恋愛実践録66
「旦那行っちゃったわよ。あんたも早く行って話しつけたら。二人でね!」と愛人が客に向かって喚いた。
涙ぐんだまま客が愛人に質問する。
「何故私の要望を受けてくれないのですか。貴女と私の元旦那は愛し合って一緒に暮らしているのだし。何故ですか?」
余裕しゃくしゃく涼しい顔付きをして愛人が答える。
「そんなのは簡単よ。私に好きな人が出来た。だからあんたの旦那は邪魔なのよ。その言葉を言い換えれば、この場で熨斗を添えてお返しすると言う事よね。分かる?」
客が旦那を一瞥してから再度尋ねる。
「元旦那はそれを承諾したのですか?」
旦那は一点を凝視したまま無表情を決め込み、一切言葉に反応しようとしない。
愛人が客の言葉をあしらうように答える。
「さあ、あんたが受け入れる、受けいれない、それはあんた方二人の問題だし。私には関係無いし。そんな話し聞きたくないから、別の部屋に行って、そこで二人で決めたら?」
その言葉に弾かれるように旦那が無表情のまま立ち上がり、別室に向かって歩き出したのを、愛人が指差し喚いた。
「ほら、旦那行っちゃったわよ。あんたも早く行って話しつけたら。二人でね!」
客が念を押すように頷き、寄り添うホスト亭主を振り切り、置き去りにして、旦那の後を追い、別室に入り、姿を消した。




