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「おーい、水無瀬」
「なに」
「相川のやつに弟とられて悔しいのか?」
「そんなわけ、ない」
「お前、すごく悔しそうな顔してる」
声をかけられたにも関わらず裕人は無表情のまま山口の問に答える。
でも裕人の視線はずっと裕希に向けられたままだ。山口を1度として見ていない。
「それにしてもなんで相川なんだろうなー」
「は?」
裕人は自分の席に座った山口を見た。
「やっとみたな」と笑いながら山口は続ける。
「だって相川ってよく陰キャぽい奴らと一緒にいるじゃん?水無瀬弟だったらもっと違うやつでもOKだろうになーと」
「お前、何言ってんの?」
「あの二人付き合ってないの?」
「どう考えても付き合ってるわけないだろ」
裕人は呆れた。と言わんばかりに大きなため息をする。
でも、知らない人らが彼ら二人を見たらそう思うのかもしれない。けれど付き合いたてでクラスで普通イチャつく?イチャつかないだろう。
裕人がずっとその2人に視線を注いでいたら、2人が教室から出ていった。
「追いかけなくていいの?」
山口の声が傍から聞こえてくる。
裕人は何も答えなかった。
裕希と相川が屋上に辿り着くと裕希が、相川に話しかけた。
「これ」
「……うん」
「知ってたんだ」
「たまたま」
「ふーん、通報しないの?」
「もうした」
「でも消されないんだ?」
「私だけが見れないようになっただけ」
相川に見せたスマホの画面を自分に向ける。
彼女に見せた画面を見てから目の前に何事も起きてないように立っている彼女を見る。
「でも、なんで俺なの」
「何となく私に似てると思っから」
「俺が?」
裕希の顔を見て相川はふふ。と笑いを漏らす。
教室では普段笑わないくせに笑ってみせる彼女が不思議に感じた。
裕希に相談してきた時も不思議だった。彼女はミステリアス過ぎる。
裕希が裕人以外の人について考えるなんてことそんなにない事だから可笑しくなってしまう。人付き合いが苦手な人間が他の人について考えるとどうすればいいのか分からなくなってしまうというのは分からなくもない。
口数が少ないのも愛想がないのもそれぞれに理由があるんだと思う。
「水無瀬くんって人との距離感が分からない人じゃない?」
「なんで?」
「何となく」
彼女の考えていることはわからない。
表情はいつも無表情に等しいし、声音もそんなに変わらない。
言動も印象に残すことは一切なくて、ただその場にいる人。って感じだ。
きっと彼女は何も考えてないようで無意識のうちに色々と戦っている。
どうすればいいのか。どうすれば過ちを犯さないのか。
彼女と裕希が似ているか、と聞かれたら正直わからない。
けれど少しだけ共通点があるような気がする。
それは___。
「私、自分に興味が無いの」
(何か、あるのか)
相川は自分のことを話そうとするタイプでは無いことはここ数日で裕希は知った。
数回話したが、彼女から自分自身の話しをされたことは1度と無い。
けれど、それは裕希も一緒だ。
「けど、だからって他人に興味があるわけでもない」
裕希はゴクリと唾を飲み込む。
「私は……他人の視線だけに興味があるの」
良かった。
彼は安心をした。
俺とは違うと。
それから相川は続ける。
「水無瀬くんは、特定の人だけに興味があるみたいだけどね」
彼女はまたもや微笑を浮かべて裕希を見据えた。
裕希はというと心ここに在らずといった感じで彼女を呆然と見ている。
(なんだ、こいつ……)
自分の思ってることが本当の彼女の言葉の意味なのかはわからない。けれどもそれが自分に向けての真実のように感じた。
「ごめん。変な事言ったよね」
無表情の彼女は今度は笑うことなく謝る。
それが本当に謝罪をしているのか裕希には分からなくなってきた。
「とりあえず、約束は守るよ」
「ありがとう」
彼女の返事はいつも短い。
まさに自分の感情を感じ取らせないように。
陰に隠れている綺麗なこの顔立ちも今ではそれこそが本当の仮面のように思えてきた。
「それじゃあわたしは部活があるから」
失礼するね。
そう言って彼女は振り返りもせず屋上をあとにした。
1人残された裕希はオレンジ色に染まりそうな空を見上げる。
太陽が見えなくても雲は刻々とオレンジ色に染まりつつあった。
「失敗、したかな」
裕人が1人で頭を抱えている。
その姿が可笑しく笑ってしまいそうになる。
屋上にいる2人の影を裕人は外に設置されているベンチから覗き見るように見ていた。
今日はバレー部が練習がないらしく山口はもう帰っている。
裕人は時間を持て余して、と言うよりも裕希が心配でずっと屋上を見上げていた。
お陰で彼の首は一回りすればボキボキと骨が擦り合う音が聞こえてくる。
「なんであいつは平気そうなんだよ」
裕人が苦しげに独り言を零す。
彼の瞳はオレンジ色の雲に向けられることはなく、その色をつけ始めようとする木々たちに向けられた。
(明日には決着をつけよう)
裕人はベンチから腰を上げそのまま帰宅した。