始まり始まり
わお..周りを見渡せばファンタジー
活気あふれる通りを歩く人は鎧を着ていたりする、決してコスプレなんかじゃない。荷馬車の走る道にコンクリート舗装はされていない、砂ほこり臭いのはご愛敬かな?いくつも並ぶ露店には見たことのない魚や果物が売られている、あれって魔物の肉だったりするのかな?
「なあ、あそこに吊るしてある生肉ってさ..牛とか豚の類じゃないよな?」
「ええ、ゴブリンの肉ね。ゴブリンの肉は腐りにくいし虫も寄ってこないからね、あまり大きくない町では重宝されるのよ」
そう答えたのは金髪碧眼の美人だ。
いや...美[人]というと語弊がある。彼女は吸血鬼らしい、それも真祖とかいうやつだ。真祖っていうのがよく分からないけど、吸血鬼くらいは知ってる、知っているはずなんだが...
「ねえ?こんな真っ昼間から出歩いて大丈夫なの?ぐわぁーあついぃー、とか言って灰になったりしないの?」
「バカにしないでよ、私は叡智と生命を約束された真祖なのよ?あなたの頭の中にある弱弱しい吸血鬼と一緒にしないで」
なかなか威圧感があり透き通った声で答える、これで俺の日焼け止めクリームを腕に塗っていなければ完璧なんだけどなぁ...
「そんなにその日焼け止めが気に入ったの?あと一本あるからいる?」
「あら、ありがとう。これ良いわね」
「真祖様なのに日焼け止めが必要なんだね」
「これはすごく便利な道具よ、あなたはこれと同じものを作れたりしないの?」
「うーん、ちょっと成分表をみせて....あー、ごめん。どう頑張っても作れそうにないわ、むり」
「そう、残念ね」
俺がこの異世界に来る前に衝動買いしたお買い得日焼け止めが物凄い勢いで消費されていく、なんだかもったいない。
そろそろ本題に入りたいなぁ
「でさ、結局のところ俺はどうすれば良いのよ。ぶっちゃけ、この町の神殿だか教会だかに来る理由も把握してないし、予想もつかないんだけど」
「そうね、それじゃあ、先に宿を取ってからゆっくり話すわ。」
どうやら一息つけるらしい、半日近く移動を続けたから足がくたくただ。
そう...半日しかたっていないんだよな。俺がこの異世界に来てから...
買い物を終えてすぐの事だった。
夏休みに入るために大量に購入した色々なモノをリュックにつめて車道を横断しようと思った時だった。いきなり目の前が真っ暗になって、視界が回復した時には救急車のサイレンが聞こえた。車にはねられたんだと思う。けど、車がいた記憶もはねられた記憶もない。ただ眠くて、けど、妹の誕生日も近いから、なんか寝ちゃダメな気がして。
眼が覚めたら城の中だった。
ドラゴンクエストの王さまがいるような謁見の間みたいなとこだった。玉座にはすっごく綺麗な金髪美人が眠ってた。寝てるところ悪いけど、いろいろ訊きたい事や不安があったから起こそうと思って近づいたんだ。んで、声をかけてもだめだし、英語で話しかけても反応しないし、肩を叩いてみても反応がないからちょっとだけおっぱいを揉んでみよう思って、良心と下心の狭間で葛藤してたら彼女が目を覚ましたんだ。少し残念だった。
「やあ、エクスキューズミー、金髪さん」
「...」
「あれ、寝起きだから寝ぼけてるのかな?」
「...あなたは誰?それとなんでここにいるの?」
「ああ、それは俺が訊ねようと思っていたんだ。ここはどこなんだ?あ、俺は響介、一禅 響介だよ。よろしくね」
「へえ、キョースケね。質問には答えるけど、さきに確認したい所があるから、その後でもいいかしら?」
「うん、もちろん。どこに行きたいの?」
「最寄りの教会よ」
で、今に至るというわけだ。
道中で色んなことを話した、俺が異世界の人間だってこととか、彼女が吸血鬼の真祖っていう存在だとか、ドラッグストアで買ったどら焼きが美味いとか、彼女は甘いものに目がないとか、けど、俺がこの異世界に来てしまった辺りの理由は答えてくれない。たぶん、口ぶりからして知らない訳でもないし、はぐらかしたい話とかでもないみたいだ。順を追ってしっかりと説明してくれるだろう。
「さて、休憩もかねてキョースケの知りたいことに答えるわ」
宿のチェックインを済ませた俺たちは一室で向き合っている、あらためて凄く綺麗だ。宿屋のおっさんもコイツのことをじろじろと見ていたもんな、本当に綺麗だ。しかし気になる。
「教会に行かなくていいの?話はその後だと思ってたよ」
「ええ、教会は明日の方が都合がいいのよ。予想以上に早く町についたからね、話をしておこうと思って」
「ふーん、まあ俺としては好都合だよ」
何か裏があるのかと思ってしまう。
まあ、そうであっても訊きたいこと早くに聞けるのは助かる。さて、まず一番気になっていたことが...
