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にゃんころん!  作者: 星夜 きらり
1/1

けもみみ生えちゃった…!?

カーテンの隙間から太陽が差して眩しい。

その光の強さに一瞬開いたまぶたをまた閉じたくなった。


「朝か…」


昨夜はずいぶんとよく眠れた。

それも何だかんだ俺に癒しをくれているこいつのおかげか。


俺は隣で寝ている彼女を見た。

いつも通りの間抜けな顔でよだれをたらして寝ている。

毎回人の掛け布団を抱っこして寝る癖があるが、冬場は寒いのでやめて欲しい。


でも、あんまり幸せそうに彼女が寝ているのを見るとつい許してしまいその顔をずっと眺めていたくなる。


頭でも撫でてやろうか…なんて、寝起きの頭でぼんやり考えながら手を伸ばした俺は、あることに気づいてバッチリ目が覚めてしまった。


なんと…

あろうことか、彼女の頭に けっ…けもみみ が……‼︎


いつも天然ボケでふわふわした彼女だが、昨夜はそんなの持ってなかったし、つけて寝た様子もなかった。

彼女が寝たのを確認してから寝たし、隣で彼女が目が覚めてもぞもぞされたら、元々警戒心の強い俺は必ず一瞬は目が覚める。だが、昨夜は俺は一度もそんなことはなかった。


だから、こんな頭飾りを仕込む隙は無いはず…。


朝からそんなボケをされてもツッコミに困るのだが、俺を笑わせようと思ってずっと隠し持っていたのか?


それにしても、よく出来たカチューシャだ。

俺は彼女の獣耳に手を伸ばした。

この耳は犬だろうか。

太陽で温められたのだろうか、ふわふわで暖かい。

毛並みも本物より上質かもしれない。

つい夢中になって、もふもふしていると彼女が小さく笑い声をもらした。うわごとのようにくすぐったいと言ってる。カチューシャにくすぐったいも何も無いと思うが、かなり器用につけられたそれは本物のように思えてくる。


引っ張ったら取れるだろうか。

気になったので軽く引っ張ってみる。

が、予想に反して返ってきたのは彼女の悲鳴だった。


「痛いっ…!」


そう言って薄目を開けた彼女が涙目で何事が起きたのかと確かめようと視線を彷徨わせる。そして、彼女の横で彼女をガン見する形になっている俺と目があった。


「あれ、だーりん起きてたの?」

彼女が目をこすりながら起き上がる。

だーりんと呼ばれるのは俺が恋人だからなのもあるのだろうが、元々こいつが俺の林田の苗字をいじってつけたあだ名だ。


「いつも通りお前のあほな寝顔を眺めてたんだよ。はにーの寝顔は面白いからな」


ひどぉーいとか言ってむくれてる彼女の名前は、相生 葉新。

俺がふざけて呼んでるわけでもなくマジではにい。

緑が綺麗な日に生まれたのだとか。

だったら緑ちゃんとか美樹ちゃんとかもっとマシな名前があっただろうに。だが、この天然ボケな彼女を見てるとこの名前を思いつく親が容易に想像出来てしまうから不思議である。


「なぁ、お前その耳いつのまにつけたんだよ。俺全く気づかなかったぞ。」

俺が笑うと、彼女がきょとんとした顔で自分の頭の上にあるものを見ようと目線を上に向ける。見えるわけ無いのに。ペタペタと触りながら訝しそうな顔をして鏡の方に移動する。

「へっ?みみぃ〜?」

そんな彼女の後ろ姿にまた俺は驚かされる。


「SIPPOO......!?」

なんて奇声を発してしまうほどびっくりしたのだ。まさかゆらゆらゆれるふっさふさの尻尾までついてるなんて。

「お前、ホントそれどうした!?俺を驚かせようっていう目的なら十分…」

そう言っている俺を無視して、鏡の前からドタバタと慌てて戻った彼女は、何かに取り憑かれたように焦りながらケータイのメールをチェックし出した。


「はにー、何して…」

自分でドッキリを仕掛けておきながらこんなに慌てるから、気でも狂ったのかと一瞬心配になったが、そんな心配をよそに彼女はケータイの画面を俺に向けながらにっこりと微笑んだ。

「大丈夫!20歳になったらうちの家族はみんななるんだって!」


「ふぁっ!?」


我ながら相当間抜けな声が出た。大人になったら動物の耳と尻尾が生える家族とか、そんなのないだろう。って、ゆーかそれ、本物だったんだ。


俺がハニーに差し出されたケータイの受信メールを読むと、確かにそこには、

『20歳の誕生日おめでとう!ハニー☆

今ごろ、耳と尻尾が生えて可愛いだろうにゃ〜

もう子供じゃなくなったんだから

自分の力で頑張るんだよ〜Σd(゜∀゜d) 父、母』

と書いてあった。


何ともこのおちゃらけた能天気な感じは親子共通らしい。自分の力で頑張れとしか書いてないのだが…


「それは、どうやったらその…元の人間の姿に戻るんだ?」


俺がそう言うと、ハニーはぽかんと口を開けて何だっけ?というように目を瞬かせる。

そして少し経ってから、

「ええっと…確か、小さい頃からの修行がちゃんと出来ていれば、力のコントロールが自然に身についているから、なりたい自分を思い浮かべれば変身の要領で元に戻れる……んだったかな…?」

