恋愛実践録83
「これは既に戦争、応酬戦なのです。私を甘く見ないで下さい」と客は旦那に言った。
車の助手席に乗った客が自分の電話でホスト亭主に連絡を入れたのだが、繋がらないのに苛立つ。
それを横目で見遣り、旦那が押さえ付けるような口調で言った。
「まだ気絶したままだから出ないだろう?」
客が留守録に「すいません、返信を下さい」と入れ、電話を切ったのを見計らい、旦那が念を押すように言った。
「こうして俺達は寄りが戻ったのだから、あの男の事は諦めてくれ。むしのいい話しかもしれないが、俺は浮気に決着をつけたのだから、お前も浮気に決着をつけてくれないか?」
客が心配事を吐き出すように深呼吸してから改まった口調で言った。
「私はこのの浮気騒動がこれで決着がついたとは思っていません。と言うよりは、私達は既に復讐劇の応酬戦のただ中にあり、その憎しみや怨嗟がこの程度の猿芝居で抜けると考える程、私は甘くはありません…」
旦那が顔をしかめ言う。
「それはどういう意味だ?」
客が般若の如く顔付きをしてから言下に言い放った。
「これは既に戦争なのです。あなた方が罠を仕掛ければ、こちらも罠を仕掛けれるまでです。私を甘く見ないで下さい…」
「俺は罠なんか仕掛けていないぞ。それが証拠に俺はお前に危害なんか加えていないじゃないか?」
客が再度答える。
「これは応酬戦なのです…」




