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プロローグ2

 ピートが目覚めたのは三十分後だった。

 何かの気配を感じた。

 マーサが嬉しそうに吠え、相手も吠え返しドタバタ騒がしくなり、なんだと起きようとしたらベロベロ、ベロベロと何かに耳を舐められた。

 ピートが目を開けるとフアフアツンツンの産毛に包まれた仔犬が尻尾を盛んに振っている。

三角の耳に鼻ぺちゃの鼻筋、まん丸の青い瞳に巨大な四肢、間違いなく翼犬の仔だ。


「おちびちゃん、どこからきた?」


 ピートの身長の半分ほどの大きさの仔犬を抱き上げマーサの方を見る。

 マーサは同じ黒茶色の翼犬とじゃれていた。


 熊より巨大な翼犬の成犬がじゃれあっても余裕の広さに、この部屋が翼犬と室内で過ごすためなのだと気づく。


 黒茶の子とは珍しい。というか、ユグナシードにいる黒茶は確かサメロだ。


「サメロ」


 呼んでみた。

 アオンと一声返ってきた。

 こちらを向いて吠えたので合っているだろう。


 するとこの仔はサメロの仔かな?日が暮れて分からない。


 灯りを着けるのも面倒なので神蓋の力を高める。


 ピートの瞳が輝き暗い部屋の中が日中のように明るく見える。

 ピートは腕の中の毛玉を見つめる。


 この仔も黒茶だ。サメロの子なんだ。まだ産まれて二ヶ月ほどか?可愛いな。


 ピートは神蓋の力を弱めるとおちびちゃんをギュッと抱き締め体毛に顔を埋める。太陽の匂いと風の音が聴こえる

 翼犬は頑丈な生き物だ。生後一ヶ月もすれば人間の成人男性くらい丈夫で力強い。神蓋の力を使わなければピートがおもいっきり抱き締めても平気だった。


 ピートが柔らかい産毛の感触を堪能して顔を上げるとマーサとサメロはいなくなっていた。ピートはおちびちゃんを抱いたまま発着バルコニーに出たがいなかった。


 お腹すいてきたな。そうか、サメロはマーサを誘いに来たんだ。そして僕に子守りを押し付けたんだ。いいけど。


 ピートは部屋の扉を開け廊下に出た。皇帝を見送ったときチラッと見たが幅が広く天井は高かった。


 もしかしてこの宮殿自体が翼犬を基準に作られているのか?


「どうされました?殿下」


 さっき部屋にいた従僕のひとりが声をかけてきた。


「お腹がすいた。僕はどうすればいい?」


「陛下もジスモンド卿もご多忙で、一緒に食事は取れぬとのことですので、お部屋に運ばせましょう。今すぐお召し上がりなされるなら軽食をお持ちします。それをつまみながらお待ち下さい」


 出兵の準備があるのだろう。


「それで頼む。ああそうだ、この仔はサメロの子か?」


「左様です。帝国には黒茶はサメロとこの仔、そして殿下が連れてこられた、マーサですか?この三頭だけです」


「クルースにもマーサを連れてきたから二頭しかいない。まあクルースには黒茶より強い大理石柄の子がいるけどね」


「なんと!その様な色合いの子がいるのですか」


 一度観たいものです、と言って従僕は夕食の準備をしにいった。


 ピートは部屋に戻ると灯りを着けた。その際、全ての部屋を見て回ったが、五部屋全部が同じ大きさだった。


 ピートはちょっと呆れた。


 マーサとサメロはまだ帰って来ない。


 落ち着かない。慣れるのかな?ここに小屋を建ててその中で暮らしたい。

 ――言えば叶えてくれそうで怖い。


 おちびちゃんを床に降ろしソファーに座るとノックの音がして給士係りがチーズや果物と葡萄酒、おちびちゃんように吹かしかぼちゃのすり潰しとミルクが運ばれてきた。


 テーブルに皿を置き葡萄酒を注ぐと給仕係りは出ていった。


 ピートは、かぼちゃを少し手に取り冷めているのを確認して、おちびちゃんの口元に差し出す。仔犬はパクッと食べると、後は皿から直接食べ始めた。ミルクの皿も横に置いてやり、ピートも葡萄酒をグラス一杯飲み干して、チーズを食べる。


 ひとりで食べる食事はクルースに行って以来か。大敵様やドワーフの親方たち、サネルのことが思い浮かぶ。


 帝都から召喚命令がピートに届いたときに、大敵様が召喚の理由を推測して教えてくれていた。

 だから戦に行く心図もりで帝都に来た。

 農民の子も、商人の子も、職人の子も、そして料理人の息子も吟遊詩人の詩に歌われる英雄に憧れるものだ。


 僕は英雄を夢見て望んで皇族に成った。叔父上もジスモンドも学習不足を承知で言っている。だったら与えられた機会に全力で応えるしかない。


 ピートは覚悟を決めた。


 おちびちゃんが食べ終わり、ソファーの上に乗ってピートの膝に顎を預け微睡みだした。


 また、ノックの音がして給仕係りが夕食を持ってきた。テーブルに料理を並べ簡単な説明を添えると戻っていった。


 食材普通、味美味、量大量、ピートにとって満足な食事だった。


 そっとおちびちゃんを膝から降ろすと発着バルコニーに出る。


 夜風がピートを激しく打つ。天候は悪くない、部屋が高層階にあるためだ。


 眼下に帝都イーリアスの明かりが煌めく。クルースから見るコンコースの町とは比べものにならない明かりだ。さぞかし賑やかなことだろう。


 宮殿での生活が落ち着いたら、帝都見物でもするかと室内に戻り、また、廊下に出る。すかさず、従僕が現れる。


 ピートは風呂に入りたいと伝えた。

 従僕は皇族用の大浴場か自室で入るか、訊いてきた。ピートはこの時間から高位の人物に出くわして、挨拶から始めるのも面倒に思い、自室でと言った。


 従僕は「直ちに準備します」と浴室まで行きハンドルを捻る。

 ペリカンの蛇口から水が勢いよく出る。ピートが目を丸くして驚くと自慢気な顔で「すぐ戻ります」と速足で出ていき、袖に白い焔柄を刺繍した黒い上着姿の少年を連れてきた。

 従僕は水を止め、少年は魔術士見習いだと言った。

 そばかす顔の少年はピートに会釈をすると浴槽に並々と蓄えられた水を見つめた。


 ピートの神蓋の力が抵抗を感じる。少年が魔術力を抱えたのだ。少年は両手を浴槽に突き出し象徴を編み出す。眉間にしわを寄せながらも、熱の象徴を何度も編み、水を温めた。

 従僕はピートに湯加減を確かめさせると、魔術士見習いと一緒に下がった。


「こんなところから水が出るのか」


 湯に浸かりながらペリカンを模した蛇口を見る。蛇口は道管に繋がり道管は壁に消えた。


「良くできている」


 ピートが風呂から上がるといつの間に返ってきたのか、マーサとサメロが丸くなっていた。

 ヌゴゴゴゴーとおちびちゃんを加えて鼾をかいている。


 ピートは、鞄の中から下着と寝巻きを取り出し着替えると、翼犬を起こさないよう明かりを消して回りベッドに横になった。


 目下の者に命令する練習しておいてよかった。コンコース男爵有難うございます。


 翼犬の鼾を子守り歌に若き青年は眠る。
















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