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あの事件の翌日。
またもや教室には1人の影が佇んでいる。
教室でそうそう一人でいられる時間があるかと言われればそれはYESだ。吹奏楽部とかが教室を使っていない限り、早めに学校に来るか遅くまで学校にいれば、その時間は必然と訪れる。
その人物は相川香織だ。彼女は昨日裕希に言われたことも守るためにいつもより朝早く起きて学校にやってきていた。
いつも通り規則正しい制服に綺麗なストレートロングの髪が朝風に吹かれて軽やかに揺れている。
「おはよう。来てくれたんだね、良かった」
相川が振り返るといつの間にか裕希が4席ほど離れた机のところで立っていた。
彼の髪も爽やかで涼しい風に揺れている。
「おはよう、一応約束だから」
彼女は裕希の方に振り返って答えた。
「ふーん、そっか」
裕希は興味無さげに呟く。
それとは裏腹で彼の瞳はしっかりと相川を捉えている。
「それで、私に何か用なの?鷹也のことなら知らないわよ。これからどうするのかも知らないし」
彼女が山口のことを鷹也と呼ぶのだと初めて知った。
そう言えば、二人の関係はなんなのだろう。
これからどうするのかも知らない。それは過去を知っているものが言えるような台詞のようにも感じる。
それに彼女と山口がただのクラスメイトだとは考えられない。憶測だけれども昨日の放送の女性は彼女のような、気がする。
「山口が心配?」
「ぜーんぜんっ」
彼女は珍しく明るい声を出した。
笑っている。
彼女が朝日に照らされていつもより剥き出しになった瞳が輝いている。
「でも、あいつバカだから。バレー部でキャプテンなんてやってるけれど本当は自分のことしか考えられない子供だから」
その瞳は懐かしんでいる。
裕希を見据えていながら彼のことを見てはいない。
「君は、彼が好きなんだね」
「どうしてそうなのか不思議。でもまぁ、嫌いじゃないから否定はしないでおいてあげる」
上から目線の彼女はどこか板についている。
彼女はひょっとして本当はこういう人なのかもしれない。
「じゃあ、素直な君に良い知らせがあるよ」
「何?」
「けど、それは俺の用が済んでから」
「あなた達って双子揃ってめんどくさい人達ね」
「まぁ……それが俺たちだからね」
裕希は嬉しそうに口を緩ませていた。
「……すごい。水無瀬くんスタイリストとかになれるんじゃない?」
相川はどこか落ち着きのない様子で鏡に映る自分を見ている。
珍しく瞳をちょろちょろさせて「えっと……」と無自覚に呟いてもいる。
「なれないなれない。ただ手先が器用なだけ」
裕希がブラシを机に置いて手首を使って片手を左右に揺らした。
「でも、なんでヘアアレンジなんて私に?」
相川は裕希にセットされた髪型を崩さないためか、いつもよりゆっくりめに後ろを振り返る。
その姿はいつもの彼女は違いすぎていて別人に見えてしまう。本当はメイクも少しだけ加えたかったようだが、彼女が頑固拒否したのでそれは諦めたようだ。
それでも裕希の手先で操られた髪の毛たちは相川を綺麗に仕立てあげた。
それに思わず目を奪われ、彼女を上から見下ろしているとまたしても彼女が「どうしたの?」と覗き込んできた。
それに我に返り裕希は口を開く。
「俺たちの計画は、スクールカーストを逆転させることだから」
「水無瀬くんってやっぱり嘘つくの下手」
彼女が微笑を漏らす。その表情はとても朗らかだ。
「そんなこと初めて言われた」
「だってそれは___」
「裕希っ!!」
教室のドアが行き良いよく放たれる。
そのまま壁をすり抜けていってしまいそうだ。
裕人が息を切らしながら裕希の元へと近づく。
彼の髪型は綺麗になった相川とは対照的でとても乱れている。寝起き、寝癖、と言っても過言でないかもしれない。
その証明に制服も気崩れているところが多々ある。
「裕人?どうしたの」
息を整える暇もなく近づいてくる裕人とは逆で裕希は驚きを隠せないように瞳を大きくして近づいてく彼を見つめる。
「どうしたのって、朝起きたらお前がいなくて、それで、靴見ても制服みてもお前のがなかったから……」
裕人の声が後半につられ小さくなっていく。
その原因は相川だ。
裕希のことだけに目に入っていた彼の目に落ち着きが少し戻ると彼女が視界に入ってきたのだ。
なぜこの女が、と裕希に問うように瞳を投げかけると「俺が呼んだんだ」と彼は答えた。
相川は裕人が教室室にやってきてから一切表情を動かさずにその経緯を見つめていた。
それからスマホをポケットから取り出して相川は裕人に画面を見せる。
「これ、君?」
プロフィール画面にUnknownと書かれてあるアカウント。背景もアイコンも真っ黒に染っている。まるで習字の墨をスマホの画面に零してしまったかのようだ。
裕人は相川を見つめて、声の調子を落として答えた。
「君が思っている片方は俺。けど、もう片方は俺も知らない」
裕人にしては珍しい答えだった。
彼が“知らない”なんて簡単に口にするとは思わなかった。
きっと彼のことだから調べつくしてもう全ては知ってますよ。見たいな感じだと思っていたがそうでも無いらしい。
それにしてもアカウントのもう片方とは?あのよく分からないグループ以外にも何か奇妙なアカウントがあったのだろうか。
「そう」
彼女の答えはそれだけだった。




