恋愛実践録97
愛人の奢り高ぶりの間隙を縫って付け入る隙はあると客は断じる。
だが怨嗟や呪詛だけでは愛人に勝てない事も、客は重々承知している。
周到綿密なる計算と、配下の者達との絶対の信頼感だけが、己に勝ち目を導くのだ。
人というのは概ね色と欲でしか動かないのだが、それを与えた上で、そこにプラスアルファ理念が加味される事も真理と言えるだろう。
仲間の心に訴え掛ける我が心の奥底から滲み出る悲しみや寂しさは、それ則ち清廉潔白なる正義の哀訴、訴え掛けとなる分、強圧的な権勢を背景にした悪そのものである愛人のそれよりは絶対に強いと断言出来る。
愛人の奢り高ぶりの間隙を縫って付け入る隙はあると客は断じる。
だからこそ、ホスト亭主を影として配した今回の奇襲作戦は成功したのだ。
しかし今回の事で愛人側の防備は油断を排し、より一層堅牢なものとなる事も間違いない事実だと客は思う。
愛人側は内部に内通する者がいるとして、その洗い出しに躍起となっている。
その洗い出しに、こちら側の仲間が口を割るかどうかを客は瞼を閉ざし黙考する。
心の襞を細やかにまさぐるような、そんな間合いの後、客は至高なる正義に裏打ちされた信頼関係は、けして崩れる事は無いと断じ、緊張感を抜くように息を吐き出した。




