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プロローグ3

 翌日の朝、ジスモンドの使いがやって来て、昼食時にピートのお披露目をするとの連絡があった。


 侍従が来るまで部屋でお待ち下さいと言われたが、なんと侍従は朝食の片付けのために来た給仕係りと同時に女官たちを引き連れて現れた。


 一秒も待ってないぞ。


「それでは殿下、身なりを整えさせてもらいます」


 立ち振舞いがキビキヒとした有能そうな侍従が、ピートに一言断って女官たちに目配せする。

 女官たちはピートに一礼すると部屋の中に散っていった。

 浴槽に水を張るもの、衣装棚からお披露目にふさわしい衣服を選ぶもの、装飾品を選ぶもの、ピートの髭を剃るもの、爪の手入れをするもの、女官たちはてきぱきと仕事をこなす。

 ピートはなされるがままにじっとしていた。庶民出のピートにはまだ慣れないことなのだが、こういう時に自分でやるとか、人数が多いのでは、とか言っても無駄だと経験上知っていた。

 やがて風呂か沸くとピートは裸に剥かれ、浴槽に放り込まれると全身をゴシゴシ磨き上げられた。

 勿論、昨日風呂に入ったとか言わない。

 浴室から出て体を拭かれ、なんとも言えない気持ちで、女官に下着を履かせられていると、発着バルコニーにマーサが降り立った。


 朝から三頭ともいなかったのだ。

 ふと気になりピートは誰とはなしに聞いた。


「サメロは誰の騎獣になってる?」


「上皇様です」


 侍従が畏まって答えた。


「上皇様?」


「皇帝陛下の祖母であらせられます。大変ご高齢ですのでサメロに騎乗なさることも滅多にありません」


「マリアルーナ姫の物語なら聴いたことがある。大敵様と一緒に翼犬を見つけた人だね。物語の主人公だね、会えるかな」


 瞳をキラキラさせるピートに侍従は品よく笑った。


「殿下はその大敵様とお親しいでしょうに」


「大敵様は伝説の人だけど、クルースに行けば誰でも会えるよ。そういう意味では有り難みがないな」


 侍従と話している間にピートの支度が整い広間に向かう。


 マーサも付いてきた。


 外から見た宮殿の巨大さを内部を移動するときピートは痛感した。


 廊下長い。スロープ長い。階段長い。新品の靴が歩きにくい。


 ピートが後どのくらいだと聞こうか迷っていると侍従がある扉の前で止まった。


「こちらは控えの間です。中にジスモンド卿がおられますので詳しくはジスモンド卿からお聞きください」


 そう言って扉を開ける。

 ピートとマーサは中に入った。

 テーブル席が十分な間隔を開けてなん組かあったが、ジスモンド以外誰もいなかった。


「見違えましたぞ殿下、どちらの貴公子かと思いました」


 老魔術士はピートの服装を褒めた。

 マーサは猫のようにジスモンドにすり寄る。


「僕は貴公子だろ?ジスモンド」


 ピートはおどける。ジスモンドは庶民時代からの知り合いで冗談を言える仲だった。


「こちらにお座り下さい。少々お教えしなければならないことが御座います」


 ジスモンドはテーブルを示す。


 ピートが椅子に座るとジスモンドは水差しから二つのグラスに水を注ぐと残りの水を翼犬用の皿に注いだ。


「実は殿下、皇妃様が殿下に敵愾心をお持ちです」


 マーサはびちゃびちゃ飲んだ。


「どうして?会ったこともないのに」


「皇妃陛下はピート殿下が皇太子殿下を脅かす存在になるのではと心配されています。そのため、皇妃派の方々も殿下に対し、不愉快な態度を取るかもしれませんが殿下には冷静に対応して頂きたいのです」


「出る杭は打たれるか、大敵様に教わっている。市井から神蓋持ちが出たのは四百年ぶりだし、誰もが両手を上げて喜んでくれない。嫌悪されたり妬まれることも覚悟しなさいってね」


 ユグナシードの皇族は、古の昔に神墜大戦の余波から人間を守るためにユグナ神が神蓋の力を与えたのが起源だ。一説に因ると当時、数万人に神蓋の力は与えられたが、大戦を生き延びたのは千人ほどで、彼らが子を成し数百人に遺伝した。

 以後、世代を経るごとに減少したが神滅大戦で解き放たれた魔物を倒す神蓋持ちの噂を聞き付けた人々が大勢押し寄せ、保護を求めたので彼らは国を興した。

 それがユグナシード国である。神蓋持ちは特権階級となったが率先して魔物と戦うため死亡率も高い、遺伝の仕方も安定せず、何世代も後に隔世遺伝したりするので、そうした者を取り立てる制度が出来た。帝国になってもその制度は存続し、それのお陰でピートは皇族になれたのである。


「困ったものです。陛下がどれだけ言葉を尽くして説明されてもお聴きになりません」


 ジスモンドは嘆息した。


「いいよ、ジスモンド、ちょっとの我慢だろ?僕は戦が終わったらクルースに戻る訳だしね」


 上手くやるよと瞳を蒼く輝かせる。



 ピートは大敵様から時には相手を威圧することも必要と教えられていたので神蓋の力を全開にして広間に入った。


「これがピートだ。視て分かる通り力は上皇様に匹敵する、まだまだ経験不足だが遠からずユグナシード帝国の新しい柱になるだろう。皆、よろしく頼むぞ」


 広間に皇帝の自慢気な声が響く。

 ピートは軽く一礼して、重臣や皇族たち一人一人に目をやる。

 蒼い光輝に包まれたピートを見た帝国の重臣たちはその圧倒的な輝きに目を見開いた。


「素晴らしい!」


「何という強さだ!」


 ピートによくない感情を抱くものたちもこの力の強力さには素直に賛辞を贈った。

 ただし、皇妃を除いて。


「このような場でおのが力をひけらかすとはなんと尊大な……」


 そう言って皇妃は形のよい唇を憎々しげに歪ませ、ピートを睨み付けると華麗なドレスで風をおこすかのように翻して広間をから退席した。


 あれ?いなくなった。


 ピートは拍子抜けした。昼食の間ずっと、ネチネチ嫌みでも言われると思っていたからだった。


 皇妃の退席もあって昼食会は料理が不味くなるような不愉快な目に遇わずにすんだ。

 この場にいる神蓋持ちは少なかった。東の国境に十万の軍勢と共に蛮族退治に派遣されているからだった。皇太子も国境の砦で指揮を執っていて、コアクーナ討伐のため皇帝が追加の軍勢を出陣させるのと入れ替わりで戻る予定らしい。

 宰相のリヒティオが教えてくれたのだが皇太子は皇妃が苦手らしい。友情が芽生えるかもしれない。


 丸顔でぽっちゃり体型のリヒティオはワークフト将軍が皇妃の弟だとも教えてくれた。


「殿下、将軍は優秀な方です。将軍は立場上殿下を軽んじる態度を取るかもしれませんが理解してあげてください」とリヒティオ。


 どうも皇妃は皇妃の一族でも扱いに困っているらしい。ワークフトがいつも気性の激しい姉をなだめたりすかしたりして大事になるのを防いでいるのだとか。


 そのワークフトは皇妃似の端正な顔立ちを無表情にして自己紹介をして去っていた。


 ピートの親類縁者になる皇族の人たちはピートの力を褒めて歓迎してくれた。


 マーサはずっと皇帝にベッタリしていた。


 そう言えば叔父上たち神蓋持ちの翼犬はどこにいるんだろう。




























 

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