第3話「あなたの背中③」
「ん……こ、こは?」
小夜子は目を覚ます。どうやら意識を失っていたらしい。
「学校?」
それはどうやら教室のようだった。周りの雰囲気や容姿を見る限りここは高校だろうか。
小夜子は自分が何故このような場所にいるのか理解できなかった。だが、こうなった原因で思い当たることと言えば間違いなくあの駄菓子屋で口にしたガムだろう。
ふと、窓に映った自分の姿を見つめる。想像した自分の顔よりかなり若いように見えるが今の面影は確かに感じる。これは自分自身だ。
「それに…この制服、私、仕事の帰り道だったはずよね…?」
戸惑う彼女に、背後から声をかける者がいた。
「小夜子、帰ろう。」
少し驚いて振り返ると、そこには1人の男の子が立っていた。
黒髪で背が高く細身、前髪は少々重たい印象を与えるが整った顔をしている。暗いというよりかはミステリアスという言葉が彼には合うことだろう。
「あ…えっと……?」
「どうしたの?小夜」
小夜、という呼び方は家族や親しい友人しか使うことは無い。どうやら彼は小夜子の友人のようだ。まだまだ事態を理解するには時間も情報もたりなかったが、とりあえず話を合わせてみることにした。
「ううん、な…なんでもないよ。帰ろっか」
男の子はしばらくこちらを心配していたが、なんとか誤魔化すことができたようだった。
そして帰り道、2人並んで歩く。彼はとても言葉数が少なく、どうにも居心地悪さを感じた小夜子は自分から口を開いた。
「あ…あの…」
「ん?」
話しかけたはいいが話題がない。
「きょ、今日は暑い……ね。」
「そうだね。毎日こうも暑いんじゃ、外に出るのも億劫になるよ…。」
彼は苦笑しながら言葉を返してきた。
どうやら今の季節は夏らしい。
「でも、夏は出来ることたくさんあるよ?海とかプールとか、お祭りとか…」
「ん…そうだね、そういえば夏休みに入ってから全然2人で出掛けたりしてないね。」
なるほど、どうやら今日は登校日か何かだったらしい。
「2人で?他の友達は?」
「デートに友達連れてくるの?」
「あっ…あはは、ごめん。ちょっとぼんやりしてるみたい。」
(デートってことは、この子は私の恋人?)
「大丈夫…?今日なんか調子悪そうだね。」
「大丈夫大丈夫!気にしないで、たぶん暑いからだよ」
笑って誤魔化す。なんの情報も無しに知らない人と話を合わせるのは想像以上に難しいことのようだ。
「そう…?あ、じゃあまたね。」
「え?あ、ああ、うん。」
彼はこちらに別れを告げると曲がり角を曲がって歩いていく。彼の家はあちらにあるのだろう、これが小夜子とあの男の子の日常らしい。
気がつけば辺りの風景は実家の近所の見慣れたものに変わっていた。多少の違いはあるが自分が知っているものとほとんど同じだった。
しばらく歩くと、実家が見つかった。スカートのポケットを探ると鍵があったのでそれを使う。
なんだか自分の家なのに悪いことをしているみたいな気分になる。
「ただいまー…?」
そーっと玄関でただいまを言う。偶然かどうかは知らないが家族全員留守のようだった。
とりあえず2階にあるはずの自室に向かう。
「お、あったあった」
扉を開けると慣れ親しんだ自分の部屋だった。今とは置いてあるものが多少違ったが。(小夜子は今も実家暮らしである。)
部屋に入り荷物を置く。制服のままだと暑いので着替えることにした。
「私って昔から暖色好きだったのね。」
着替えを選びながらそんなことをぶつぶつと呟いていた。
昔から、そう、彼女ももう気づいたらしい。
小夜子は過去に戻って来てしまったようだ。タイムスリップというよりは、この時代の自分とすっかり入れ替わってしまったという風だった。
────あと4日と数時間…
~次話に続く




