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13人目の勇者  作者: ユウジン
第二章・エルフの国
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裸の付き合い

アーバルト王国には風呂がなかった。そしてビーストも水浴びはするが風呂に入る習慣はない。


だがそれが大和は不満だった。やはり日本人らしく風呂に入りたい。湯船にお湯を張り、全身をつける。


のんびり暖まりながら、その日にあったことを反芻していく。


だがないものを願っても仕方ない。そう思っていたのだが、エルフには風呂に入る習慣があった。


勿論銭湯とかのように一般人に解放されていないが、この城にも風呂場がある。当たり前だが男女別で、大和も男湯の方で湯船の体を沈めて、暖まっていた。


やはり風呂は良いと思うのは、日本人だからだろうか?


パシャっと顔にお湯をかけつつ、周りを見る。見事な彫刻が掘られた壁で、芸術には詳しくない大和でも、これが安物じゃないことはわかった。


それから足を見る。足の傷は既に塞がり始めていた。薬草張り付けただけで昼に負った傷が、夜の今には既に塞がり始めているとは、ここが異世界なのだと言うことを、改めて理解させられる。すると、


「よう。湯加減はどうだ?」

「ヴィーダさん?」


この風呂場は王族や、一部の関係者しか入れない。だが大和は客人として、そしてヴィーダは王国騎士隊の隊長という立場なので入ることができるのだが、


(で、デカイ……)


大和は思わず息を飲む。ナニがデカイのかというと、アレである。男性の象徴的なアレだ。女にはついてないやつ。


何となく大和は、元の世界のイメージで、エルフは顔は良いがアレは小さいというイメージがあった。だが目の前にいる男の何と立派なことか。


いやまあ大和も別に小さい訳ではない。寧ろ平均よりは大きいくらいなのだが、ヴィーダのと比べるとそうでもない気がしてくる。


「しかしお前も大変だな」

「へ?」


突然のシリアス口調に、大和は慌てて姿勢を正す。それからヴィーダは言葉を続け、


「いきなり訳も分からずこの世界に来させられた。お前にも生活があったはずなのにな」

「そうだな……」


思い出すのは父と母に、家にいた使用人の皆。毎日暖かいご飯を食べて、フカフカのベットで寝るのが当たり前だったのを考えれば、今の生活は全く別物だ。でも、


「案外悪くないぞ?ほら、ココさんに会えたし?」

「……へぇ?」


大和の言葉に、ヴィーダは意外そうな表情を浮かべる。


「なに?まさか惚れてんのか?」

「ち、違う!」


そう言うのではなくてだなと、言い訳する大和だが、ヴィーダはニヤニヤと大和を見ていた。そして、


「しかし亜人に惚れるやつがいたとはね。ヒューマンも勇者も亜人に対して惚れるやつなんかいないぜ?」

「いやだから……」


そう言うんじゃなくてだなと大和は言う。大和にとってココは、自分のせいで家族や住む場所を奪われてしまった。だから今度こそ守らなくては……そういう対象だと思い込んでいる。だからココにそういう眼を向けるのは如何なものかという感情が強い。だが、


「でもビーストは良いぜ?何せまず従順だ。惚れた相手にはどんなプレイでも応じてくれるらしい。それに一途だ。しかも普通の一途じゃない。それこそ相手が死んでも心を変えない。だから(つがい)が死んだビーストは相手の墓の前から動かなくなってそのまま死を選ぶ何てのも珍しくない。殆ど呪いだわな。なにせ昔、それこそヒューマンや他の亜人との婚姻があった頃の話だが、(つがい)がいるビーストに惚れたやつが惚れ薬や、魅了魔法(チャーム)で惚れさせようとしたんだが全く効かなかったらしい。ただまあ一途すぎて、浮気を許さずしたら烈火のごとく怒るらしいけどな」

「そ、そんなに?」


大和はどれくらい怒るんだと聞くと、


「その浮気した男は慌てて逃げたらしい。逃げ足の速い奴でな。どうにか逃げ切って、一年くらいは隠れ潜んでいたらしいが、ビーストは不屈の執念で見つけ出して、そのまま噛み殺し、自分も命を絶ったらしい。ま、ビースト相手じゃなくたって浮気なんてするもんじゃないけどな」


