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第2話「あなたの背中②」



小夜子は早速仕事の合間に、モノクロの駄菓子屋について調べはじめた。しかし、やっぱり出てくるのはオカルトめいた信憑性に欠けるばかり。


そうこうしているうちに日も暮れてしまったので、とりあえずは家に帰ることにした。


すっかり暗くなったいつもの通勤コースを歩く。小夜子の落胆した気持ちのせいか、家までの道のりはとても遠く感じた。



小夜子はふと立ち止まり顔を上げる。

おかしい、ここは一体どこだろう?


寂れたアーケードの商店街はどこもかしこもシャッターが降ろされており、人の気配はおろか、虫一匹いる様子がなかった。聞えるのは自分の息遣いだけだ。見た感じは一昔前の、情報の最小化やノンパネルモニターが採用されはじめた頃の様だ。

国民全員の腕に取り付けられたリングの様なものが幼い頃に埋め込まれたマイクロチップと連動しており、その人が一度見たものや知識として知っているものなどをリングから映像として空気中に映し出すことができるのだ。

ノンパネルモニターというのがその映像を映し出すシステムのことで、名前の通り、何の道具もいらず、わざわざ壁などの平面等に映し出さなくても良いモニターのことだ。空中にリングの光を向けるだけで簡単なタッチパネルの出来上がりというわけだ。

簡単にいうと、それよりもっと昔に使われていたスマートフォンの画面をいつでも腕にはめられたリングから出現させられると言ったところだろうか。それにしても、こんな技術は現在からするともう随分と古いはず。



気味が悪い、何故こんな所に?酔って帰り道を間違えたというわけでもないだろう。


彼女は考える。家の近所にこのような場所があった記憶はない。とりあえず進むしかないだろうか。


こつこつと足音を響かせながら進む。

商店街の先にぼんやりとした明かりが見えた。

人が居るのかもしれない。自然と歩調が早くなる。そして明かりの正体を確認して彼女は硬直する。


おそらくそれは駄菓子屋だった。


看板には店名も何も書かれていなかったが、そこは確かに駄菓子屋だった。最近ではこういった店も減ってきてはいるが、彼女も何回かは来たことがある。


しかしそんなことよりも彼女が驚いたのは、その駄菓子屋に色が無いということだった。

夜闇の中ですら周りの景色の色彩を感じることができるというのに、その店は本当に、黒と白の2色だけで構成されていた。


ぼんやりとした白い光を発するその店に、彼女は心当たりがあった。


“モノクロ駄菓子屋さん”


今目の前には、噂に聞いていたモノクロ駄菓子屋さんが確かに存在していた。

あまりの衝撃にただ呆然と立ち尽くす彼女に声をかける者がいた。


「お嬢さん、何をお求めですか?」


小夜子ははっと顔を上げた。気がつくと店内には、人の良さそうな老婆が立っている。彼女もまた、身体に色が無かった。


「あ……えっと……」


思わず後ずさりしながらも、彼女は声を振り絞った。


「記憶…私の、どうしても思い出せない記憶を、取り戻したいんです。」


ここまで来れたのだ。もう後には引けなかった。

老婆はにっこり笑うと小さな箱を手に取って差し出した。


「はいはい、お嬢さんの大切な思い出は、確かにここにありますよ。お代は後で結構ですから、どうぞどうぞ…」


手渡されたのは、小さな丸いガムだった。

恐る恐る口に入れると、ラズベリーの独特な酸味と香料が口の中に広がる。それはどこか懐かしい味だった。次第に視界が霞んでいく。

小夜子の意識は遠く遠く、彼女が忘れた高校時代の思い出の中へと潜って行った。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


あなたのまちの片隅に、モノクロ駄菓子屋さん。

彼女が目を覚ますとそこは、いつかの通学路。

賑わう商店街と、真っ赤なラズベリーの香りが



飛び散った





~次話に続く

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