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スクールカースト  作者: 久川梓紗
バレー部キャプテンと美術部少女
10/11

10

「これって……」


 今まで手持ち無沙汰にスマホを触っていた裕希が切り出すように口を開いたが、裕人が言葉で遮る。


「なぁ、山口くん」


「なんだよ」


「この声、君の声に似てない?」


 裕人が教室壁に装着されているスピーカーを指さす。


「そうか?」


 山口が少しぎこちなく笑う。


「うん。そっくり!それに……」


 裕希の声が一際高く、そして楽しげに語り出す。


「なっ!」


「スクリーンに映ってるの似てるじゃなくて君、本人だよね」


 黒板の真上の天井に丸まっていたスクリーンがいきなり落ちてきて、何処にあるのかプロジェクターによって動画が映し出されている。


 それは山口が顔にモザイクがかかった女子生徒の盗撮をした場面や同じくモザイクのかかった男子生徒に写真と思われるものを渡しているところだった。


「水無瀬、お前」


 山口が睨めつける瞳で裕人を見るけれど彼は飄々とした様子で続けた。


「ちなみにこれは俺の独断。裕希は一切関係ないから」


 裕希を見ようと一瞬山口の瞳が動いた気がしたが、直ぐに裕人へと戻された。


「お前、ずっと俺を見張っていたのか」


「少し違うけれど、まぁそうだよ。本当はもう少し優しいやり方でバラしてあげようとしたんだけど、君がアイツの写真も撮っていたからそれは辞めた」


 裕人の声音が低くなる。それに思わず山口は唾を飲み込む。


「アイツって……」


「教えなーい。けど、そうやってすぐ答えが出ないってことは今までどれだけの女の子を盗撮していたんだろうね。せっかく君の理解者が愚かな君のために協力してくれているって言うのに」


「なんであいつのこと知って……」


「俺の情報網を甘く見てはいけないなー」


 今度は陽気に語り出す。彼の声音は自由自在だ。

 今のこの状況を楽しんでいるように見える。けれど、それは表だけと言うのを知っている。


 それから裕人は山口の耳元に口を近づけ囁く。


「俺にとっては君たちのプライバシーなんてペットボトルのキャップを外すぐらい容易いことなんだから」


 耳元から口を離したあと彼は鮮やかに笑った。


「裕人、もしかして君が」


「裕希。悪いけどその話は後で。ちょっと待ってて、どうやら俺はこいつをこのままにしておくにはいかないらしいんだ」


「このままにしておくにはいかない?おい、水無瀬。これ以上俺をどう貶めようとするんだ?」


 山口が乾いた笑いをする。彼はもう、裕人に抵抗する気力さえないのかもしれない。


「大丈夫、安心して。君の味方は多くてもう1人だから」


「この最低っ!!」


 教室内に響くほど大きな女子の声が聞こえてきた。その声の持ち主は殻になったペットボトルをもって今にも山口に投げ出しそうだ。


 他のクラスメイトも山口らを見ている。


「こいつの言っていることは全部でたらめで___!」


 教室内に雨音のように響き渡っていた放送はいつの間にか鳴りやんでいた。






 放課後。

 教室に1人残されている男子生徒がいた。

 彼はぼーっと外を眺めていて心ここに在らず。という感じだ。


 “ガラッ”


 やや抑え気味にドアが開く音が聞こえる。


 その音に振り返りもせず、教室にいた男が口を開く。


「お前、いつから気づいてたんだ」


「いつ?それは愚問だな。君は自ら落とし穴にはまりに行ったと言うのに」


 これ。と言うように裕人はスマホをポッケトから出して軽く振る。


「ぷはっ。なるほどね、そーゆうことか」


 彼は裕人を見てはいないが、窓に映った彼からその様子が伺えた。


「ネットというものは見られてないようで案外思っている以上に多くの人に見られてるものなんだよ」


「それで、あとはどうするつもりなんだよ。俺はもうお前の望み通り他の奴らから見捨てられたも当然だ。それで?他には?何かあるのか。今度はあいつにも手を出すのか」


「残念。今回の俺の担当はあくまで君一人。あの子は天使のおかげで辛い思いはしないんじゃないかな。君以外のことなら」


「天使……ね。じゃあお前は悪魔か」


「悪魔、か。そんなやわなものだったらいいね」


「悪魔より恐ろしいものって」


「Dio della morte。俺は昔、こう言われた」


「それ、何語だ?」


「さぁ?調べてみたら。あ、そうだ。調べると言ったら君のこと調べていて分かったことなんだけれど、電波は君の仕業では無いみたいだね。動画を撮ることはここではしてないみたいだし、音声もスマホの無線レコーダー。写真も特に改造していないスマホカメラ。ね、誰か悪いことをしている人、君以外に知らない?」


「知らねぇよ」


「そっか、それは残念だ」


 裕人の声調がゆったりとなる。


「明日からが楽しみだね、山口鷹也くん」


 裕人はある机に1便の封筒を置いて教室を後にした。

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