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恋愛実践録53
添い遂げられない恋の証である辛い命懸けの宣誓を貫徹し、逃げてはならぬ、中央突破するしかないと、ホスト亭主は念じた。
ホスト亭主は考え続ける。
客との宣誓を貫徹するのが道理、我が道標ならば、ここですごすごと逃げては男が廃るとホスト亭主は念じる。
言うならば、復讐劇は未だ終わってはおらず、例えば自分が愛人に命を狙われているとしても、それは言わば劇中の対決姿勢の継続顕れであり、劇の途上ならば尚更宣誓に則り逃げるわけには行かないとホスト亭主は思う。
この復讐劇に負ける事は、命を失う事に成りかねない。
だがそれは本より命懸けの顛末ならば、潔く命滅するが男の真価だと思う。
しかしと念じ、ホスト亭主はひとしきり瞬きを繰り返し思う。
自分には妻子がいる。
己の命を懸けるのは全うき妻子への愛の成就であり、それを思うとここは逃げの一手にも正当性はあるし、客はそれをけして咎め立てはしないと思う。
ホスト亭主は己を奮い立たせるように深呼吸した後、一つ身震いしてから結論を出した。
添い遂げられない恋の証である辛い命懸けの宣誓を貫徹し、逃げてはならぬ、中央突破するしかないと。




