃には、大和は完全に意識を失っていたのだった。
◆
(ん?)
ふと大和は目を覚ますと周りが暗いことに気づく。そりゃそうだ、なぜなら自分は麻袋に入れられているのだから。しかも手足は縛られ口には猿轡ときている。
「むー!むー!」
「うるせぇ!」
どごっ!と蹴っ飛ばされ見事に鳩尾に入れられた大和は思わず夕食を吐き出しそうになったが慌てて呑み込む。
「ったく、何だって俺らが罪人を捨てに……」
「そうぼやくなよ。終わったら飲もうぜ」
罪人!?と大和は驚愕する。なにもしてないぞ俺は!?と思い暴れるがまた蹴られる。
「うるせぇなぁ!」
「まぁ仕方ねぇだろ。何せこれから捨てられる場所はまず助からねぇ。んでそのあとはビースト共の餌だ」
(餌だとぉ!?)
良く分からんがピンチじゃねぇかと必死に暴れてやるが喧しいまた蹴っ飛ばされてしまう。
そうしていると動きが止まり二人の男は大和を二人掛かりで持ち上げどこかへ持っていく。
「んじゃいくぞ」
「あぁ」
「むぐぐー!!!」
大和が必死に抵抗するがそれは虚しく、
『せぇの!』
ヒョイ!っと投げられ襲い掛かる浮遊感に大和は思わず何か今日はよくこの浮遊感を味わう日だなぁ……と現実逃避するが明らかに落下する時間が長い。
一体どこに捨てられたんだ!?と思う時間もない。咄嗟に大和は頭だけは庇うような体勢を取る。どっちが上か下かも分からないがそれでも頭だけは庇う。そして何とかその体勢をとった瞬間バキィ!と言う音と共に水が麻袋に入ってくる。
どうやら谷に捨てられたらしい。だが大和がそれに気づくことはなく、その頃には再度意識を失っていたのだった。
「死んだか?」
「この高さで水に叩き付けられたら鋼より固くなるらしいぜ?死んだだろ」
「だよなぁ?」
そう言って大和を運んできた二人は馬に跨がるとアーバルト王国に向けて走らせる。
一方その頃、
「ふぅ……」
大和が落とされた場所より下流にて一人の少女が沐浴をしていた。
真っ白で張りと艶がある肌は水を弾き、自らの体格に合った体の凹凸は素晴らしいの一言しかでない。だがそれよりも目を引くのは腰から生えた尻尾と頭にある獣耳だ。口許から覗く歯も鋭い。
そんな少女は頭の獣耳をピクッと動かすとため息を吐いた。
「また来たか……」
そう呟き急いで服を着ると音の方向に向かう。一歩目から全速力の速度に達した彼女は木の間を縫っていきながら鼻をピクピク動かす。
「こっちか」
そう言って飛び上がると麻袋が見えてきた。
彼女はそのままシュタっと着地して中身を確認。中にいたのはもちろん大和で、彼女は首筋に指を当てると目を見開く。
「まだ生きてる。この高さから落ちて生きてるなんて……」
だがかなり危険な状態ではあるようで息が荒い。それを見た彼女は大和の巨漢を軽々と持ち上げると再度森に入っていったのだった。