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恋愛実践録60
「いえ、発言は控えて全て見届けて欲しいという意味合いの立会人です」と客がホスト亭主に言った。
ホスト亭主が心配げに言葉を繋ぐ。
「愛人は自分に言っていた通り、旦那さんに愛想尽かしている可能性もあるし、そんなに上手く行きますかね?」
客が涙ぐみつつ答える。
「いずれにしろ、出たとこ勝負、機転を利かすしかないと思うのです。ただ…」
ホスト亭主が訝る。
「ただ、何ですか?」
「向こうは旦那が立会人みたいなものだからか、宜しかったら貴方に立会をお願い出来ませんか?」
「立会人と言うと、発言権はあるのですか?」
客が否定する。
「いえ、発言は控えて全て見届けて欲しいという意味合いの立会人です」
「無言の立会人ですか?」
客が恭しく頷き答える。
「そうです。お願い出来ますか?」
「絶対に喋ってはならないのですか?」
客が意を決するにように言った。
「断じて…」




