第1話「あなたの背中①」
古泉 小夜子37歳独身女性。
年齢からは想像できない若々しさと美貌を持つ彼女は、仕事も出来て性格も穏やかで、常に周りの人間にとっての憧れだった。
しかし、そんな彼女にも悩みがあった。
“男と付き合うことがこわい”
この歳まで独身を貫いてきた理由だった。
所謂男性恐怖症というのではなく、こわいという表現も少し的外れかもしれない。
ただ、不安なのだ。男と恋愛関係を結ぶことが。
今まで全くそういうことを経験したことが無いわけでは無い。逆に、不安というのはその経験を通して気がついたことなのだから。
小夜子はこの不安に関して何度も考えを巡らせる事があったが、未だに答えには辿り着けていなかった。
もしかするとその答えはずっと過去の記憶にあるのかもしれないと思って幼少期の事など両親に聞いてみるが心当たりは無いと言う。
大学生の頃からこの不安は既に存在していた。
では恋愛絡みなら中学や高校辺りだろうか。
しかし不思議なことに、それくらいの時期の記憶が全く思い出せないのだ。高校時代なんて、自身で覚えていてもおかしくないはずなのに。
もっとおかしなことは、両親や知人にその事を聞こうとすると、決まって皆言葉を濁すのだ。
小夜子は長年消えない不安の理由はそこにあると確信した。
しかし、誰に聞いても答えは得られず、自分自身で思い出すことも出来ない。
彼女はすっかり途方に暮れてしまった。
そして彼女の悩みは解決される事なく日々は過ぎていった。それでも諦めきれず、毎日少しずつ手がかりを探していた彼女の耳に、ある都市伝説の話題が飛び込んできた。
『モノクロの駄菓子屋さん』の話だ。
なんでも、そこには色褪せた誰かの記憶が商品として置かれているらしい。
小夜子はこういった話は信じないタイプで、普段の彼女であればくだらないと一蹴しただろう。
しかし、何年調べても全く手がかりの見つからない現状だったからだろうか、彼女はその話にひどく興味が湧いた。
(もしかしたら、そこに私の記憶もあるかもしれない。)
藁にもすがる思いだった。
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あなたのまちの片隅に、モノクロ駄菓子屋さん。
きょうのお客さんは、悩める美しい一人の女性。
彼女の記憶は確かにここで見つかるでしょう。
思い出は、哀れな少女の悲鳴と共に。
~次話に続く




