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「で、どうするの?」
「どうするのって?」
裕希が問いた質問に相川はきょんとんと聞き返す。
「何かあって俺を呼んだわけじゃないのか?」
「いや、ただ水無瀬くんの仕業かどうか聴きたかっただけだよ」
は?と信じられないような発言をする彼女を裕希はゲームオーバーになった時に敵を見る時と同じ目で見る。
「なにその、お前よく平然で居られるな的な目」
裕希の思いの半分は受けたったようで受け取ってない。
けれど彼女は気にせず続ける。
「お昼の放送楽しみだねー」
彼女は好きなものが目の前にある時に喜んでいる子供のような声音で言う。
まだ裕人のように目を輝かせるならまだしも声音だけだからそれが怖い。
「自分のことかもしれないって思わないの?タイミング的に」
裕希は聴いてみる。
彼女に何かを隠しながら聞いても意味無いことを学んだのだろう。
そのまま隠しながら探るのは辞めたようだ。
「思うけど、どうでもいいかな」
「相川って意味わからなすぎて困るんだけど」
「はは。水無瀬くんは思ったより素直で分かりやすいよ」
相川は愉快そうに笑う。
それでもきっとこの教室で彼女がこんな風に笑っていることに気づいているのはこの教室で3人だけなのだろう。
「放送でしょ?音声しかないじゃん。という事は私たちが問題にしていることが起きる可能性は少ないよ」
「でも万が一のことを考えたりは……」
「しないよ。そーいうのは結局は行動にしなきゃ変わらないから」
裕希が驚きの瞳をしている。
けれどいつもの瞳とは違う。
なんと言うのだろう。初めて今まで見たことのなく少しだけ思い描いていたものに出会した時の瞳、みたいなもの。
彼女は今まで彼が知ってる女子とは違いすぎてド肝を抜かれた感じだ。
「言動にしないのなら、それを楽しめばいい。その後のことなんてその後にならないと分からないんだから」
「そうだね」
彼女の言ってることも一理あると思う。
けれど、こういう考えを持ってる人は少ないのではないかとも思う。
ナチュラルに何かをすることを諦めた人の台詞だから。
「昼休み、今日は教室で食べなきゃね」
「なんで?」
「だって、きっとそのためにグループに発言したんだよ。その人は」
彼女の言っていることはあまり理解できなかった。
けれど、何となくわかったことは、相川はその発言者を分かったということ。
彼女は山口を見て言った。
「これで終わり。水無瀬くんありがとうね」
「え?何急に」
「別に?」
「ほんとお前意味わかんない」
「水無瀬くんってさ、確かにかっこいいけどなーんか」
彼女は1拍おく。
「つまらないよね」
今まで見たことの無いような満面な笑みで言った。
「香織ちゃん?!」
相川の後ろに隠れていた女の子が彼女の制服を引っ張りながら声を上げる。
相川がこんな怖いもの知らずの発言をするとは思わなかったのだろう。相川より彼女の方が怖がっている。
「そう言えば、相川さんって香織だったっけ。名前」
「そうだよ、裕希くん?」
「ふーん」
裕希が彼女の元へ近づく。今まで一定に保っていた距離が一気に近くなった。
彼女の耳元まで口を近づけると裕希は一言。
「明日の朝、7時に学校集合ね」
じゃあね。とスマイルを見せて裕希は相川の元から離れていった。
「香織ちゃん?!」
さっきよりも高い声がまた相川の名前を呼ぶ。
相川は何事も無かったように平然としていて彼女の後ろにいる女の子の方が困惑している。
「朝7時とか何時起きしなきゃだよー」
彼女はそう言ってはぁとため息をついた。
それから後ろにいた女の子に「長く借りちゃってごめんね。ありがとう」と言ってスマホを返した。
「あ、うん。どういたしまして」
相川の後ろに隠れていた女の子が影から出てきて彼女にぎこちない笑顔を向けた。
「お昼楽しみだね」
「何が起きるのかな」
「きっと、皆が驚くことだよ」
え?と相川を女の子は見たが、相川は彼女の視線には気づいているか気づいていないのか分からないけれど自分が向けていた視線から女の子に移すことは無かった。