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恋愛実践録76
「人の善意を無にすると罰が当たるわよ。この意味は分かるかしら?」と愛人は言った。
愛人がなぶり者にされているホスト亭主に向かって言い放つ。
「さあ、影さん、痛いと大声を上げて、隣にいる貴方の最愛の人に助けを求めるのよ。そうすれば、貴方も事の顛末を生きて見届ける事が適うし、最愛の人も志通り本の鞘に戻れて万々歳じゃないの?」
手の平を力任せに踏みにじられ、ホスト亭主がその激痛に思わず苦悶の声を上げようとするが、何とか堪える。
それを見ながら愛人が小悪魔さながらに微笑み言った。
「やせ我慢もどこまで続くのやら。私や隣にいる旦那は言わば善意で、救世主よろしく貴方方二人を救ってやろうと言っているのに、何故その善意が分からないのかしら、影さん?」
何を言われようと、一切口を割らず、満身創痍になりながらも、ホスト亭主は客との約束を守り通し、のたうちまわりながら辛抱している。
愛人が悪意しか無い笑みを頬に湛えて悍ましい程に優しく言った。
「人の善意を無にすると罰が当たるわよ。この意味は分かるかしら?」