彼女が記憶をたぐるように、ゆっくりそう言った。


なんだ最初から教えられていたのではないか。だったらいつも通りの明るい天然な彼女に戻るだけだ。

俺はほっとむねをなでおろした。


「まったく。ずっとそのままなのかと思ったじゃないか。戻せるんだろう?戻ってみたらどうだ。」

俺の提案に少し面倒そうな顔をしたものの、彼女はやってみると小さく頷いた。そして忍者ポーズをしてふんっと勢いをつけて力む。彼女の肩につくくらいの髪がふわっと広がり彼女の周りによくわからない魔法的な風が発生する。

そんな粗末な変身方法で片付いてしまうのかと、少し残念に思いながら見守る。もっと呪文とか秘伝の魔方陣とかないものなのか。そうこうしている間に彼女の纏う風が速度を増した。


ぼふんっ…!


変化の力が頂点に達したのか、若干の空気の破裂の後…彼女がその場にへたり込んでいた。


耳はというと……。




ある。

うなだれた彼女と同じテンションで垂れ下がった獣耳と尻尾がまだ彼女にはあった。


彼女がゆっくりと顔をあげ、バツの悪そうな顔をして言った。

「小さい頃ね、修行に行くぞって言われて楽しい遊びだと思ってついていったら、古くて狭い蔵に閉じ込められて、それ以来またあの蔵に入るのが嫌で逃げ回ってたから、修行が足りてないのか今の私じゃ力の制御が出来ないみたい…テヘペロ☆」

と目元ピースのベロ出しウインクをしてみせる。


これはかなり後に、彼女の親族に聞いた話だが、年に一度、先祖代々の超強力パワースポットである蔵に入って身を清めるのが一族の変化を操れるようになる条件の1つなのだそうだ。しかも短時間。葉新も短時間で出してもらえるはずが、運悪く一族内で騒動があったおかげで忘れ去られ、発見された時には身の清められすぎで力に体が耐えきれなかったためか高熱にうなされて倒れていたそうだ。


というか、テヘペロ☆で済む問題なのだろうか。

あんまりにもお気楽に言われるとそうゆうものなのかと流されそうになる。

「それだけしつこく修行させられるという事は、その、力の制御とやらが出来ないとマズイのではないか…?」

俺がそう言うとハニーは、Oh!ソレネー!とでも言いそうな胡散臭い外国人ノリのポーズをしながら言った。

「昔読んだうちに伝わる古い絵本では、修行をサボった男の子が力が抑えられなくなって、本物のネズミになってネズミの寿命までしか生きれないっておとぎ話もあったよ!」


彼女は覚えてるのすごいでしょ、とでも言いたげにえっへんとふんぞり返っているが、これは由々しき事態なのではないだろうか。もし、その寿命のカウントが人間の0歳児からだとしたら多くの場合、即寿命がきてしまうのでは。


そんな俺の心配をよそに彼女は自分の獣姿を楽しんでいるようだ。

「私ね、猫さんみたいになるのが夢だったの!ふわふわの毛並み、自由で気ままな生活!なんて素敵なの!」


そう言ってよくわからない踊りを踊りながら尻尾をふっている。

まてまて。その尻尾、猫か?そいつは犬の尻尾ではないだろうか。


「お前、それ猫じゃなくて犬だぞ。」


犬種はチワワあたりか。ピンっと立ったキャラメル色のふさふさの耳と少し毛の長いふさふさの尻尾。そして、きゃんきゃんと落ち着かないこいつの性格からしてぴったりだ。


俺が告げた事実がかなりの衝撃だったらしい彼女は何をおっしゃるんですか!というような視線を俺に向けて固まっている。そして、突然目を潤ませてこう言ってきた。

「なっ…!こ、こ、こんなに、猫さんに憧れた私が犬なのっ!?ね、ね!だーりん、何とかしてよぉ〜」

にゃんころん!にゃんころん!と言いながらベッドの上を駄々をこねるように転がりだす。


いや、俺に言われても何にも出来ないのだが…と思いつつ、彼女をなだめるために少し遊んでやることにした。


「なぁ、ハニーよ。俺がお前が猫と犬どっちの属性か見分けてやるよ」

俺がそう言うと、さっきまで駄々をこねていた彼女は、シャキッと起き上がってベッドの上に正座をする。犬で言うおすわりに値するだろう。

「なに!?なに!?そんなことできるの!?」

目を輝かせてあんまりにもじぃっと見てくるので、試しに定番の号令を出してみる。


「俺の言う通りにしろよ〜?ハニー、おて!」

というとすかさず、彼女のグーにした右手が俺の手の上に差し出される。おかわりも同様。

そして、褒めて♡と言わんばかりの誇らしげな表情。

よーし、よし、よしと頭を撫でてから次の実験。


彼女の前で猫じゃらしをゆらす。普通猫なら、興味を持ってガン見している所だが、彼女はそれなぁに?といった感じで小首を傾げている。本当の使い方とは違うのだが…俺は手に持っていた猫じゃらしをポイッと空中に投げた。


すると彼女はすかさず猫じゃらしの投げられた方に飛んで行き空中キャッチ!して誇らしげに戻ってきた。

これは、もう…


「犬だな。」


俺の一言にしまった!という顔をして彼女が猫じゃらしを取り落とした。

認めざるを得ない現実に彼女の悲しい遠吠えが朝のご近所にこだましたのだった。

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