そう言いながら、ヴィーダは顔にお湯を掛ける。


「ま、お前は頑張んな。お前の相手は手が届くんだからさ」

「はぁ?」


だから違うんだって!大和は、そう言ってヴィーダの肩を掴んで揺らすが、ハイハイと、ヴィーダは受け流してしまう。結局二人は風呂に入っている間、ずっとそんなやり取りを続けるのだった。



「ふぅ」


一方その頃、ココも風呂に入っていた。実を言うと余り風呂は好きじゃない。性格には、体が濡れるのが苦手だ。もっと厳密に言うと、耳や尻尾が濡れるのが苦手なのだが。


だが折角のカマンダの好意なのだし、入らせてもらう。濡れるのが苦手でも、たまには良いかと思う。


それにこの場には一人ではなく、


「ココ殿はスタイルが良いですね……」

「は、はい?」


カマンダもいた。王族となんてと最初は抵抗したものの、彼女に押し切られる形で、一緒に入っている。


だが確かに、カマンダは全体的に小柄だ。だがそこがかわいいと思うが、彼女的にはそうではないらしい。


とは言え長命且つ、若い期間が長いエルフは、カマンダのようなのも珍しくはない。寧ろ、ヴィーダのように比較的大柄なのは、珍しいくらいだ。しかし、


「そんな魅惑のボディを持っていながらヤマト殿とは何も?」

「何も……ですかね」


ココは口までお湯に浸からせ、ブクブク音をたてる。


何故ココが大和との同行を選ばれたのか、戦闘経験もない彼女が旅に同行するのは普通じゃあり得ない。勿論頑丈とは言え、年を取ったビーストでは、整備された街道を通れるアーバルト王国にいくならまだしも、険しい道のりを通らざるを得ないクラバット王国までの道のりを踏破出来ないのもあった。だが、目的はそれだけじゃない。


それは子供だ。ヒューマンは他種族との間で子供を作った際、懐妊しやすい。多数の子供を産めれば、ビーストはまた僅かな期間だが増えるだろう。まあ大和は異世界の人間なので、この世界の法則が当てはまるか微妙だが、その時は仕方ないと諦めていた。究極の話し、一人でも産めればビーストは絶滅しないのだから。


そりゃ嫌いな相手なら絶対嫌だ。でもココにとって大和は、彼なら良いかと思える存在ではあった。


「彼のどんなところが素敵だと思ったの?」

「どんなところですか……」


ココは考える。色んな良いところはあった。結構面倒見がよかったり、見た目は怖いけど穏やかだったり。でも結局最後に行き着くのは、


「優しいところ……ですかね」

「結局それ結構大事ですからね」


ビーストは結構惚れやすい種族で、だが逆に一度惚れると一途。そういう種族だ。


そして大和は村にいる間も、そして出てからも優しかった。ココにとっては、ヒューマンなのに優しいというのは驚きで、好意を抱き始めるには十分だったりする。だが今日わかったのは、自分はと言うか、ビーストは独占欲も強いことだ。


なにせ、先程ヤマトが目を覚ました際に、カマンダと話す時、それすらモヤモヤした。好意を自覚し始め、大和とはそういう関係になっていないにも関わらずだ。


危険だと思う。一途を通り越して重い。勿論それを態度には出さないし、これからも抑えよう。


だが何れは、そういう関係になりたい。ビースト繁栄と言うのもあるが、普通に大和との子供は欲しい。今だって多分事情を説明すれば、ああ見えて責任感が強い彼のことだ。抱いてくれるだろう。だが、それは嫌だった。義務感や、罪悪感で抱かれたくない。向こうにも自分を好きになってもらい、自然とそういう関係になりたい。


だからビーストの皆に託された願いが大和には言わない。絶対にだ。


するとカマンダは更に、


「よおし!私が考案した男を落とす手管を教えてあげる」

「て、手管?」

「そう!これで今は亡き夫をそりゃもうメロメロにしたんだから!」


手をワキワキさせながら、詰め寄ってくるカマンダに、ココは背筋に冷たいものが走る。


「まずはやっぱりボディタッチは基本!」


そう言って飛びかかってくるカマンダを避けながら、ココはそう言えば2、3前に、この人の夫は流行り病で死んだんだっけと当時の話題を思い出したのは……まあ余談である。

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