「あらためて、俺は一禅 響介だよ。君の名前は?」
「私に名前は無いわ。真祖の吸血鬼よ」
「んー、名前はないのね。なんて呼べばいいのかな?」
「そうね、キョースケって名前を貰ってもいいかしら?」
「え!?いや、流石にそれは..いろいろとダメでしょ?」
「そう。ならあなたが私に名前をつけて?」
「いきなりそんなこといわれてもねぇ」
「私もいきなり無いものを尋ねられたのよ?」
「ああ、確かにそうだったね。それじゃあさ、何かいい名前が思い浮かんだらそうするよ。けど、あんまり期待しないでほしいな。人に名前なんて付けたことはないからさ」
「どんな名前でも頂くわ」
予想外すぎた...
名前がないってことは、今までだれかと会話をしたことがないとか、人と関わり合ったことがないとかそういうことなのかな。しかも、付けてって言われても本当にどうしようか悩む。俺は彼女のことを何も知らないわけだし、いや、真祖の吸血鬼で甘いもの好きってことは知っているか。そもそも、真祖の吸血鬼って何なんだ?
「なあ、真祖の吸血鬼ってさ、何なの?」
「そうね、どう説明すればいいのかしら。あなたが惑星の概念を知っていれば簡単なんだろうけど...」
「惑星って星のことでしょ、宇宙空間にあるアレ。たぶん、俺のいた世界はこの世界よりもいろいろな面で水準が高かったんだ。ある程度のことは知ってるよ」
「そう、なら話が早いわね。神によって惑星が創造されたときに、惑星の代理人を設けることがあるのよ。その代理人が私よ」
「ん?ちょっとまって、神によって惑星がつくられた?神様が惑星をつくったっていうの?」
「そうよ、あなたは惑星の誕生を知らないの?」
「いや、たしかに詳しいことは知らないけども、俺たちの世界では、っていうか国では神様って存在が信じられていないし。惑星を研究をしている人たちも神様が惑星を作ったっていうよりは、なんかの現象に基づいて形成された存在だって認識してる、と思うよ」
「...そう、キョースケの世界では惑星は神がつくったものじゃないのかもね。けど、私たちの世界で惑星は神によって創られたものよ」
「へえ、世界によって変わるものなんだろうね。いや、知らんけども」
「まあ、私もキョースケの世界に行ったわけじゃないし、確信は持てないけどね。でも、宇宙空間にある星っていう概念はあるなら十分よ。それで、惑星の代理人っていうのはね、その名の通り惑星に代わって惑星を維持する者よ。惑星はね、誕生した時点で消滅までの記憶を内包しているのよ。その記憶の通りに事を進めるのが代理人の役割よ。つまり私の役割ね」
「ん?記憶が内包されている?惑星はつくられた時から結果が決まってるってことなの?消滅するまでの過程とかそういうのも」
「だいたいは決まっているわ。ただ、惑星は誕生した時点の記憶を内包しているから、それより未来の事、外部の影響は考えてないのよ。つまり、記憶通りに進むには不確実すぎるから、惑星の代理人を設けることで記憶を確実なものにするのよ」
「えっとさ、まとめると。君は、この惑星を決められた通りに動かす代理人。惑星は、なんでか分かんないけど、始めっから終わりまでの間を決められたとおりに動かないといけないのね」
「そういうことよ、だから真祖の吸血鬼って凄いのよ?」
「随分と規模のでかい話だね、驚いたよ」
「惑星だからね」
なるほど、すごいお方だったのか。
しかし、疑問が残る。惑星の代理人がなんで俺の話を聞いてくれる?もっと忙しかったり、人間一人にかまっているほど暇には見えないけどな。
「あら?その顔は、なんで俺にかまってくれるのか分からない。って顔かしら」
「..読心術なんて持ってるの?」
「ただそう思っただけよ。それに読心術なんて便利なものはないわ。人間の情報を知るには吸血をする必要があるのよ」
「吸血!!??ほんとに吸血鬼なんだ..」
なんか怖くなってきた。
もしかして、血を吸うために俺に協力をしてくれたとか?だとしたらやばいぞ。この相談料で何CC吸われるんだ。
「吸血鬼についても説明する必要があるみたいね」
どうやら顔に出ていたらしい。
