恋愛実践録70
「急所を責めてやるのが慈悲なのよ」と愛人はうそぶいた。
愛人が聞き耳を立ててから愉快そうに言った。
「あら、旦那さん、開き直って怒鳴っているみたいよ。影さんが、影を返上して助けて上げないと、奥さん殺されてしまうのじゃありませんか。皆さん、影さんが、影さんを返上出来るように、もっともっと痛みを与えて声を出させて上げましょうよ?」
愛人の命令に従い、三人のボディーガードが銘々順番にホスト亭主に蹴りを入れて行く。
派手な打撃音がしない分、その打撃は骨の髄まで効いていて、その激痛にホスト亭主は叫び声を上げそうになるのだが、額に脂汗を浮かべて、ひたすら堪えている。
愛人がその光景を愛でるように見詰め、うそぶく。
「このリンチは、影から人間への変身を手伝って上げる、言わば愛の鞭リンチね。愛の鞭は強ければ強い程に、愛が強いのよ。皆さん、この言葉の意味お分かりね?」
スキンヘッドのボディーガードがホスト亭主の太股の外側に前蹴りをいれ、ホスト亭主は吹き飛ぶように倒れ込み、激痛にのたうちまわるのだが、声は出さない。
愛人がけたたましく笑い言った。
「そうよ。影ではない人間には急所があるのよ。そこを責めれば、声を張り上げ、人間様に戻るから、急所を責めてやるのが慈悲なのよ?」




