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恋愛実践録87
「全面戦争のただ中にいる夫婦が私達夫婦ではありませんか。違いますか?」と客は言った。
旦那が横目で客を見遣り言った。
「お前は何を企んでいるのだ。何か俺に対して罠を仕掛けたと言うのか?」
前方の暗がりを凝視したまま客が答える。
「貴方が何もしていないと主張するのと同じ程に、私は何もしていません。ただ私達は全面戦争のただ中に在るという事実を私は申し上げているだけです」
「戦争には罠や計略は付き物だと、お前は言いたいのか?」
客が抑揚の無い声で答える。
「それはノーコメントです。自分の胸に聞いて下さい」
旦那が苦笑いして言う。
「罠を作った者が罠に掛かれば、その罠を仕掛けた者も又罠に嵌まるだけではないか。その道理は分かっているのか?」
客がしたたかに言って退ける。
「それが恐れを知らない戦争ではありませんか…」
旦那がほくそ笑み尋ねる。
「俺達は夫婦じゃないか。戦争なんて無意味ではないか?」
客が無表情のままに答える。
「全面戦争のただ中にいる夫婦が私達夫婦ではありませんか。違いますか?」




