92/163
恋愛実践録92
「客が命を懸けて俺を助けてくれたのだから、俺はその命に応えて、己の命を粗末にするわけにも行くまい。それが俺の客への恩返しだと思うしな…」とホスト亭主は自答した。
ホスト亭主の自問自答は続く。
「しかし客はこの顛末でさようならをお前に告げたのではないのか?」
「だからこそ痴情戦争の推移を静観するのだ。下手に動けば、俺は客の足を引っ張りかねないしな…」
「それはそうだが、それ則ち完全なる離別、さようならではないのか、お前の気持ちはそれで良いのか?」
「仕方ないではないのか。客がそれを望んでいるならば、そうするしか道は無いしな…」
「本当にいいのか。本当にそれでお前の気持ちは収まるのか?」
ホスト亭主が再度涙ぐんだ後、それを客の仕種と同じように指で拭い、自答した。
「仕方あるまい。客が命を懸けて俺を助けてくれたのだから、俺はその命に応えて、己の命を粗末にするわけにも行くまい。それが俺の客への恩返しだと思うしな…」




