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スクールカースト  作者: 久川梓紗
バレー部キャプテンと美術部少女
3/11

3

「「ただいまー」」


 双子の声が玄関に響く。


 裕人は洗面所へ裕希は制服を脱ぎに洗面所の反対側にある部屋へ移動する。

 それから入れ違いに部屋を移動して、2人はリビングへと向かった。


「疲れたぁー」


 部屋着になった裕希がソファに滑り込む。

 そのソファは軽く6人ぐらいは座れそうなふかふかのもので少し横になっただけですぐ寝れちゃいそうだ。


「こら、裕希」


「なにー?裕人」


「今日は佐藤さん来れないんだから汚すなよ」


「そう言えばそうだっけ」


 ソファに気持ちよさそうに寝そべっていた裕希がのそりと起き上がり裕人を見る。

 裕人はジュースが入ったコップをふたつ持ってきて裕希が座る前にあるテーブルにコップをひとつ置いてもう1つはテーブルに置かず口につけた。


「ありがとう。裕人」


「おー」


 裕希がコップの中に入っていたジュースを確認して嬉しそうに飲む。裕希はこのジュースが大好きだ。



「ね、そう言えば裕人」


「なんだ?」


 一通り飲み終わったのか、裕人は裕希が座る向かい側にあるソファに腰を下ろした。


「この前見つけた動画。どうなってた?」


「あーあれか。あれは1万再生ぐらいになってた気がするけど」


 裕人が顔色を変えず淡々と堪える。

 1万再生……。それはつまり大雑把に考えて1万人の人がその動画を見たということ。それは嬉しいことなのだろうか。それとも悲しいことなのだろうか。


「1万か……。俺たち以外にも見つけた人いるかな」


「どうだろうな。いるかもしれないしいないかもしれない」


「いないで欲しいな。だって広まって欲しくないし俺らさえ知ってればいいじゃん」


「あぁ。そうだな」


 

 裕人がコップに入っていた最後の飲み物を飲み干す。それを見て裕希はバタパタ動かしていた足を停める。



 裕人が飲み干したコップを持ってどこかに移動する。その姿を裕希は目で追いかける。裕人が向かった先はキッチンだった。“サー”と水道水が落ちていく音が聞こえたかと思うとすぐに止んだ。ただ、軽くコップを洗っただけだったらしい。その様子に裕希が視線を離そうとした時だった。



「裕希、夕食何食べたい?」


 少し離れたキッチンから裕人の声が聞こえてくる。その声に裕希は思わず「やばい」と声を漏らしていた。


「冷凍食品でいいよ!」


「そのつもりだけど、何がいいんだ?」


「まかせる!」


「了解」


 会話が途切れ裕希は今度こそ肩の力を抜き、視線をキラキラ何粒の宝石が輝くような天井に向けた。


 ほぼ男三人が住んでいる家にシャンデリアというものは合わない気がするが、1度だけこのシャンデリアを誇りに思った時があった。あれはいつだっただろう。遠い昔ではないはずなのに裕希は思い出せないでいる。1度蓋をしてしまった過去はなかなか思い出せないらしい。


 “パンッ”微かにだけど袋が爆発したような音がした。

 裕希は慌ててシャンデリアから視線を落とし急いでキッチンへ向かった。



「なんでだ……?」


 裕人がレンジから取り出したのか、びじょびじょに汚れた袋が放り出されている。それを眺めて裕人は首を傾げていた。


「電子レンジぐらい使えるようになろうよ……」


 音を聞いて駆けつけた裕希が案の定盛大にため息を漏らす。

 それを見た裕人がだってと言い始める。


「だって、佐藤さんが書き置きしたとおりにはしたんだ」


 どこか拗ねるように言い放つ裕人は珍しい。その姿を見て裕希はまぁいいか。と思ってしまうのだから彼も甘い。


「まぁ、裕人に怪我がないみたいでよかったよ。それにレンジを壊れてないみたいだし」


 裕希が裕人を見てから何代目かのレンジに視線を変える。この佐藤さんぐらいしか安全に使えないレンジは、壊れたところもレンジ自体が爆発した模様もない。

 ちなみに言うと裕希もレンジはそんなに得意に扱える方ではない。しかしそれは“規定時間が書いてなければ”の話しだ。それに比べ裕希は規定時間が分かっていてもその時間を見ないので、小さい頃教わった「一捻り」を今でもしていて、彼らの年齢の手で回すと7分にも10分にもなってしまう。そのため裕人がレンジを使う度佐藤さんハラハラしているのだが、裕希は毎度このことは忘れてしまう。心に留めていることは料理さえしなければ、ということだけだ。