「吸血鬼を知るには血の話をする必要があるわ。けど、生命システムについて話しても頭がパンクするでしょうからまたの機会でね」
「ああ、じっさい、いろいろとあたまがこんがらがってるよ」
「簡単に吸血鬼について教えとくなら、真祖は吸血をする必要はないわ。吸血をしなくても、吸血と同等の効果を得ることが可能なのよ」
「っていうことは、俺は血を吸われなくても大丈夫って事?」
「そういうことよ、だから怯えないで。私はキョースケを傷つけないわ」
なんだ。勘違いだったのか。
彼女はたぶん、俺の味方であってくれるんだな。よかった。それなら彼女のことはこれくらいにして、もう一つ訊きたい事がある。むしろ、これさえ分かれば十分だろう。
「なあ、俺は元の世界に帰れるのかな?」
手も声も震えていた。
彼女は俺のことを知らない。少なくとも異世界の人と認識はしてくれたが、それは俺の世界を知っていたからではない。日焼け止めクリームがあったからだ。そして、俺の世界を知らなければ帰る方法なんて..いや、そもそも俺は生きているのか?車にはねられたのなら死んでしまったのでは?ああ、ほら、嫌なことばかり考えてしまう。汗が止まらない。怖い...
「可能よ」
手の震えが収まった。
たった一言で、心が落ち着いた。汗が急に冷えたように感じられた。
「それは本当か?」
気がつけば彼女の肩をつかんで、綺麗な碧眼を見つめていた。
「ええ、確実ではないわ。でも、十分に心当たりがあるのよ、安心して」
ああ、そうか。
「うん、ありがと」
帰れるのか。
「そっか」
妹の誕生日に間に合うのかな。
「良かった」
「でもね?キョースケ?なんだか、嫌な予感がするのよ」
この世界に来て初めてだ。
彼女が険しい顔を見せた。心が凍り付いたほどに冷えた。震えを震えで抑えつけたような違和感だ。
「嫌な予感?」
「私は本来ね、代理人の機能を果たす節目に目を覚ますのよ。それ以外の理由で目を覚ますのは、何かの緊急事態があったときか、それが予測できたときよ」
まさか、おっぱいを揉もうとしたことが...
「ごめん!すごく魅力て「恐らく、とてもまずいことが起きているのよ。この惑星でね」
ああ、違ったか。
「まずいこと?」
「ええ、この時代か、未来か、過去か、分からないわ。でも、惑星の記憶を覆すような事態が起きているのは間違いないわ」
「そっか」
「ところで、さっき何か言いかけた?」
「なんにも?」
彼女に読心術がなくてよかった。
「それと、あなたにの相談に乗っている。この疑問についても答えるわ」
ああ、その回答はまだもらってなかったな。
「勘よ、あなたと一緒にいなければならない気がしたのよ」
なんだか、思っていたより自由だ。
惑星の代理人とか、真祖の吸血鬼っていうくらいだからイメージしてたのはもっと違うものだったけど、なんだか、そう、自由だ。
「そろそろ食事にする?」
「ああ...]
「どうしたの?体調が悪いの?大丈夫?私は人間の体に詳しいわけじゃないし、ましてや異世界の..」
「いや、いい名前が思いついたんだ」
「名前?それって私の名前?」
キラキラ瞳を輝かせている。この名前を気に入ってくれるだろうか。
「ああ、君の名前だよ。名前はリベルティ、俺の世界では自由って意味なんだ。少し格好つけた言葉にしたけど..」
「リベルティね...素敵な名前ね。気に入ったわキョースケ、私の名前リベルティよ。キョースケ、忘れないでね」
「ああ、忘れるわけがないよ、リベルティ」
「リベルティ・キョースケ..か」
「え?ちょっとまって。なんで俺の名前が入ってるの?リベルティ・キョースケっていろいろと変じゃない!?」
「いいじゃない、あなたは イチゼン キョースケって二つも呼び名があるのよ?私も二つくらい欲しいわ。片方は頂いて、片方は付けてもらってもいいじゃない。それじゃあ食事に行くわよ!」
元気にはしゃいでいる。
なんだか、こう、恥ずかしいけども、悪い気分じゃない。うん、お腹もすいたし、まずは食事にしよう。
「いこっか、リベルティ」
「うん!」
この世界の食事ってどんなものなんだろうか?
頼むからゴブリンの肉は勘弁願いたい。




