恋愛実践録6
「そうですね。愛人は妻になれば棄てられる道理と、妻は愛人になれない道理は同義ですからね?」とホスト亭主は言った。
ホスト亭主が言う。
「でも旦那さんだって結局寂しいから、最終的には貴女のところに戻って来る公算が高いですよね?」
客が否定する。
「いえ、あの人は今盛りだから、愛人が齎す華やかさと快楽に酔って、寂しさを忘れている時期だから、愛人としての華やかさが無い空気みたいな私の本には戻って来ないと思います…」
「成る程。盛りの時には群れを成して後尾し、その分、その若さの驕り高ぶりが、寂しさを麻痺させ遠ざけますからね?」
客が頷き答える。
「盛りの最中の男は、生活感滲み出る女ではない妻などには見向きもしませんから。寂しさなんかまるで感じてはいないのですよ」
ホスト亭主が客の顔をしげしげと見詰めてから言った。
「でも貴女は十分その泣き黒子がチャーミングで綺麗だし、生活感なんか、まるで漂っていないじゃありませんか?」
客が首を振りホスト亭主の意見を否定する。
「一緒に長年連れ添った夫婦と言うのは、妻の方がいて当たり前の空気みたいに成り下がり、それはそのまま生活臭となり、例えば私がどんなに着飾り、化粧しても、先入観として盛りの旦那の中に植え付けられた妻イコール生活臭の認識は消えないのが常ですよね。だからその生活臭から抜け出す為に、殿方は盛り場に赴くわけだし。盛り場には生活臭はなく、そんな生活臭から解放された華やかさしかありませんかから、畢竟盛り真っ只中の旦那は私の処には戻っては来ません。それは断言出来ますね」
ホスト亭主が頷き肯定する。
「そうですね。愛人は妻になれば棄てられる道理と、妻は愛人になれない道理は同義ですからね?」
ホスト亭主の言い回しに客が泣き笑いの表情を浮かべ言った。
「だからいつまでも経っても妻は愛人には勝てない宿命と言うか、愛にはぐれてしまえば寂しい存在なのですよね…」
ホスト亭主が首を傾げ反論する。
「でも世の中には旦那と愛人の不倫を論って糾弾し、不倫損害賠償を勝ち取るつわものの女房族もいるじゃありませんか?」
客が首を小刻みに振り反論する。
「日本人は総じて判官びいきですから、そういう法律で地位権利を保障された強者としての妻よりは、弱者である愛人に旦那の同情は集まるのが常じゃありませんか。それを思うと、私は糾弾損害賠償なんか絶対に請求したくありませんし、かと言って旦那の盛りが去るのを待つほど老婆でもないから、こうして寂しさを持て余し、貴方に相談して気を紛らわしているわけなのです…」
「男も女も罪深くて、でもそれが逆に魅力になっていたりしますから、世間は本当に難しいですよね?」
客が気を執り成すように言った。
「でも私、ここに来て少し旦那の気持ちが分かったような気がします。ここに来ると、私の中にある妻の生活臭は確かに抜け、成り切り擬似恋愛でも、私は貴方の前では愛人になれますから…」
ホスト亭主が頷き言った。
「そうですね…」