 裕希はもう一度レンジで温めたであろうものを確認する。

 どうやら裕人はパスタを温めていたようで袋から飛び散ったカルボナーラソースとパスタが袋から飛び出している。

 この様子だと、レンジも汚れているかもしれない。


 レンジに視線を移そうとする前にゆうきはあるものに気づく。それは裕人が言っていた佐藤さんの置き手紙だった。内容はこうだ“一捻りはやめろ。少しで充分だ。やるならば牛乳を温めるぐらいにしろ”と。確かに裕人は牛乳を温めるのはできる。レンジの項目に“1”と言う数字があり、そこを押せば牛乳やジュースは温められる。しかしそのからくりは液体の重さによって温める時間を調節してくれると言うものだ。

 今回裕人がやったパスタ+食器の重さに耐えるようにはできていないのでこのようになってしまったようだ。


 このなんでもこなせそうな兄弟にも弱点と言える出来ないことがあって安心する。全て完璧に出来るというのは憧れるし羨ましいけれど人間らしさがかけるのでこんな感じに失敗してくれた方がこちらとしても嬉しい。



 それから裕人は汚れたレンジの片付けをする。裕希は仕方なく冷凍食品の売りを無視して爆発したカルボナーラたちをフライパンで炒める。裕人は片付けも得意法ではないけれどレンジの片付けだけは小さい頃からやらされていたので習得した。裕希は創作料理も好きで、佐藤さんがいない時は料理をする。そして味もなかなか上手い。



「ねぇ、裕人」


「なんだ?」


「なんで珍しく夕食準備しようとしたの?」


 裕希が料理しながら気になったことを聞いてみる。

 裕人は一旦手を止めて言いたくなさそうな顔をしてから、レンジに向かって言う。


「佐藤さんが、この書き置きをした意味は俺にだと思ったから」


 “一捻りはやめろ。少しで充分だ。やるならば牛乳を温めるぐらいにしろ”


 確かにこの書き置きは裕人に残したものかもしれない。

 けれどそれがどうしたのだろう。


「……なるほどね」


 裕希は納得したのかそれ以上裕人に聴き入ることは無かった。


 それから数分して料理も片付けも終わった彼らは夕食を食べることになった。

 食卓に並べられたカルボナーラとサラダは綺麗に盛り付けられていて今すぐにでも食べてしまいそうになる。そして極めつけは白い湯気を立てているスープ。裕希が言うにはこのスープの味付けなどは極秘らしい。でもお店みたいにこの名前のないスープはとても美味しい。


「「いただきます」」


 二人は声をそろえ、手を合わせてから食べはじめた。

 レンジで爆発したパスタも裕希の炒めたことによって更に硬くなることも無かったようで二人は美味しそうに食べる。


 そしてこの日の二人は夜、自室で眠った。




 “ジリリリジリリリ”


 裕人のスマホがアラームを鳴らす。その音は大き過ぎてこの家全部に聴こえてそうだが、防音となっているこの部屋ではうるさいほど鳴り響き、響き渡っているだけだ。



「………」


 裕人はアラームを止める。これだけ最大音で防音室でアラームがなっているのだがら人は当然起きるだろう。けれど、そうでも無いらしい。


「裕希、起きろ」


 裕人が裕希のベットを覗き込むと案の定、彼はまだすやすやと眠っていた。


「こら、裕希」


 裕人がベットから降りて裕希の元へ近づく。裕希の頭の近くにはゲーム機が置いてあってスマホはしっかりと充電がしてあった。


「また夜更かししたのか、こいつは……」



 今日は裕人がため息を吐く。この双子はお互いに苦労するところがあるようだけれどそれ以上に互いを信用しているから許せてしまうのかもしれない。でも、この双子はそれだけではないような気がするけれども……。



 いくら体をゆさぶっても起きないようで裕人は最終手段にでる。

 “ジリっ”“ポンッ”

 機会が擦れる音とスマホから発せられた音が同時になる。それを合図に裕希は飛び起きた。


「俺のスマホ!!」


 さっきまで寝てたのは演技なのかと突っ込みたいほど裕希は声を荒らげた。どうやら本当に裕希はスマホ依存症らしい。それもとても異常なほど。


 充電器から外しただけのスマホはもちろん裕人の手には無い。睨みつける勢いで彼を見た裕希はゆっくりと自分の手元へ目を向ける。


「あ、あった」


 嬉しそうに声を上げた裕希は自分のスマホを触る。ホーム画面を開いてスっスっと画面を左右に移動したりして、何も異常がないか確認しているようだ。彼の依存性は早めに直した方が良さそうだ。



「そろそろ準備するぞ。裕希」


「はーい」


 その様子を一通り見た裕人は裕希から視線を外して自分の準備を進める。裕希と言えば今度は夜にいじったであろうゲームを充電器に刺し、スマホをしっかりと持って、ベットからでた。

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